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第三章110 『人間ロケット、発射よぉーい!』


「なぁ・・・島田」

「どうした加藤?」

「この作戦、流石に頭 悪すぎると思うんだが・・・」


 優に7メートルを越す背丈の巨人。その岩盤のごとし巨大な掌に すっぽり と納まっている加藤は島田に苦情を申しつける。


「仕方がないだろ。これが唯一、《魔導騎兵(ドラグーン)》に()()作戦なんだ」

「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

「お前っ・・・さっきも説明しただろう。聞いていなかったのか」


 島田は、頭を抱えて溜め息を 1つ吐いた。


「お前が この作戦の要なんだぞ」

「いや、作戦の内容は理解してるよ。ただ、この作戦が上手くいく気がしねぇんだよ。なぜなら頭がおかし過ぎるから」

「俺の作戦がおかしいのは認めるよ。だけど、そもそも(そら)を猛スピードで飛ぶ敵を 生身で倒そうとすること自体 おかしいだろ」

「ぅ・・・まぁ、確かに」

「加藤・・・さっきも言ったように、この作戦は お前が(かなめ)なんだ。不安なのは分かるが、しっかり覚悟を決めてくれ」

「ーーー〜っ! 分かったよ!!」

「それじゃ、時間もないから さっさと始めよう。合図はアゲハが送るから、加藤は それまで待機だ」


 そう加藤に言いつけて、島田は場を後にする。

 作戦の指揮を取るため、仲間全員に指示を送れる場所に向かったのだ。

 こうなれば、あとは作戦を実行に移すだけ。

 あと1分か、早くて数十秒後に、加藤の出番がやってくる。

 それまで身を縮めて じっ と巨人の掌で待つ加藤。


「・・・ぅ」


 加藤は、緊張で少し気持ち悪くなる。

 当然だ。

 あと少ししたら、加藤は人間ロケットのごとく空高く打ち上げられるのだから。

 何かを考えていないと緊張でおかしくなりそうなので、加藤は先ほど島田から伝えられた作戦を振り返る事にした。





***************





 つい4分ほど前。


「よし!! 島田、時間もねぇから お前の“策”ってのを教えてくれ!!」


 拳で掌を鳴らした加藤。

 それを合図に、島田は素早く作戦の説明に入る。


「作戦は単純明快。加藤が《魔導騎兵(ドラグーン)》を斬り伏せる。これだけだ」

「斬り伏せるって・・・兵庫 1人が《魔導騎兵(ドラグーン)》に攻撃するって事? 私たち皆んなで戦うんじゃないの?」

「あぁ。俺たちの中で《魔導騎兵(ドラグーン)》にダメージを与えられるのは、おそらくーーー」


 島田は、巨人を見上げる。


「巨人さんか、、、」


 次いで、加藤に目を向けた島田。


「加藤の 2人だけだ」

「ぬぅ、確かに人間の(わらべ)の言う通りだわいのぅ。娘の《魔人》と《混血種(ネフィリム)》は、血中魔力濃度がまだ低い。彼奴(きゃつ)を仕留めるだけの攻撃は放てんだろうに」

「? えぇ・・・巨人さんの言う通り、アゲハとナノデスは火力にかける。だから、今回は加藤の攻撃の補佐に回って欲しい」

「うん・・・マサルが そう言うなら良いけど」

「ナノデスも良いのです。安全圏からの補佐ならバッチ来いなのです」

「ありがとう 2人共。それで話を戻すがーーー、」


 島田は空を指差す。


「敵は上空を旋回している。つまり倒すには、敵を地上まで引き摺り下ろすか こちらが上空に向かう必要があるが・・・前者は現実的じゃない。制空圏を握っている《魔導騎兵(ドラグーン)》が のこのこ と地上に降りてくる訳が無いからな」

「だったら、兵庫が空まで行って《魔導騎兵(ドラグーン)》をやっつけるって事?」

「あぁ」

「ちょっと待ってくれ」


 島田の言葉に反応したのは、無論 加藤だ。


「いくら俺が《部分強化(ポイントアーマー)》で足を強化できるといっても、雲の上を飛んでいる奴になんか届かないぜ?」


 《魔導騎兵(ドラグーン)》が飛んでいる正確な高度は分からないが、10や20メートルの高さではないだろう。

 いくら人の何倍もの脚力を出せる加藤といえど、到底 届く距離ではない。


「それについては考えてある。加藤を空に連れて行くのはーーー」


 島田は、再び巨人を見上げる。

 象のような、意外にも(つぶら)な目をした巨人と目があった島田。


「巨人さんにお願いしたい」

「ぬぅ?」

「巨人さんが さっき地面から出した巨大な槍。あれと似たような石柱を もう一度 出してもらいたい」

「そっか、兵庫を 巨人のオジサンが出した石柱に乗っけて空まで伸ばせば、《魔導騎兵(ドラグーン)》と同じ高さまで行けるね!」

「あぁ。そうなればーーー」


 島田は、最初に《魔導騎兵(ドラグーン)》が取り外した右腕を思い出す。加藤が日本刀(かたな)から飛ばした斬撃により破壊された腕だ。


「加藤の一撃で、《魔導騎兵(ドラグーン)》を破壊出来るかもしれない。上手くいけばだが・・・」

「上手くいく?」

「上手くいく可能性は充分あると思う。加藤の攻撃は 奴に効く訳だし・・・巨人さんが 加藤を《魔導騎兵(ドラグーン)》と同じステージに連れて行ってくれれば・・・」

「むぅ・・・すまんが 人間の(わらべ)よ。それは無理だ」

「は!?」

(われ)の魔力は、すでに枯渇しておる。もう魔法を行使するだけの魔力は我には無い」

「・・・えっ! じゃあ、、、加藤を空まで連れていくのは・・・」

「魔法では無理じゃのぅ」


 淡々と言った巨人。

 さっそく、島田の作戦は水泡に帰してしまった。

 加藤を上空まで連れて行けない以上、《魔導騎兵(ドラグーン)》を倒す術は島田たちには無い。

 だがしかしーーー。


「ーーー安心せい、人間の(わらべ)よ」

「えっ?」

「魔法は使えんが、《魔人》を上空まで連れて行く事はできる」

「どうやって、、、ですか?」

「我が《魔人》を空高く投げるのだ」

「ーーーは?」





***************





 そうして、今に至る。

 島田の作戦と巨人の提案により、加藤は人間ロケットのごとく空に投げ出される訳だが・・・。


「はぁーぁ」


 深々と溜め息を吐く加藤。

 当然だ。

 言うなれば、今の加藤は手榴弾のような物。

 投げられ、敵を破壊する。

 およそ人間がする事ではない。

 不意に、げんなり とする加藤に巨人が話しかけてきた。


「安心せい《魔人》よ」

「! 何がだよ?」

「魔力感知で《魔導騎兵(ドラグーン)》が飛んどる高さくらい分かる。彼奴(きゃつ)め、見た目よりだいぶ低い所を飛んでおるぞ」

「低い所って言っても、雲の上だろーが。巨人のオッサンは雲の上まで投げられた事あんのか?」

「無いな」

「だったら、安心せい とか適当なこと言うなよ」


 加藤の棘のある言葉に巨人は眉を寄せる。


「なんだ? 彼奴(きゃつ)を倒したいと言ったのは貴殿であろう。倒す機会を与えられたのに なぜ嘆く?」

「アンタみたいな、どこぞの戦闘民族には分かんないだろうけど、俺たち人間は普通に死ぬのが怖ぇーの。こんな高確率で死ぬかもしれない事をやらされるなんて不安しかねぇよ・・・」


 まるで魂が抜けるかのような、深く陰鬱な溜め息を吐き出した加藤。

 そんな加藤に対して巨人は「うぬぅ・・・」と考えるように唸った後ーーー、


「それは良い事ではないか?」


 首を傾げながら、そう言った。


「はぁ?」

「よいか《魔人》の童よ。生きる上で“不安”とは必ず付き纏うものだわい。それから逃れる事は生者には出来ん。」

「・・・あぁ、そうかい。教えてくれて ありがとな。それの何が良い事なのか全くわからんけど。こういう時は、普通 “お前ならできる”とか“きっと成功する”とかポジティブな言葉をかけるもんだけど・・・ぶつぶつ」

「最後まで聞かんか、《魔人》の童よ」


 巨人は、煩わしそうに嘆息を 1つ吐いて、言葉を続ける。


「人が不安から逃れられんのはな、人が欲するモノの大半は、その“不安”の裏にあるものだからだ。それは“強さ”だったり“成功”だったりーーー、“勝利”だったりのう」

「・・・」

「よいか《魔人》の童。貴殿が強く不安を感じる時。それは即ち、不安が近くにある時だ。つまり、その裏にある貴殿が欲するモノが近くにある時」

「欲するモノ・・・」


 それは言わずもがな、《魔導騎兵》に勝利する事。そして、街の人間や仲間の命を救う事だ。


「考えるのだ。“不安”を感じる時は好機であると。欲するモノを手に入れる千載一遇の好機であるとな」

「不安を感じている今こそ好機・・・か」

「貴殿の欲する未来は、貴殿の目の前に背を向けて立っておる。貴殿が全力を持ってあたれば、振り向かす事も出来ようぞ」

「はっ、、、簡単に言ってくれるぜ」


 そう吐き捨てた加藤だが、先ほどよりは不安というモノを好転的に捉えられそうだ。

 あくまで不安は不安なのだが。


「じゃあ、みんな!!!」


 と その時、島田の声が響いた。

 とうとう、作戦を実行する時が来たようだ。


「最後に作戦の おさらいをしておく!!!」


 近くにあった、一際 高い瓦礫の上に乗っている島田。彼の声は、この場にいる全員によく届いた。


「まずはアゲハが、《第六感(シックスセンス)》で《魔導騎兵(ドラグーン)》の動きを読み、俺たちの上空に来たら合図する!!!」

「分かった!!」


 アゲハの快活な声が響いた。


「合図がきたら、巨人さんの出番だ!!!」

「ぬぅ、任せておけ。《魔人》を《魔導騎兵(ドラグーン)》の元まで投げ飛ばしてくれよう」


 意外にも意気揚々と応えた巨人。

 もしかしたら、《怪物闘技(モンスターファイト)》の決勝戦で加藤に負けたのを根に持っていて、その仕返しをしてやる腹積りなのかもしれない。


(・・・まさかな)


 一瞬、不安になった加藤だが、そんな訳ない と無理やり納得する。


「ありがとうございます、巨人さん!!!」

「うむ」


 島田の礼に小さく頷いた巨人。


「最後は加藤だ!!!」

「おう!」

「上空で《魔導騎兵(ドラグーン)》を両断してくれ!!!」

「どいつもこいつも簡単に言いやがって・・・。分かったよ!」


 半ば投げ遣りに覚悟を決めた加藤は、大声で島田の言葉に応じる。

 次の瞬間、アゲハが何かに気づいたように「あっ!」と声を上げた。


「マサル!! もうすぐ《魔導騎兵(ドラグーン)》が来るよ!! 私の《第六感(シックスセンス)》が反応してる!!」

「よしっ!!」


 アゲハの声に島田が反応する。


「じゃあ、みんな!! 作戦通りにやるぞ!!!!!!」


 島田の怒号のごとき号令のあと、4人分の鬨の声が崩壊した闘技場の中に響いた。


「・・・ちなみに、ナノデスは何をすればよいのですか?」

「ナノデスは、加藤が《魔導騎兵(ドラグーン)》を倒したあと、飛行ができるモンスターを使って加藤を安全に地上に戻してやってくれ」

「ナノデスの命の危険がないアフターケアなら任せろなのです!」


 意気揚々と承諾したナノデス。

 何だかんだ言って、加藤だけが不公平に危ない作戦が幕を開ける。

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