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第三章107 『あの人なら、そうした・・・』


 ズドドドドドドドドドドンッ!!!! という地響きを伴う爆音に耳朶(じだ)を打ち付けられた加藤たち。

 巨人が素早く築いた防空壕によって《魔導騎兵(ドラグーン)》フェーズ2 の空爆をギリギリで防ぐことに成功した加藤たちだが、音の暴力のような爆音は容赦なく彼らの耳を襲う。


「ーーーっ・・・!!」


 びりびり と鼓膜を震わせる爆音。

 これ以上 この音の中にいようものなら、耳がイカれてしまう。

 と、その時ーーー、


「ーーーぉ!」


 ようやく《魔導騎兵(ドラグーン)》フェーズ2 の空爆が終了したのか、ピタリ と爆音は止んだ。


「・・・」


 加藤は彷徨うように辺りを見渡すが、空爆を耐え抜くドーム型の防空壕だ。光などは いっさい届かないため視界は闇一色だ。

 仲間の姿など、輪郭すら捉えられない。


「終わった・・・のか?」


 誰かの声が防空壕の中で反響した。声音から島田だだろうか。


「ーーーみてぇだナ」


 次いで聞こえたのは、訛りがある可愛らしい少女の声ーーーシャノンの声だ。


「《巨人族(ジャイアント)》、防壁を解いてくレ。多分 もう大丈夫ダ」

「ぬぅ、、、分かった」


 野太い声がシャノンの声に反応した。

 と同時に、ぼろぼろぼろ・・・と防空壕の壁が剥がれ落ちる。


「ーーーつぅ」


 闇を裂くように外の光が加藤たちを照らした。

 そこからは瞬く間だ。数秒と経たずに巨人が出現させた防空壕は砂へと変わっていく。


「ーーーなっ、、、んだこりゃ・・・」

「嘘・・・」


 外気に晒された加藤たち。

 その瞳に飛び込んできたのは、《魔導騎兵(ドラグーン)》フェーズ2 の空爆で完全に瓦礫の山と化した闘技場の姿だ。

 闘技場のフィールドを取り囲んでいた7階建ての観客席は、完全に破壊されており、背の高い瓦礫の山だけが その名残として残っている。

 加藤たちが居る闘技場の中も、フィールドの輪郭だけが申し訳ない程度に残っているだけで、それ以外は原型も留めていない。


「危なかったのぅ」

「マジで助かったぜ《巨人族(ジャイアント)》。オメェの防壁が あと一歩 遅かったラ、《魔導騎兵(ドラグーン)》の空爆で全員死んでタ」


 シャノンの言葉に島田は目を丸くして驚く。


「《魔導騎兵(ドラグーン)》!? さっき空を飛んでいたのは《魔導騎兵》だったのか!?」

「アァ。倒したと思ったが死んでなかったんだろうナ。ご丁寧にパワーアップまでしてやがル」

「パワーアップって・・・じゃあ、さっきの空を覆うような嫌な感覚は、やっぱ《魔導騎兵(ドラグーン)》のものだったの?」

「だろうナ。アゲハも感じたと思うガ、バカみてぇに血中魔力濃度が上昇してるのが分かっただろウ」


 シャノンは空を仰ぎ見る。

 縦に裂けた瞳孔に夕日で赤く染まる広い空が映り込んだ。


「・・・今も上昇しているのをビシバシ感じるゼ」


 ざわり・・・と シャノンの美しい銀髪が《魔導騎兵(ドラグーン)》が放つ魔力を感じ取って逆立つ。


「ーーーっ!! おいっ!!」


 その時、加藤が何かに気がつく。

 瓦礫の山となった街を指差す加藤。

 島田たちが加藤の指の方に目を向けると、何やらよろよろ と動く影が見えた。

 距離があるので よくは見えないが、おそらく空爆の生存者だろうか。


「俺たち以外にも生きてる人間がいるのか!?」


 生存者に驚く島田。だが、加藤の強化された目には、その生存者たちが何人も見えた。


「まだ大勢 生き残ってるみたいだ! なんか、こっちに向かって来てるのか・・・?」


 闘技場ドームの外に集まる生存者たちは、どうやら加藤たちの方へ向かって来ているようだ。

 おそらく空爆から逃れるために、頑丈な地下施設がある場所に逃げ込もうとしているのだろう。

 この闘技場ドームは ーー と言っても、もはや跡形もなく破壊されてしまっているが ーー 強力なモンスターを何体も収容できる地下施設が存在していた。

 加藤の目に映り込んだ生存者たちは、その地下を目指して ここまで来たのだろう。

 だがしかしーーー。


「おそらク、空爆から逃れるために頑丈な地下へ逃げ込みたいんだろうガ・・・」

「でも、、、あの人たち ここへ来ても意味ないんじゃ・・・」


 アゲハの言う通り、闘技場ドームの地下は、すでに崩れ落ちているため逃げ場などない。


「つーか、そもそも街の外に逃げた方がいいだろ」

「確かに 加藤の言う通りだな。奴・・・《魔導騎兵(ドラグーン)》は街の上を旋回して空爆を行っている。おそらく、人が多い所を狙っているんだ。このまま狭い街の中を逃げ回るより、広い外へ バラけて逃げた方がいい」

「ーーー出れねぇんだヨ」


 加藤と島田の言葉にシャノンが突っ込む。


「!」

「? 出れない?」

「この街ハ、周囲を高い壁で囲まれていル。街の外に出るにハ、いくつかあるゲートを通るしかないんだガ、街の全ての人間が数個しかないゲートに殺到したら当然 詰まル。おそらク、今 ゲートに通じる道ハ、避難する人間で大渋滞を起こしてるだろうナ」


 周囲を高い壁で囲まれている事によって高い防御力と安全性を誇る《大和王国》王都 大阪。だが、ひとたび内部を攻められれば、そこは逃げ場のない袋小路となる訳だ。

 《魔導騎兵(ドラグーン)》フェーズ2 が 高い壁に囲まれた街に上空から絨毯爆撃を行うさまは、例えるならば火にかけた鍋のようなものだろうか。

 鍋の中の水が火で沸騰させられるがごとく、ただただ 空爆によって街や人が破壊されて、燃やされるしかない。


「ちっ、、、くしょ・・・何だよ、それ・・・」


 そんな状況に歯噛みする加藤。だが、そんな加藤にシャノンは落ち着いた声音で語りかける。


「マァ、落ち着けヨ。オイラは その高い壁を超えるために《空間転移(ワープ)》の術式を組んでんダ。あと数分 凌げバ、一瞬でマーキングした安全地帯まで飛べル」

「・・・」


 励ましたつもりのシャノンだったが、加藤から言葉は返ってこない。

 ただ加藤は、遠くで右往左往する生存者たちを じっ と見ているだけだ。


「ーーーヒョーゴ・・・どうかしたのですか?」


 心配したナノデスが加藤に声をかけるが、やはり加藤から返事はない。

 生存者の集まりに目を向けていた加藤。数秒ほど経っただろうか。もしかしたら もっと短いかもしれないが、加藤は何かを決心したように、(おもむろ)に口を開いた、


「なぁ、みんな・・・」


 先ほどとは打って変わって辺りが静かだったため、加藤の声は周囲にいた全員にすんなりと届いた。


「この街の人たち 助けよう」

「ーーーハァ?」


 加藤の提案に真っ先に反応したのはシャノンだ。

 柳眉(りゅうび)を寄せて、加藤に食ってかかる。


「何を惚けたこと言ってんダ? まさか、オイラの《空間転移(ワープ)》で街の人間を全員 連れ出そうとか言うんじゃないだろうナ? 今、この場にいる人数でも限界近いってのニ、そんなこと出来るわけねぇだロ」

「いや、それは俺も無理だと分かるから言わないけどさ・・・俺が言いたいのは・・・」


 加藤は、スッ と指で空を指し示す。


「みんなで協力して《魔導騎兵(ドラグーン)》を倒そうって事」

「はぁア!?」


 素っ頓狂な事をのたまう加藤に、シャノンは とうとう怒りを見せる。


「バカかよ お前!! どうやって空を猛スピードで飛び回る敵を倒せるってんダ!!? 数匹のアリが空を飛ぶタカを相手にする様なもんだゾ!!」


 シャノンの言う事はもっともだ。

 音速で飛行する戦闘機を身ひとつで倒せる訳がない。仮に、この場に戦車やバズーカ砲などの近代兵器があったとしても不可能だろう。

 だが、加藤の意思は堅かった。


「それは今から考える! 島田が!!」


 どこからか「俺かよ!」とツッコミが聞こえてきたが、加藤は取り敢えずスルーする。


「・・・悪いシャノン。でも俺は、どうやっても この街の人たちを見捨てて逃げるなんて出来そうにない」

「ーーーッ!? なんダ!? どうしたんだよ お前!! この街の人間ハ、カトウを殺し合いの大会に放り込んで楽しんでた奴なんだゾ!!」

「・・・それは理解してる。けど、、、見捨てるのは無理だ」


 加藤は、そう言って島田の方を見る。

 不意に、加藤に目を向けられて「ーーー!」と 息を呑んだ島田。


「島田なら分かるだろ? 俺の言いたい事は」

「?」


 一度、首を傾げた島田だったがーーー、


「ーーーぁ! 、、、ぅ・・・まぁ・・・」


 刹那、何かを理解した様に目を見開いた。

 そして、煩わしそうに頭をガシガシと掻きむしる。まるで、頭の奥底に大事にしまった記憶を掘り出すように何度もだ。

 そうしてーーー、


「はぁーーー」


 と大きな溜め息を 1つ吐いた島田。

 その時点で、島田は加藤と同じように“何か”を覚悟しているような目に変わっていた。


「シャノン・・・俺も加藤と同じだ。この街の人を救いたい」

「ナッ!? 何だヨ!!? どうしたんだお前たチ!!! この街の人間ハ、お前らとは なんの関わりもないだロ!!? そりゃ、いい奴ばっかならオイラも助けたいガ、、、むしロ、この街の連中は極悪な奴らばっかじゃねぇカ!!!」


 ちらり とナノデスに目を向けたシャノン。


「ーーー子供を奴隷にする奴ヤ、、、」


 シャノンは、加藤に目を戻す。


「なんの罪もない奴ヲ、殺し合いの戦いに無理やり出す連中・・・っ!! そんな奴らを助ける義理がどこにあるんダ!!?」


 シャノンの怒号のような声を浴びせられた加藤と島田。

 だが、2人の決意は揺るぐ事はない。


「そりゃ、、、俺も奴隷にされたり、色々と酷い事されたから・・・正直言って この街が嫌いだよ」

「ハァ!!?」

「俺もシャノンの言う通り、この街の人間を救う義理はないと思ってる」

「だったラ・・・」


 困惑するシャノンの言葉を「でも・・・」と区切る加藤。


「ーーー佐伯さんだったら、この街を救うはずだ」

「ーーーッ!?」

「そうだ。先生なら、この街の人を見捨てて 1人で逃げるなんて絶対にしない」

「ッ・・・そリャ」

「俺たちは佐伯さんに救われて、彼の使命と信念を託された。それならばーーー、」

「あぁ。先生がする筈のことを、俺たちはしなくちゃならない。だから・・・」


 ぐぅぅ と拳を力一杯 握り込む加藤と島田。


「俺たちは《魔導騎兵(ドラグーン)》を倒してーーーこの街の人たちを救う!」

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