表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/677

第三章93 『作戦』


 ブンッ と《魔導騎兵(ドラグーン)》の赤い瞳が強く光を(はっ)した。

 それだけで、巨大な殺戮ロボットが臨戦体制になったのだと分かる。


『ピ・・・ピピッ』


 《魔導騎兵(ドラグーン)》の赤い瞳が、前に立つ3人の姿を映し出す。無論、その3人とは加藤、アゲハ、ナノデスだ。


『ーーーコウノウド ノ ケッチュウマリョク ヲ カンチ・・・』


 《魔導騎兵(ドラグーン)》の殺気を感じて、加藤たちは それぞれ戦闘体制を取った。

 加藤は日本刀(かたな)を抜刀し、アゲハは二丁拳銃を構えた。ナノデスもモンスターを使役する笛の《魔装武具(マギス・レコン)》を口に咥える。


『ピピッ、ピピピ・・・』


 不気味な機械音を発した《魔導騎兵(ドラグーン)》。

 その音が攻撃の合図であると、アゲハの《第六感(シックスセンス)》は無意識に判断する。


「ーーー来るよっ!!」


 アゲハの怒号のような声と同時に《魔導騎兵(ドラグーン)》は動いた。

 巨大な魔法陣が背中に出現したと思ったら、そこから嵐のごとき風が巻き起こる。その風はブースターのように推進力を生み出し、《魔導騎兵(ドラグーン)》の巨体を高速で前に押し出す。

 ギュン と加速する《魔導騎兵(ドラグーン)》。


「ーーーいっ!? いきなり突っ込んで来たのです!」

「やばいよ!! 私たちの背後(うしろ)ではシャノンが《空間転移(ワープ)》の準備をしてる!! ここを通すわけにはーーー」


 焦るナノデスとアゲハ。

 だが、《魔導騎兵(ドラグーン)》に止まる気配はない。このまま、機械の巨体で加藤たちを押しつぶす気だ。

 無論、そんな事をさせる訳にはいかない。


「ーーー任せろっ!!」


 次の瞬間、加藤が飛び出した。

 《部分強化(ポイントアーマー)》を日本刀(かたな)に《付与(エンチャント)》する加藤。

 対して《魔導騎兵(ドラグーン)》は、右手に持つ剣をバックハンドのように構えた。

 確か《魔導騎兵》が右手に持っているのは、氷の魔力が宿った《氷の剣(アルメダ)》という魔剣だったはずだ。

 先ほど、左手の《炎の剣(イグニギプス)》を振り払った際、火炎を纏った斬撃が飛んだ。という事は、《氷の剣(アルメダ)》を振り払ったのならばーーー。


(ーーー氷の斬撃が飛んでくるはず!!)


 次の瞬間、《魔導騎兵(ドラグーン)》が《氷の剣(アルメダ)》を横薙ぎに振り払うーーーと同時に、加藤が(つるぎ)の下に潜り込み、振り上げるように強化した日本刀(かたな)から飛ぶ斬撃を放った。

 振り払った(つるぎ)を、下から押し上げられる形となった《魔導騎兵(ドラグーン)》。

 瞬間、鋼同士が交わる嫌な音が闘技場に撒き散らされ、《魔導騎兵(ドラグーン)》の斬撃の軌道は空へと()れる。

 加藤の予想通り、《氷の剣(アルメダ)》からは氷結を纏った斬撃か放たれ、西日で(しゅ)に染まる雲を真っ二つに斬り裂いた。


「あ、、、ぶっ、、ねぇ・・・」


 ギリギリ で《魔導騎兵(ドラグーン)》の攻撃を凌いだ加藤。

 思わず安堵の息が漏れるが、安心している場合ではない。

 すぐに頭を切り替えて、アゲハとナノデスに指示を出す。


「アゲハ、ナノデス先輩!! ぼさっとすんな!! やるぞっ!!」

「うん!!」

「分かったのですぅ!!」


 アゲハの快活な声とナノデスの半泣きの声が闘技場に響いて、3人は行動に移した。

 まず加藤が《魔導騎兵(ドラグーン)》の右側に陣取り、アゲハが逆の左側に向かう。

 ナノデスは、近場の大きめの瓦礫に身を隠した。


「おらおらおらっ、ポンコツブリキ人形!! テメェの相手は俺だ!! こっち来い!!!」


 加藤が《魔導騎兵(ドラグーン)》を挑発する。

 無論、相手は機械なので挑発の類は効果が無いと思うがーーー、


『ピピッ・・・コウマリョク ハンノウ。コウマリョク ハンノウ・・・』


 攻撃範囲領域で騒ぐ標的を、《魔導騎兵(ドラグーン)》のセンサーが見落とす訳がない。

 加藤に意識を向けた《魔導騎兵》は、次の瞬間、赤く光る瞳からレーザーを出した。


「おわっ!!?」


 咄嗟に、加藤はレーザーを回避する。

 ボシュ、、、ン!! と近くの瓦礫がレーザーの照射で消失した。


「うおぉ・・・目力すげぇ」


 などと軽口を叩いている加藤の隙を見逃さず、追撃のレーザーを放ってきた《魔導騎兵(ドラグーン)》。


「わっ、わわわ、、わっと!!」


 ボシュ、ボシュ、ボシュ、ボシュ、、ン!!! と、加藤がつい一瞬前までいた場所が、次々とレーザーの照射で消失していった。


「あぶ、、あぶ、、、危ねぇー!!」

『ピピッ、、ピー、ピ、、、』


 《魔導騎兵(ドラグーン)》は、徐々に加藤の動きを学習していく。

 あと数手、攻撃を加えれば勝てると判断したーーーその瞬間、パァン と乾いた発砲音が響いて巨大ロボットのガスマスクのような頭部が弾けた。


『ピ、、ピピッ・・・ピー』


 無論、それだけで古代の超兵器と名高い《魔導騎兵(ドラグーン)》が破壊される訳がない。だが、意識を加藤から逸らすには充分すぎる効果があった。


『ピーーー コウマリョク ハンノウ』


 《魔導騎兵(ドラグーン)》は弾丸が飛んできた方に目を向ける。

 その先に居たのは、もちろんアゲハだ。


「ほらほらほら、アンタの相手は私よ!! こっち来なさい!!!」


 加藤と同じように《魔導騎兵(ドラグーン)》を挑発するアゲハ。


『ピピッ、、、センメツ シマス』


 先ほどと同じく、《魔導騎兵》は瞳から出るレーザーでアゲハを狙う。だがしかしーーー、


『ピピッ、ピ、、ピピピーーー』


 次の瞬間、その視界が無数のムクドリで覆われた。

 《魔導騎兵(ドラグーン)》の頭部に纏わりつくように飛び交うムクドリの群れ。

 無論、このムクドリの群れは自然のモノではなく、ナノデスが召喚したモンスターたちだ。


『ピーーーーーーッ!!』


 無数のムクドリによって目標を見失った《魔導騎兵(ドラグーン)》。攻撃をキャンセルする他なかった。


「ナイス! ナノデスちゃん!!」

「くくくっ。上手くいったのです!」

「よし!」


 耳につけた《通話(コミュニケーション)》の魔法が付与されたイヤリングで連絡を取り合う3人。


「2人とも作戦は順調だ。このまま行くぞ!!」


 加藤の声の後に、2人分の(とき)の声がイヤリングから聞こえてきた。

 その声で少なからず 心の余裕を取り戻した加藤は、先ほど島田から伝えられた作戦を もう一度 頭の中で反芻する。





***************





「ーーー作戦?」

「あぁ。奴ーーー《魔導騎兵(ドラグーン)》と言うらしいが、奴と真っ向から戦っても負けるのは必至だ。あのデタラメの強さを見て分かったが、時間を稼ぐには策が必要だ」


 島田は、ちらり と《魔導騎兵》に目を向けた。

 沈黙したまま動かないが、今に暴れ回り出しても おかしくはない。


「・・・そこでだ。身のこなしが良くて、戦闘タイプの《覚醒者》である加藤とアゲハは、《魔導騎兵(ドラグーン)》の左右で それぞれ奴の注意を引いてくれ」

「了ぉー解」

「分かった!」

「あの・・・ナノデスはどうするば・・・」


 おずおず と聞いてくるナノデス。

 加藤やアゲハのように前線に出て戦え と言われないか不安なのだろう。


「モンスターを使役できるナノデスは、出来るだけ多くのモンスターを使役して《魔導騎兵(ドラグーン)》を撹乱してくれ」

「ぅ・・・分かったのです」


 チャラリ と首から下げた筒状の笛を不安そうに握るナノデス。

 当然だ。

 年端も行かない子供が巨大ロボットと生身で戦えと言われて、不安にならない訳がない。


「・・・なぁ、島田」

「なんだよ?」

「この戦いは、シャノンが《空間転移(ワープ)》・・・だっけ? それを発動するための時間稼ぎの戦いだろ?」

「そうだけど、、、なんだよ?」

「いや、要はシャノンを守る戦いなんだから、防御としてアゲハとナノデスはシャノンの側に置いておいた方がよくないか?」

「ヒョーゴ・・・」


 ちらり とナノデスを見る加藤。

 加藤の提案は、ナノデスに危険な役目を負わせないための配慮なのだがーーー、


「いヤ、だめダ」


 シャノンが、その提案を一蹴する。


「なんでだよ?」

「見ロ」


 シャノンは、顎で闘技場の一角を指し示す。

 そこは《魔導騎兵(ドラグーン)》が《炎の剣(イグニギプス)》で破壊した闘技場の観客席だ。


「あの破壊規模を見て分かるようニ、《魔導騎兵》がマジに攻撃してきたラ、何人守りに入ろうが吹き飛んじまウ」

「ぅ、、確かに・・・」


 7階建ての闘技場ドームの一角が、《魔導騎兵(ドラグーン)》の一振りで瓦礫の山となったのだ。

 確かにシャノンが言うように、守りに徹しても数秒と持たないだろう。

 生き残りたくば攻めなくてはならない。


「そんでもう1個。奴は おそらク、人が集まっているところを優先的に攻撃していル。奴がはじめに狙ったのモ、近くにいたカトウではなク、人が大勢集まっていた観客席だったしナ。オイラを守るためにアゲハとナノデスが防御陣形を取ったラ、一瞬で そこを狙われちまウ」

「それならば、撹乱に人を割り振って《魔導騎兵(ドラグーン)》からシャノンの存在をぼかした方がいい、、、て言うのが俺の作戦だ」

「なる、、ほど・・・」


 シャノンと島田の推測が当たっているのならば、島田の作戦は効果的だ。


「悪い、ナノデス先輩・・・」


 そう思った加藤は、もうナノデスに謝るしかできない。

 一方ナノデスは、()だるように頭を下げて深く溜め息を吐いた。


「結局、ナノデスも戦うしか無いのですね・・・」

「悪いナ。術式を展開する手伝いとしてマサルを近くに置く必要があるかラ、ナノデスには《魔導騎兵(ドラグーン)》の気を引いて欲しいんダ」


 申し訳なさそうに言ったシャノン。

 当然シャノンとて、年端も行かない子供を戦場に送りたくは無い。

 だがーーー、


「これが生き残る最善手ダ」


 シャノンの決意は堅かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ