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第三章89 『再会』


 巨大なシャボン玉に包まれて地上まで浮遊してきた島田とアゲハの2人は、闘技場ドームの変わり果てた景色に驚いた。


「なんだよ・・、なにがあったんだ?」

「戦争でもあったの・・・?」


 闘技場ドームは半壊し、彼方此方(あちらこちら)で火の手が上がっている。

 混じり合って聞こえる叫び声や泣き声。

 散乱した瓦礫の影から聞こえるのは、助けを求める子供の声だろうか。

 まさに地獄絵図。


「やばいぞ。加藤は こんな場所で無事なのか?」

「うーん・・・私の勘じゃ生きてると思う。て言うか、近くにいる気が・・・あっ!!」


 アゲハが声を上げて闘技場フィールドの一角(いっかく)を指差す。

 つられて、島田がそちらに目を向けた。


兵庫(ひょうご)だ!!」

「本当だ! 生きているぞ!!」

「おーい、兵ぉー庫!! 助けにきたよー!!」


 シャボン玉の中で必死に声をあげるアゲハ。

 当然その声は、遠くにいた加藤には ぼうやりとしか聞こえていなかった。

 だが、7色のシャボン玉の中で盛大に手を振ってくる仲間の姿なら、加藤の強化された両眼に はっきりと映っている。


「・・・島田・・・アゲハ・・・」


 ふいに、ぐっ と目の奥から熱いモノが込み上げてきた加藤。

 当然だ。

 人攫いに攫われて以降、身売りされたり、強力なモンスターと無理やり戦わされたり、と 加藤は幾度(いくど)となく危険な目にあってきた。

 そんな時に、気の知れた仲間の顔を見たら誰だって目頭が熱くはなる。


(・・・いや、それ以上に、、、嬉しいもんだな・・・理不尽な目にあっても、、危険な目にあっても、、、助けにきてくれる仲間が居るってのは・・・)


 しみじみと そう思った加藤。

 目に力を入れて、込み上げてきたモノを仕舞い込む。


「だけど、、、今は感傷なんかに浸る時じゃねぇな・・・まだまだ 危ない状況だ、、、って、なぁーーーっ!!!? お前ら危ねぇ!!」


 渾身の叫びをあげる加藤。だが、シャボン玉の中にいる島田とアゲハには いまいち伝わらなかった。


「あれ? 兵庫 なんか言ってない?」

「本当だ? なんだーーーって、、、」


 不意に上を向いた島田は、加藤が騒いでいる理由を瞬時に理解した。


「ちょ、ちょ、、アゲハ!! 上!!」

「上? って、うわっ!!?」


 シャボン玉で揺蕩(たゆた)う2人の頭上を覗き込むように見ているのは、《魔導騎兵(ドラグーン)》の赤く光った瞳だ。


「なんで まだ生きてんの? マサルの爆弾を喰らったじゃん!!?」

「バカか! あれは下級モンスターを殺せる程度の威力しかねぇんだよ!! こんなデカい奴 倒せるか!!!」

「えっ!? 嘘、マジで!!? じゃあ私たちって、今むちゃくちゃヤバい状況じゃない!!?」

「あぁ、そうだよ!! つぅか、こんな所でぐずぐずしてないで、さっさと加藤とシャノン連れて逃げるべきだったーーーっ!!!」


 頭を抱えて嘆く島田とアゲハだが、もう遅い。

 《魔導騎兵(ドラグーン)》の瞳がアゲハを捉えた。


『ピピッ・・・コウマリョク ハンノウ・・・センメツ シマス』


 ピィーーーッ! という甲高い機械音が半壊した闘技場に響き渡り、《魔導騎兵(ドラグーン)》の瞳が強く光りだした。

 ロボットの目が強く光るなど、誰がどう見ても攻撃のモーションだ。


「やべぇ!!!!」


 咄嗟に、加藤は《魔導騎兵(ドラグーン)》に向かって走り出す。

 だがーーー、


「くそッ! 間に合わねぇ!!」


 距離が遠すぎる上、加藤のボロボロになった足では到底 間に合わない。

 すると次の瞬間ーーー、


「カトウ! 構わずマサルたちの所へ走レ!!!」


 怒号のごとき、シャノンの声で背中を押された。

 弾かれるように、再び 島田とアゲハの元に走り出した加藤。

 その背後で、シャノンは素早く呪文を唱える。


「ーーー《火球(イグニ・バルス)》!!」


 シャノンの掌の空間が捻じ曲がったと思ったら、一瞬のうちに火の玉が出現した。

 次の瞬間、その火の玉が高速で《魔導騎兵(ドラグーン)》に飛来する。


『ピッ、、ピピッ』


 ボゴォン!! と《火球(イグニ・バルス)》は《魔導騎兵(ドラグーン)》の顔面に直撃。攻撃は中断された。


「うわっ!!」

「きゃっ!!」


 だが、シャノンの《火球(イグニ・バルス)》の衝撃で、島田とアゲハを包んでいたシャボン玉が割れてしまう。

 浮遊の魔法がきれて、重量に引かれた2人。真っ逆さまに固い石畳の地面に落ちていく。


「カトーーウ!! キャッチたのんダ!!」

「ーーーっ!! 無茶言うなっ!!!」


 《部分強化(ポイントアーマー)》で足を強化する加藤。

 足に広がる鈍痛を無視して、仲間たちの元に全力で向かう。


(間に合うか!? 、、、いや、間に合わせーーーっ!!)


 いくら身体を強化できる加藤でも、高所から落ちてくる2人の人間をキャッチする事は無理だ。

 ならば・・・っ!! と加藤は落ちてくる島田とアゲハの下に潜り込みクッションとなる。


「ぐえっ!! ゴガッ!!」


 始めに島田。次いでアゲハが加藤の背中にダイブしてくる。

 2人の人間と固い石畳に挟まれた加藤は、一瞬 内臓が口から出るのではないか と思えるほどの衝撃に見舞われる。

 なんなら、ケツの方から何か出たような感じがするが・・・きっと内臓だ。

 そうに決まってるし、そうでないと困る。


「いてて・・・って、加藤!!? 大丈夫か!?」


 身を起こす島田とアゲハ。


「大丈夫、兵庫!? 助けにきたよ!」

「・・・俺を助けたいなら、、、まずどいてくれ・・・」

「うおっ!? すまん!!」


 急いで加藤の上から退いた島田とアゲハ。

 2人は、石畳のシミのごとく、半分潰れかけた加藤の肩を必死で支えて起こす。


「だ、大丈夫か・・・加藤・・・つぅか、お前 今、半分潰れてなかったか?」

「もう少しスタイリッシュに助けてくれると思ったんだけど、、、格好つかないね」

「うぅぅ、、うるさい・・・」


 せっかく身体を張って助けたのに、仲間に酷い言われようで加藤は悲しくなる。

 だが、文句を言う気力も残ってない。なんなら、自分の足で立つ事すらままならない状態だ。

 罵倒してきた相手に支えられるのは屈辱だが、今は島田とアゲハに頼るしか無いようだ。


「・・・」


 しっかりと支えてもらいたいから、加藤は2人に貸した肩を自分に引き寄せる。

 不覚にも、2人を抱き寄せたようになった加藤。


「・・・どうした?」

「兵庫・・・?」


 困惑する島田とアゲハだが、疲労が蓄積した加藤の身体では、なかなか1人で立ち上がれないのだから仕方がない。


「ーーー危ネェ!!!」


 次の瞬間、シャノンの怒号が響き、《火球(イグニ・バルス)》が3人の頭上で爆発した。


「うわっ!?」

「きゃっ!!!」

「ーーーっ!? なんだ!?」


 《火球(イグニ・バルス)》の熱気が撒き散らされる頭上に目を向けた3人。

 あろう事か、《魔導騎兵(ドラグーン)》の右掌の(ほう)が加藤たちに向いている。


「やべっ!!」


 加藤は咄嗟に、島田とアゲハを背後に下げる。

 《魔導騎兵(ドラグーン)》の右掌の(ほう)は、一撃で数十人もの人間を肉塊にかえる威力がある物だ。

 そんな砲撃を、こんな至近距離で放たれる訳にはいかない。


「ーーーちっ、くしょ、、、」


 《魔導騎兵(ドラグーン)》の様子から、(ほう)を発射するまで 数秒といったところか。今から走って逃げるには遅すぎる。

 加藤は《付与(エンチャント)》で日本刀(かたな)を強化する。

 そして《魔導騎兵》が伸ばしてきた右腕に向かってーーー、


「せっかく揃ったんだから、邪魔すんじやねぇよ」


 斬!!! と一閃。白刃から放たれた斬撃が、深々と《魔導騎兵(ドラグーン)》の腕を斬り裂いた。


『ピッ、、、ピピッーーー!!!』


 衝撃で腕を吹き飛ばされた《魔導騎兵(ドラグーン)》。

 次の瞬間、《魔導騎兵》の右腕が派手に爆発した。

 加藤の斬撃によって、斬り裂かれた砲弾が腕の中で暴発したのだろう。

 3人は、撒き散らされる衝撃から身を守る。


「ーーーッ!!」


 その刹那、何か見えない紐のようなモノでシャノンに引き寄せられた3人。

 瞬く間に《魔導騎兵(ドラグーン)》から離されて、シャノンの足元に転がった加藤、島田、アゲハ。


「いて・・・」


 多少 強引に《魔導騎兵(ドラグーン)》から離されたため、加藤は頭をぶつけるハメになった。


「お前ラ!!」

「ーーーはいっ!」

「なに?」

「頭打った・・・いて」


 シャノンの大声が3人の耳を震わせる。


「ーーー仲間に無事会えて嬉しいだろうガ、再開を喜ぶのは後ダ!!! 今ハ、ここから脱出するゾ!!!」


 シャノンは柏手のように、パァン、パァンパァン と手を3回鳴らす。


「マサル! お前は陣を描ケ!」

「は、はい!」

「アゲハ、カトウ! 《覚醒者》のお前らハ、数分でいイ!! あの巨大ロボットの気を引ケ!!」

「ーーーうん!!」

「えっ? 何する気なんだ? みんな揃ったんだから、ささっと逃げようぜ」

「逃げるヨ。だガ、逃げようにモ、逃げ道は もうねぇだロ」

「・・・まぁ、そうだけど・・・」

「ならば逃げる手は1つしかネェ。ーーーオイラの《空間転移魔法(ワープ)》でいっきに遠くへ飛ブ!」

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