第三章88 『いざ、地上へ』
闘技場の遥か地下にある実験場から地上へと繋がっているであろう巨大な空洞を見上げる島田とアゲハ。
まるでミサイルの発射口を下から見上げているかの様な感覚だ。
つまり、地上まで むちゃくちゃ遠い。
「・・・どうするマサル? どうやって上に行こう?」
「来た道を戻るしかないんじゃないか?」
「来た道って言っても・・・」
ちらり と周囲に目を向けるアゲハ。
「来た道なんて、、、もう無いよ」
地下実験場の風景は様変わりしていた。
幾つもの階層に分かれて 地下に伸びていた実験場だったが、階層を隔てる床や天井は取り払われ、巨大な吹き抜けの様になっている。
無論、島田たちがいる場所から上の階層が無くなっているので、上に上がる階段も無くなっている訳だ。
「て言うかさ、この実験場 大事な場所なんだよね・・・もう、半分くらい壊れてる様に見えるんだけど・・・」
「当然よ。この実験場は、今日で放棄される予定だから」
アゲハの疑問に答えたのは、腰まで流した黒髪が特徴的な美少女ーーー久留本 美優だ。
「廃棄って、、、ここを捨てるのか?」
「えぇ」
「それなら、これだけ壊れてるのも納得だけど・・・」
再び、アゲハは周りを注意深く見る。
「・・・うーん。やっぱり、上に上がれそうな階段やハシゴはないね。どうやって上に上がろうかー。エレベーターとか無いの?」
「スタッフ用のエレベーターならあるけれど、それは闘技場ドームの外に通じているモノだから。それに、今は撤退中のスタッフが使っているから、侵入者であるアナタたちを堂々と乗せるわけには いかないわ」
「ふーむ・・・どうしようかマサル」
「階段もなくて、エレベーターも使えないなら・・・上にいく手段がないな・・・他に道はあるか探すか?」
「壁を登って行くとかは?」
「無茶言うな。どれだけ高いと思ってんだ・・・」
島田とアゲハがいる地下から地上までは、ざっと30メートル以上ある。高さにしてビル10階分はあるだろうか。
その高さの壁を、ほとんど出っ張りがない状態で登って行くなど、プロのロッククライマーでも無理だ。
「ちくしょ・・・加藤を助けに行きたいが、アイツの元まで行く手段がない、、、」
歯噛みして嘆く島田だがーーー、
「大丈夫よ」
美優は大した問題じゃないといった感じで そう口にした。
「上までは私が連れていくから」
「!? なにか手があるのか?」
美優は、右手の親指と人差し指を擦り合わせた後、円を作った。そして、指で作った その円に息を吹きかける。
すると、7色に光る巨大なシャボン玉が、フワァ・・・ と出現してーーー、
「うわっ!!?」
「きゃっ!!?」
島田とアゲハを包み込んだ。
次の瞬間、2人を包んだ7色のシャボン玉は、ふわり と浮遊し、そのまま、ふわふわ と地上に向かって上昇していく。
「うわ・・・すげっ」
「幻想的だね・・・」
感嘆の声を漏らした島田とアゲハ。
これから2人が向かうのは、古代超兵器が破壊の限りを尽くす戦場のど真ん中だ。だが、それを抜きにしても、シャボン玉で浮遊するという経験は幻想的で心地よいモノだった。
「聞いて2人とも!!」
と その時、下から声をかけてきた美優。
「・・・ん?」
「《魔導騎兵》は、アナタたちが敵う相手じゃない!! 加藤 兵庫を助けたら、一目散に逃げなさい! いいわね!!!」
「そのつもりだよ!! ご忠告ありがとな!!」
島田の声が、地下にできた吹き抜けに反響した。
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ボォォー・・・ン!! と《魔導騎兵》の足元で小さな爆発が巻き起こる。
大した威力ではない。だが、加藤たちを狙った砲撃を打ち消す程度には効果がある爆発だった。
「なんだ!?」
突然の、予期せぬ爆発に目を丸くした加藤。
と その時、加藤は《魔導騎兵》の背後に、ふわふわ と浮遊するシャボン玉のようはモノを見つけた。
否。
シャボン玉などではない。
直径が2メートル以上あるし、中に何かが入っている。
人・・・だろうか。
2人いる。
「・・・誰だアレ・・・」
《部分強化》で目を強化する加藤。
常人離れした視力の目に飛び込んきたのはーーー、
「あれ・・・アイツら・・・」
何日か前に逸れた大切な仲間ーーー島田とアゲハの2人の姿だ。
「島田に・・・アゲハ・・・」