第三章87 『闘技場、崩壊』
巨大な人型ロボットーーー《魔導騎兵》の右掌に風穴が空いて、突如 砲が出現した。
《魔導騎兵》は、その右掌の砲を大勢の観客がひしめく観客席に まっすぐ向ける。
『・・・ピピッ』
そして次の瞬間ーーー、ゴォンッ!!! と爆音が轟き、観客席の一角が吹き飛ぶ。
血風が舞い散り、かつて人だった無数の肉片が花火の様に飛び散った。
《魔導騎兵》が砲を放った右腕を曲げると、ガッシュン!! と肘あたりから大きな筒状のモノが排莢される。
『ーーー〜・・・ピ・・・ピー・・ピピッ』
《魔導騎兵》のガスマスクのような頭部に赤く光る瞳。その瞳には、無数のセンサーが備え付けられており、離れた場所にいる大勢の人間を1人残らず捕捉できる。
『ピピッ・・・ピー・・タスウノ セイメイハンノウ ヲ ケンチ シマシタ・・・センメツ ヲ ゾッコウ シマス』
再び、右腕の砲を観客席に向けた《魔導騎兵》。
逃げ惑う人や怪我を負って動けない者。劈くような泣き声の主は親と離れた子供のモノだろうか。
そんな生きた人間が ひしめき合う場所にーーー、
『ピピッ・・・ハッシャシマス』
ゴォン!!! と腹に響く砲撃を放った《魔導騎兵》。
次の瞬間、無数の人間が細切れの肉片へと変わる。
そんな地獄絵図を、闘技場ドーム7階VIP席から眺めていた《大和王国》の国王 関 昌次郎は、恐怖で震えが止まらなかった。
「・・・なんだ・・・あれは・・・」
震える口から ボロボロと零れ落ちる言葉。
「・・・なぜ・・・あんなモノが、闘技場の下から・・・」
その時、突如 関が居るVIPルームの扉が開け放たれた。
肩を震わせて驚く関。
部屋に飛び込んできたのは、関の取り巻きの1人だ。
肩で息をしている所を見るに、よほど焦って来たのだろう。
「はぁ、、、はぁ、、、関、、様・・・」
「なんだ!? どうしたんだ!?」
「おに、、、お逃げください・・・早く・・・」
「なっ・・・」
取り巻きの言葉は、関をひどく動揺させた。
当然だ。
彼が今いる場所は、何人ものガードマンや 何重ものセキュリティに守られた《大和王国》の中でも屈指の安全地帯なのだから。
そんな場所から逃げろと言われても、どこへ逃げれば良いのやら。
焦り、悩む関だがーーー、
「早く逃げてください!! 階下は既に火の海です! このままでは逃げ道がなくなる!!」
時は止まってはくれない。
「ぐぅ・・・わ、わかった!! お前、安全な場所へ案内しろ」
と言っても、7階VIPルーム以上に安全な場所など無いから困っているのだが・・・。
「ーーーおい? 何を固まっている? 時間がないんじゃ・・・」
「ぁ・・・」
関の取り巻きが、震えた指で闘技場の方を指し示した。
「ーーー?」
関が、つられて指の先に目を向けた瞬間ーーー、闘技場ドーム7階にある 関 昌次郎 専用VIPルームが《魔導騎兵》の砲撃によって吹き飛んだ。
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「ちくしょ・・・」
闘技場に取り残された加藤は、暴風雨のごとき《魔導騎兵》の破壊を耐える事しか出来なかった。
「まずいぞ・・・このままじゃ、ここが吹き飛ぶのも時間の問題だ・・・」
響き渡る叫び声や砕け散った瓦礫、砂塵が飛び交う闘技場。どこかの紛争地帯の様な光景が加藤の目に飛び込んでくる。
今すぐにでも走って逃げたいが、目の前で暴れ回る銀白色の巨大ロボットが それを許してくれるとは思えない。
「ーーーィ! ーーーぉイ!! おイ、カトウ!!!」
「ーーーっ!!?」
加藤は、シャノンが自分の名前を呼んでいる事に、今 気がついた。
戦場のように爆音が轟いているのだから、近くで叫ばれても気がつけないのは仕方がない。
加藤は《部分強化》で耳を強化して、シャノンの言葉を拾う。
「何だよ!!?」
「ボサッとしてんナ!! 退くゾ!!」
「退くって何処にだよ!!?」
「分からネェ!! 取り敢えズ、アイツの目が届かないところにダ!!」
「・・・っ!」
そんな所あるのか!? と 加藤は思う。
《魔導騎兵》の攻撃のせいで、闘技場ドームは早くも半壊しかけている。
もし、建物の中に逃げようものならば、《魔導騎兵》の大砲のごとき一撃で、瓦礫に生き埋めにされる事だってあり得るかもしれない。
つまり、はっきり言って逃げ道は残って無い と思った方がいい。
「くそ・・・っと、ちょっと待て・・・っ」
と 次の瞬間、加藤はある事に気がつく。
「島田とアゲハは何処に行ったんだ!? シャノンは一緒じゃないのかよ!!?」
そう、見当たらない島田とアゲハの事だ。
「さっき、二手に別れたって言ったよな? アイツらは、、、もう逃げてんのか!!?」
「・・・ッ」
加藤の問いに、シャノンはバツが悪そうな顔をする。
その顔に、目敏く反応した加藤。
「おい・・・あの2人、、、まだ逃げれてないのか!?」
「・・・オイラは闘技場ドームに来て すグ、闘技場の地下に得体の知れない気配を感じていタ。2人にハ・・・マサルとアゲハにハ・・・その調査を依頼したんダ・・・」
「・・・っ!!? 地下の調査って、、、アイツは闘技場の下から出てきたんだぞ!!?」
「あァ。おそらク、オイラが感じていた得体のしれない気配の正体ハ・・・アイツの事だろウ」
「いや・・・そうじゃなくて、、、2人が向かった場所から・・・あの化け物みたいな機械が出てきたんだぞ・・・それって、つまり、、、」
「・・・ッ」
シャノンが顔を背ける。
おそらく、加藤が言いたい事から目を背けたいのだろう。
「くそ・・・じゃあ2人は・・・しーーー」
と言いかけて、加藤は、頭に浮かび上がった最悪の考えを吹き飛ばす様に首を横に振った。
「ふざけんな・・・そんなの認められるか」
《魔導騎兵》の足元に目を向ける加藤。
そこには、《魔導騎兵》が出てきた割れ目がポッカリ と空いていた。
「っ!! くそっ!!」
加藤は、その割れ目に走り出そうとした瞬間、シャノンに止められる。
「ちょっと待テ!! どうする気だカトウ!!?」
「決まってんだろ!! 2人を助けに行く!!」
「馬鹿カ!!? あのロボットが足元に のこのこと やって来たお前を見逃す訳ねぇだロ!!」
「ンなもん、やってみねぇと分からねぇだろ!!」
「あの・・・ちょっと2人とも・・・」
と その時、ナノデスが加藤とシャノンの間に割って入る。
「なんだよ!!?」
「なんダ!!?」
だが、ナノデスが見ているのは2人ではなく《魔導騎兵》の方だ。
震える指で、銀白色の機体を指し示していたナノデス。その指の先に目を向けた加藤とシャノンは言葉を失う。
『ピピッーーー・・・ピーーーーコウノウド ノ ケッチュウマリョク ヲ カンチ・・・』
《魔導騎兵》の右腕が加藤たちに向いているのだ。
おそらく、騒ぎすぎて気づかれたのだろう。
『ピピッ・・・センメツ シマス』
刹那、《魔導騎兵》の右掌から砲撃が放たれるーーー事はなかった。突如、破壊の権化のようなロボットの足元が爆発して、砲撃がキャンセルされたのだ。