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第三章77 『決勝戦 ⑥』


 闘技場の(ふち)を疾走しながら、巨人が放つ《投擲槍(スピクルム)》を躱す加藤は、異様な光景を目にした。

 闘技場の硬い石畳が、ぐわん と波打ったのだ。


「ーーーっ!!?」


 次の瞬間、地面が隆起(りゅうき)して、先端が禍々しく尖った岩山が闘技場の至る所に出現した。

 まるで岩の津波だ。

 ズドドドドドドドドドドーーー・・・ッン!! という衝撃波が辺りに撒き散らされ、一瞬にして、目の前が巨大な岩山で埋め尽くされる。


「ふむぅ・・・」


 巨人が放った大規模攻撃ーーー《岩石王(ベルグリシ)》の威力は想像を絶するものだった。

 一瞬にして、闘技場を埋め尽くした岩山は、まるで小さな山脈が連なっているかの様な見た目だ。

 足の踏み場も無く、岩山で埋まる闘技場。

 この場に立っていた者が居たならば、まず間違いなく岩山に弾け飛ばされてバラバラの()(たい)を晒しているはずだ。

 そうーーー立っていた者ならば だ。


「ーーーはやり上空へ(のが)れたか」


 巨人が空を仰ぎ見る。

 視線の遥か先。闘技場の空高くにーーー加藤(かとう) 兵庫(ひょうご)は居た。


「つーー〜・・・あっぶね!!!」


 加藤は、咄嗟に《部分強化(ポイントアーマー)》で足を強化して、地上を埋め尽くす岩山から逃れたのだ。


「あのまま地上にいたら、今頃 バラバラになって死んでたな・・・だけど・・・」


 加藤は上空へ逃れたが、正直言って 今の巨人の攻撃を回避できる自信はなかった。

 強化した加藤の足での純粋な跳躍力は、せいぜい7〜8メートルほど。だが、巨人が出現させた岩山の高さは、10メートルを超えている。

 普段の加藤の能力ならば、到底 躱すことができない規模の攻撃だったのだ。

 だが、今 加藤は軽く20メートルほどの高さまで 一足で跳ぶことが出来た。

 無論、能力を使っての事だが、これほどの跳躍力を発揮できたのは初めてだ。


(また能力が向上した・・・。死にかけたと思ったら急にだ・・・どうなってんだマジで?)


 死にかけの身体が すっかり治っている。

 自分の身体のはずが、よく分からない事ばかり起きて混乱するが、悠長に悩んでる暇など今はない。


「ーーーっ!?」


 下から巨人の《投擲槍(スピクルム)》が加藤を襲う。

 高速で迫る巨大な槍を、無防備な状態でくらう加藤。直撃でもしたら即死は必至だ。

 だがーーー、


「くそッ!! どうすりゃいい!!?」


 身動きが取れない空中にいる加藤など、巨人にとっては格好の的。


「ーーー逃げ場のない上空へ逃れるなど愚策なり。死ぬがよい!!」


 容赦のない槍の応酬が加藤を襲う。

 だがしかし、巨大な槍は空を裂くだけで加藤に擦りもしない。

 当然だ。

 20メートルの上空にいる加藤など、地上の巨人からしたら豆粒のようなモノ。巨大な槍を狙って当てるなど容易くはない。


「ーーーむぅ!!?」


 加藤が小柄だった事と、これまで巨人が相対してきた敵が巨大なモンスターだった事が(こう)(そう)した。

 虚しく空を裂く巨大な槍を、幾つも見送る加藤。

 不意に胸の内から笑みが溢れた。


「ふはっ。ふはははっ! 全然 当たってねぇぞ下手くそ、ーーーイデェ!!!」


 などと調子に乗っていたからだろうか、《投擲槍(スピクルム)》が加藤の脇腹を抉った。


「イッテェーーーッ!!!!」


 じんわり と滲んた血が、加藤の体操服(いっちょうら)を汚す。

 出血量から、だいぶ深く抉れたようだが、死ぬほどの怪我ではない。

 だが、痛いことは痛いし。何度も喰らえば死ぬ事もあるだろう。

 そもそも、長さ5〜6メートルはある巨大な槍が直撃したら即死する事だってあるのだから、余裕ぶっている場合ではなかった。

 不用意に笑った事を反省しながら、加藤は沸々と湧き上がる怒りによって脇腹の痛みを鎮静させる。


「くっそー!! バンバンバンバン調子乗って槍 飛ばしてきやがってぇ〜っ!!」


 次の瞬間、加藤は近くに飛んできた《投擲槍(スピクルム)》を掴んだ。もちろん、腕を《部分強化(ポイントアーマー)》で強化して だ。

 高速で飛来してきたら槍を掴んだのだ。

 当然、がくん と槍に身体を持ってかれそうになる加藤。だが、その瞬間、ぐぐぅ と身体に力を込めて、なんと飛んできた槍をキャッチした。


「むぅ!!?」


 この加藤の行為には、巨人も驚いた。

 当然だ。

 常人の感覚では、高速で放たれた矢をキャッチする様なものなのだから。

 だが、加藤の驚くべき行動は、この次だ。


「ーーーお、、、らぁっ!!!!」


 加藤は、キャッチした巨大な槍を巨人に投げ返した。

 巨人が放った槍が、加藤の《部分強化(ポイントアーマー)》で強化された膂力(りょりょく)によって自分自身に牙を向く。


「むおっ!!!」


 ズガァーーー・・・ン と、槍は巨人の足元に深々と突き刺さった。

 その衝撃で、ぐらり と巨体を揺らした巨人。

 先ほど、加藤に切断された腕のダメージもあってか、よろよろ とバランスを崩して膝をついてしまう。


「ーーーと!」


 そのためか、巨人の《投擲槍(スピクルム)》が一時(いっとき) 止んだ。加藤はその隙に地上へと降りる。

 闘技場を埋め尽くしていた先端が禍々(まがまが)しく尖った岩山も、例に漏れずに砂へと変わっていたため、加藤は無事に着地する事ができた。


「ーーーぐぅ・・・」


 膝をついた巨人は呻き声を上げるだけで、なかなか立ち上がろうとしない。

 それもそのはずだ。

 右腕を切断されて 止めどなく血が流れ出ているのだ。

 普通なら立っている所か、生きているのも不思議なくらいのダメージのはず。


「・・・おいおい、どうした巨人のオッサン? 足ガクブルじゃねぇか。まいったするなら今の内だぜ?」

「ーーーぐ、、、ぐはは! 笑止。我ら誇り高き《巨人族(ジャイアント)》が自ら戦いを放棄する事などありはしない・・・命尽きるまで戦う」

「そうかよ・・・なら、遠慮なく叩き潰してやるよ」


 言いながら、加藤は日本刀(かたな)を構える。


「そうだ。そうしろ、、、我も・・・」

「ーーーっ!?」

「そうする」


 次の瞬間、ゴウッ と風が吹き荒れた。


「・・・?」


 たったそれだけだが、加藤は嫌に胸騒ぎを感じた。

 と その時ーーー、


「いてっ!」


 加藤の(ほほ)に、砂利のような物が当たった。

 おそらく、加藤と巨人が戦った衝撃で破壊された闘技場の石畳の破片だろうか。


「・・・」


 大したダメージではないため、加藤は特に気にも留めなかった。

 だがしかしーーー、


「イッテェ!!? イデェ、イテェ!!?」


 再び、バシバシバシッ! と加藤の身体に砂利や砂が打ち付けられる。

 その数は、まるで台風の時に窓に打ち付ける雨粒の様に無数だ。

 堪らず、後退する加藤。

 だが、どこに行こうにも飛んでくる砂利や砂からは 逃がれられない。

 そこでようやく、これが巨人の攻撃だと悟った加藤。


「イッテェ・・・何しやがった!?」

「ーーー《舞い散る礫(グラーレ・サリレ)》」


 巨人が呪文を唱えると、加藤の周囲に巨大な竜巻が発生した。

 瞬く間に、竜巻に飲み込まれた加藤。


「ーーーっ!!? うおっ! うぉおおおおおおおお!!!?」


 加藤は上下左右から、身体が引き裂けそうな暴風に襲われる。

 だが、それだけではない。


「ーーーっ!!? イッテェ!? 何だ?」


 バシバシ と加藤の身体に打ち付けられる、風に掬い上げられた砂利や(つぶて)

 その数と威力は、徐々に強くなっていく。

 数秒もしない内に、加藤の肉を抉り出すほど荒れ狂う砂利や(つぶて)


「うわっ!? ぐわっぁぁぁぁぁあ!!!」


 360度 全方位からの攻撃に晒された加藤。

 この竜巻の中から出ない限り、この舞い散る砂利や(つぶて)は加藤を襲い続けるだろう。


「やべぇ!! 調子ぶっこいて、完全に巨人の技にハマった・・・っ! 逃げねぇ、、、と」


 竜巻から脱出を試みる加藤だがーーー、


「ぐわっ!!?」


 吹き荒れる風の壁に弾かれてしまう。

 おそらく、竜巻を形成する風の中に小さな砂利や(つぶて)が混じっているのだろう。それらが研磨剤(けんまざい)のごとく、触れたものを弾き飛ばしているのかもしれない。


「ーーーくそっ、、、逃げられねぇのか!!」


 完全に竜巻に囚われた加藤。

 このままでは、吹き荒れる砂利や(つぶて)で身体を細切れにされてしまうだろう。


「どうすりゃいい!!?」





***************





「・・・」


 そんな加藤の戦いを、闘技場に繋がるゲート横に投影された立体映像(ホログラム)で見ていたナノデス。

 膝を折り、手を組み・・・、


「お願いなのですヘレナ様。ヒョーゴをお守りください なのです」


 必死に自分が信仰する神に祈りを捧げる。

 だが、その祈りに応えたのはヘレナではなくーーー、


「わっけわかんねぇナー。自分が()めた相手の無事を祈るとハ」

「ーーーっ!!?」


 ゲートに繋がった通路の奥から聞こえた少女の声だ。


「オメェ・・・いったい何がしてぇのヨ?」


 そう、シャノンの声だ。

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