第三章71 『付与』
加藤は、巨人が放った巨大な投擲槍を抜き放った日本刀で縦に切断する。
ズガァーー・・・ン!! と 切断された投擲槍が石畳を穿った。地響きを伴う衝撃が加藤を揺らし、砂埃が辺りに立ち込める。
だがしかしーーー、
「はぁ・・・はぁ・・・」
加藤は無事だった。
斬り割いた投擲槍が、加藤を避けるように左右に逸れたのだ。
「すげ・・・」
ギラリ と周囲にある空気すら斬り裂けそうな、妖艶な輝きを放つ白刃。佐伯から譲り受けた日本刀に傷はひとつ無かった。
「今・・・こいつで・・・」
加藤は、ちらり と切断した投擲槍の断面に目を向ける。
光沢が見えるほど綺麗な断面だ。まさか、日本刀で斬られたモノとは到底思えない。
凄まじい切れ味。
だが驚くべきは、それだけではない。
巨人が放った投擲槍は、長さにして5〜6メートルはあるだろうか。それが端から端まで、すっぱり と縦に切断されている。
加藤の日本刀の白刃の長さは、だいたい70センチほど。
到底、5メートル以上ある投擲槍を縦に切断出来るはずがない。
斬撃が伸びたと言うならば納得できるが、佐伯から受け継いだ日本刀に そんな機能が無い事くらい加藤は知っている。
「ーーーどうなってんだ?」
加藤は、まじまじ と日本刀を見つめる。
(・・・日本刀を持つ右手を《部分強化》で強化して、そのエネルギーを日本刀に注ぐ感じで振り抜いたら・・・)
加藤は、再び切断した投擲槍に目を向けた。
と その時ーーー、
「・・・大したモノだな」
巨人が徐に口を開いた。
「ーーーっ!?」
そこで、今は戦いの最中だったと思い出した加藤。
咄嗟に、足元にできた流砂から脱出する。
脱出自体は足を強化して、強引に流砂から這い出たら簡単にできた。
「何が大したモノなんだよ?」
しっかりとした足場に避難した加藤は、巨人に言葉を返す。
「その《付与》の能力よ・・・」
「えんちゃんと・・・?」
「魔道を極めし者の中において、稀に発現する能力・・・そう、実に稀有な能力」
「・・・?」
「分からぬか? だが、貴殿も混沌渦巻く世紀末の世を生き抜きし者ならば、一度は目にした事があるはず。“魔”の力を秘めたる道具を」
「“魔”の力を秘めた・・・《付与》・・・あっ!」
巨人の話を訳も分からず聞いていた加藤の頭に、ある1つの道具が思い浮かんだ。
シャノンから受け取ったイヤリングだ。
ペア同士と通信ができる効果を持つ そのイヤリング。確か、シャノンは《通話》の魔法を《付与》した物と言っていたはず。
「“魔”の力を秘めたる道具つーのは、あのイヤリング見たいな物か・・・」
「《付与》は・・・」
「ーーー!」
「特段、魔力の高い者に発現する傾向がある」
巨人は言いながら、足元の瓦礫を1つ掴み上げる。
「そもそも魔法とは、己が血に秘めたる魔力を体外に顕現させし術。だがしかし・・・」
次の瞬間、巨人が掴み上げた瓦礫が、前触れもなく粉々になった。
あまりにも突然の出来事だったので、遠目で見ていた加藤も肩を震わせて驚いたくらいだ。
「体外に顕現させし魔力とは、言わば不安定なエネルギー。物質と触れ合えば、それを破壊させてしまう」
「・・・?」
「だが、それで良いのだ。我々、有魔人種にとって魔力とは攻撃する術。他者を効率よく破壊するためのモノだ。・・・しかし、稀に・・・」
巨人は、再び足元の瓦礫に手を伸ばす。
「高い魔力を持った者の中には、体外に放出した魔力をコントロールし、物質に己が魔力を《付与》出来る者が居る」
バコォン・・・と 再び巨人の手にあった瓦礫が粉々になる。
話を聞いていた加藤は、怪訝な目で巨人を見つめる。
「・・・なんか、魔力がどーのこーの話してくれたけどさ。悪いけど、俺 魔法使いじゃねぇんだ。だってまだ30過ぎてないし」
他の理由は言わない。あえて言わない。
「貴殿が魔道を極めし者でなくとも、貴殿の体内に流れる血はどうかな・・・それは紛れもなく魔道士のモノだ」
「・・・? なんだ? どういう意味だ?」
巨人が言った事が いまいち分からずに、首を傾げる加藤。だが《付与》の話のくだりは、妙にしっくりとくる内容だった。
(エンチャント・・・付与って意味だよな。ゲームなんかでは、自分の力を他人や物に貸し付ける技だ・・・つまり、あの巨人が言いたいのは・・・)
日本刀を見る加藤。ギラギラと鈍色に光る白刃が目に映った。
(俺の《部分強化》が、、、佐伯さんの日本刀に《付与》されたって事だ・・・)
この時、加藤は自分の考えや巨人の《付与》の話に、妙に合点がいっていた。
それもそのはずだ。
今まさに、加藤は自分の《部分強化》で佐伯の日本刀を強化して、巨大な投擲槍を斬り裂いたのだから。
(思えば・・・第1回戦の《大蛇》との戦いの途中から気づいていた気がするな。ちょうど、死にかけた後くらいだったか。妙に能力の威力が向上して・・・《大蛇》の首を刎ねる時、岩を砕く固い鱗でも、“あっ、切断できる”と思ったんだ)
「・・・ま、第5回戦の《悪性粘菌》との戦いの時は、武器が溶かされそうで、怖くて試せなかったんだけど」
言いながら、加藤は先ほどの要領で《部分強化》で日本刀を強化してみる。
日本刀を持つ右手を強化した後、エネルギーを逃がす感覚で日本刀に注ぎ込むのだ。
次の瞬間、刀身の鋼が、まるで息を吹き返したかの様に、小さく震え出した。
「ーーーっ!」
加藤は試し斬りと言わんばかりに、地面に向かって日本刀を一閃。
下は石畳だ。日本刀で斬りつけようものなら、刀身が折れても不思議ではない。
だが、ーーーズッ、、、パァン!!! と、まるで豆腐を切るかのごとく、力が要らずに斬り裂けた。
「お・・・おぉ・・・」
無論、刀身は折れてはいないし、刃こぼれ1つない。白刃は不適な輝きを戦場に放ったままだ。
「すげぇ・・・」
加藤の《部分強化》は、肉体を鉄ほどの強度まで引き上げる事ができる。ならば、肉体と段違いで固く、危険な鋼ならば、一体どれほどの強度まで強化できるのだろう。
答えは簡単だ。
加藤が強化した拳で歯が立たなかった巨人の肉体を斬り裂けるほど強化できる だ。
「ーーー悪い、巨人のオッサン」
「むぅ?」
「話し合いがどーのこーの言ってたけどよ、これだけ容赦なく殺しに来られたら俺も話す気無くなったよ」
日本刀を正中に構える加藤。
「アンタの手足、2、3本叩き斬ってでも生き残るから、覚悟してくれ」