第三章69 『決勝戦 ②』
巨人の周囲に無数の鏃が出現した。
そしてーーー、
「ーーー《石飛礫》」
巨人が唱えた呪文と共に、無数の鏃が高速で加藤に飛来する。
「ーーーヤベェ!!」
咄嗟に加藤は鏃を回避。次の瞬間、加藤が立っていた場所の石畳が粉々に弾け飛んだ。
まさに散弾銃のごとき威力をほこる巨人の《石飛礫》。
あれを生身で受けようものならば、直撃した瞬間ミンチになるのは目に見えている。
「あっぶねぇ〜・・・っ!!?」
無論、巨人の攻撃が単発で終わる訳がない。
再び、石畳に指を突き刺し、拳大ほどの岩を手に取った巨人。またも粉々に握りつぶし、周囲にばら撒くと、数秒で無数の鏃を出現させた。
「ーーー《石飛礫》」
再度、強力な飛礫が加藤を襲う。
「チィ!」
再び逃げの一手を取る加藤。
先ほどの石柱に追われる状況と変わらなくなった。
「あーもう!! 話通じねぇし! 普通に殺しにくるし!! それに・・・っ!」
加藤は、佐伯から受け継いだ日本刀に目を落とす。
正直、岩をも砕く加藤の《部分強化》で強化した拳が効かないとなると、巨人に日本刀での攻撃は望みが薄い。
傷ひとつ付けれずに、へし折れる可能性が高いだろう。
だがしかし・・・、
(アイツ・・・なんで俺の“あの事”を知ってやがる)
加藤のもう1つの能力を使えば別だ。
(だけど・・・それはーーーっ!!?)
次の瞬間、加藤の目の前に石の壁が出現した。
「ーーーあぶっ!!」
咄嗟に足を止めた加藤。先ほどの様に、頭から突っ込むような事はなかった。だがーーー、
「ーーーっ!!!?」
ズドドドドッ!! と加藤の周囲に次々と石の壁が出現する。
瞬く間に、加藤は高さ5メートルほどの壁に囲繞されてしまった。
「!!!?」
戦場で身動きを封じられた加藤。次に何が起こるかなど火を見るより明らかだ。
「くそっ!!」
この時、観戦していた観客や実況は、巨人の異様な行動を目にした。
身体を大きく捩らせて、上半身を回転させた巨人。
見方によっては何かの舞踊の一部のようにも見えるが、これは歴とした攻撃のモーションだ。
ぐわん、ぐわん、と何度も身体を回していた巨人。次の瞬間、回転の威力をそのまま、足元の石畳に打ちつけた。
ボッ、、、ゴンッ! と打ちつけた石畳が陥没する。
時を同じくして、壁に囲繞されていた加藤は、《部分強化》で肘を強化。近場の壁に肘打ちを繰り出す。
ゴッ、、、シャァァー・・・ン と厚さ数センチの壁が脆く崩れ去り、素早く脱出を図る加藤。
その刹那ーーー、
「ーーー《捻れた大地》」
壁で囲われた石畳が粘土のように捻り、伸び上がった。
ドドドドドドドドッ!!! と轟音を響かせながら、まるで大地の竜巻のように捩れた石畳が上空に立ち上る。
おそらく、加藤が壁の中に居ようものなら、捻り押し上げられた岩に、身体をバラバラにされていただろう。
すぐさま壁の外に逃れた加藤は、流石と言える判断だ。
だがーーー、
「おわぁぁぁあああああああああああああああっ!!!!!?」
壁の外に逃れる寸前で地面が捩り上がったため、加藤の足が捩れた石畳に引っ掛かり、上空へと押し上げられてしまった。
ズズ、、、ン・・・ と、瞬く間に、捻れた塔のような建造物が闘技場の中に出来上がる。
加藤は、その塔の外側に足を引っ掛けた状態で宙ぶらりんとなってしまった。
「うおぉ・・・ヤベェ。このままじゃ狙い撃ちだ!! ・・・いや、それよりも・・・」
巨人は、出現させた石柱や石の壁を すぐに消失させている。
技に対する制限なのか。それとも、加藤が出現させた石柱や壁を防壁に使う事を危惧して そうしているのかは不明だ。
だが、加藤が引っ掛かっている、この巨大な捻れた塔も数秒と経たずに崩れ去る可能性がある。
「この状態で崩れるのはマズいぞ・・・っ!」
などと言っている内に、ザバァァァー・・・ と出現した塔が砂へと変わっていく。
瞬く間に支えを失った塔は、引っ掛かっていた加藤を放り出して崩れ去っていく。
「ーーーヤバっ! ヤバヤバヤバっ!! ヤバいって!!!」
高さにして十数メートルはあるだろうか。
真っ逆さまに落下する加藤。流石の加藤も、この高さで頭から落ちれば死んでしまう。
それだけは回避しなければ と思い、加藤は踠き足掻きを繰り返して落下の向きを変える。
運良く足を下に向ける事に成功した加藤。
《部分強化》で両足を強化する。この状態で足から着地できれば、少なくとも即死は回避できるかもしれない。
(・・・だけど、怪我はするだろうなっ!!)
多少の怪我を覚悟して、ザバァァァァー・・・ン と砂を撒き散らして加藤は着地する。
「えっ!!?」
その瞬間、加藤は驚いた。
加藤が着地した場所が、まるで流砂のように柔らかいのだ。
おかげで怪我はしなかったがーーー、
「わっ!? わっわっ!!!」
砂に足を取られて、満足に身動きが取れない。
高いところから流砂に突っ込んだ分、しっかり太物まで飲み込まれている。そのため、脱出にも時間がかかるだろう。
(・・・一瞬、助かったと思ったけど、この砂・・・完全に罠じゃねぇかっ!!)
加藤の読み通り、この流砂は逃げ回る加藤を捕えるために巨人が作り出したモノだ。
「ーーー《流砂漠》」
踠き足掻きを繰り返して、流砂からの脱出を図る加藤。
どうやら、《部分強化》で足を強化すれば脱出も難しくはない。
だが・・・、
「ちっ、、、くしょう・・・」
目の前の敵が、悠長に脱出を眺めてくれる訳もない。
パァン、パァン、と柏手のように2度 手を鳴らした巨人。
次の瞬間、巨人の頭上に巨大な岩の槍が出現した。
長さは5〜6メートルほどあるだろうか。先端が銛のように禍々しく尖っている。
「・・・うわ、まっずい・・・」
加藤は、血の気が引くのを感じだ。
身動きが取れない状況で、あのような巨大な槍を喰らえば否応なく死んでしまう。
(《部分強化》でガードするか!? だけど あんなデカい槍、正面から受けれるわけ・・・っ!!)
加藤は、ちらり と腰にある日本刀に縋るような目を向けた。
佐伯から譲り受けた日本刀だ。加藤は、何度もこの日本刀に命を助けられた。
(・・・佐伯さん、どうすりゃいい? どうすればこの状況を切り抜けられる? 教えてくれよ佐伯さんーーーっ!)
その瞬間、ふと 加藤はある事を思い出した。
それはかつて、佐伯が言っていた たわいのない言葉だ。