第三章67 『開始! 《怪物闘技》決勝戦!!』
「ーーーっ!」
薄暗い通路から満点の日差しに照らされる闘技場に出た加藤。
一瞬、視界が真っ白に染まり・・・そしてーーー、
『ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーッ!!!!!』
と割れんばかりの大歓声が響く、石造りの闘技場が目に飛び込んできた。
「・・・」
加藤は辺りに目を配る。
これまでのフィールドと比べると、本当に簡素な闘技場だ。
象形文字のような紋様が申し訳ない程度に装飾してある石畳が敷き詰められているだけの作り。身を隠せそうな岩山も、命の危険がある溶岩もない。
パッと見たイメージは、中世西洋にありそうな だだっ広い広場だろうか。
特筆して特徴を挙げるようなフィールドではない。
(ーーーここで奴と・・・)
強いて目を見張る特徴を挙げるとするならば、その広場の中央に見たこともない巨大な人間が佇んでいる事だ。
優に7〜8メートルはある巨人だ。
その見た目は、ゴリラやチンパンジーに近いだろうか。
巨木のような太く短い足に、岩盤のごとき厚い胸板。今は、だらり と下げている太い腕は膝下ほどまである。
「うへー〜あんなのと戦えってのか・・・恨むぜ神様。なんとか話し合いとかで終われねぇかな」
巨人の見てくれは、まさに蛮族のようなモノだった。
獣・・・と言うかモンスターの毛皮で作ったのであろう腰巻きや靴を着用している。
文明人とまではいかないが、目があっただけで殺しにくるモンスターよりは まだ言葉が通じそうだ。
一か八か、話しかけたら言葉が通じるかも・・・と淡い期待を寄せて挨拶してみる。
「は、ハロ〜、ハワイユー・・・いやー、おっきいですねー。どこ出身なんですかぁ〜?」
「・・・」
巨人は加藤の言葉にまったく反応しなかった。
話す事など何も無い と言った感じだ。そもそも、言葉から通じていない気がする。
やはり、話し合いで この場を乗り切るなど無謀だったか・・・と諦めかけた瞬間ーーー、
「《魔人》か・・・」
「ーーー!」
ぼそり と巨人が言葉を発した。
聞いた事もない言語だ。癖が強い、舌を噛みそうな発音が特徴的な言葉。
だが、不思議と加藤には巨人が発した言葉の意味がよく分かった。
「《魔人》・・・? って言ったのか?」
「むぅ・・・?」
今度は、巨人の方が加藤の言葉に反応した。
片眉をあげて、岩に掘り込まれたような厳しい顔を怪訝に崩す。
「古代妖精語を手繰るか・・・。ただの《魔人》ではないな」
「エルフ語??」
言葉の意味は分かるが、話の内容が意味不明だ。
だが、巨人は構わず言葉を続ける。
「その血は《有魔人種》のモノではないな・・・《妖精族》のモノか・・・」
「・・・??」
「滑稽だな・・・魔導士どもは まともなモノを作らん。モンスターしかり《魔人》しかり・・・いくら泥を固めて磨いたところで、それが金剛石になる訳ではない・・・人は神には成り得ない」
「?? え? 何? 宗教の話?」
訳が変わらずに、頭の上でクエスチョンマークを踊らせる加藤。
目の前の巨人が急に言葉を発したと思ったら、よく分からない一人語りを始めたのだから当然だ。
だがしかし・・・。
(・・・言葉が通じるなら、話し合いも出来るかもしれねぇな・・・)
正直、目の前の巨人と戦いたくないと思っていた加藤。
辺りを灰燼と化す息吹を放つドラゴンや獄炎を纏う恐竜のごとき巨大馬。そんな猛者を簡単に殺した化け物の相手などごめんだ。
戦わずに済む方法があるならば、どんなに滑稽でも、どんなに か細くとも、それに縋るべきだ。
「あのー・・・お言葉が通じるようなので、少し私の話を聞いて・・・」
「ーーーが、」
「ん?」
「我ら《巨人族》の古の怨敵・・・歪なれど、その血族に出会えた事は万感の思いなり!」
「んん? いや、、、あの話を・・・」
加藤の必死の問いかけなど どこ吹く風か。まったく巨人の耳には届かなかった。
勝手に一人語りをした後、何やら ブツブツ と呟き出した巨人。数秒ほと呟いて、指で闘技場の石畳を ゴンッ と鳴らした。
「・・・っ!」
咄嗟に加藤が石畳を蹴り、その場から離れる。
次の瞬間、加藤が立っていた石畳が隆起して、巨大な石柱が姿を現した。
「ーーーっ! い、、、っ!! ぐっ、、、」
石柱が出てきた衝撃波によって吹き飛ばされた加藤。闘技場の石畳を2、3度 転がって、ようやく体勢を戻す。
「ーーー我父祖たちよ・・・七部族の長よ・・・我らを滅びの道へと誘った悪魔を滅する末裔の勇士、しかと見届けてくだされ!!!」
巨人の咆哮と共に、5万人の観客が吠えた。
痛いくらいの大歓声に包まれる中、《怪物闘技》決勝戦は始まった。