第三章54 『地下実験場での戦い・アゲハ』
無数の稲妻が走り、薄暗い地下実験場が鈍色の光で照らされた。
遅れて、バチィ、、、バチィバチィ!! と劈くような破裂音が響き渡り、白煙とすえた匂いが辺りに充満する。
「ーーーくっ!!」
「ガハハッ!!」
およそ、人が活動できるとは思えない空間に、2つの影が見えた。
1つは、アルバートン・バルクラーラ。
ライオンの鬣のように逆立った髪をした巨漢だ。
「ーーーぜっ、、、りゃ!!!」
アルバートンは、手に持っていた巨大な三叉槍を振り回す。その瞬間、彼の周囲に小さな稲妻が無数に落ちた。
その稲妻を華麗に躱すのが、もう1つの影だ。
赤みがかかったセミロングの髪に、男モノのぶかぶかのジャケットを着込んだ美少女ーーー蝶野 アゲハだ。
アゲハは、ランダムに落ちる稲妻を、まるで落ちる場所が最初から分かっているかの様に回避している。
「ーーー《第六感》!」
視覚や聴覚。
さらには皮膚や指、つま先の感覚。
もっと言ってしまえば、髪を撫ぜる風のひと吹きから得られる情報。
それら全てを集約、精査して導き出したアゲハ独自の感覚ーーー《第六感》の力を持ってすれば、光の速さで落ちてくる稲妻を避けるのも不可能では無い。
「ガハハッ! スゲェ、スゲェ、スッゲェ!! これほど俺の攻撃を躱されたのは初めてだぜ!!! ーーーだぁが、、、」
次の瞬間、アルバートンは光を発する。
「ーーーあれはっ!!」
咄嗟に《第六感》を発動させるアゲハ。
アルバートンが光を発するのは、瞬間移動の前兆だ。
アゲハの読み通り、アルバートンは光の消失と共に、その場から姿を消した。
「どこに、、、」
アゲハは辺りを探る。無論、《第六感》の能力を用いてだ。
その刹那、彼女の背筋が凍ったーーーような気がした。
それが、《第六感》が捉えたアルバートンの気配である事は明白だ。
「ーーー背後っ!」
弾かれる様に後ろ向くアゲハ。
思った通り、アゲハの背後に光が発生していた。
アルバートンが姿を現すモーションだ。その光に向かって二丁拳銃をぶっ放すアゲハ。
乾いた残響が折り重なり、弾丸が光を撃ち抜いた。
だがーーー、
「っ!!?」
光は瞬く間に消失する。無論、そこにアルバートンの姿はない。
「は?」
間抜けな声を発するアゲハ。そんな彼女の背後に、無遠慮な胴間声がぶつけられる。
「逃げてばかりじゃ勝てないぜ」
「ーーーなっ!!?」
咄嗟に振り向くアゲハ。その視線の先に、相好を崩したアルバートンが立っていた。
フォン、、、フォン、、、と三叉槍を振り回すアルバートン。
「っ!!! 連続でも出来んのかよっ! 瞬間移動!!!」
弾かれるように、アルバートンから距離をとったアゲハだが、遅かった。
「ーーー《電電虫》」
アルバートンは、三又槍を床に突き刺した。
鉄板の床と鋼の穂先がぶつかり合い、小さな火花が散る。
その瞬間ーーー、バッ、、、チチチチーーーッ!!! とアルバートンを中心に、渦を巻いた電流が床を這うように撒き散らされる。
「ーーーぃ! がっ、、、はぁ、、、っ!!」
バチィ、とアゲハの爪先に電流が接触する。
たったそれだけで、アゲハの身体を電流が駆け巡る。かと思ったら、大きな力で後方に吹き飛ばされたアゲハ。2、3度床を跳ね転がったのち、力なく横たわる。
「っ・・・くっ、、、」
アゲハは、身体中に針で刺された様な激痛を感じた。
次いで、喉が引き攣り、呼吸が苦しくなる。
「、、、くっ、、、はぁ・・・はぁ・・・」
いつも無意識にやっている呼吸が、こんなにも困難に思えた事はなかった。
今のアルバートンの攻撃は、それほどまでアゲハの身体にダメージを与えるモノだったのだ。
「ぅ・・・くっ!?」
アゲハは、朦朧とする意識の中で、目の前に人が立つのを感じる。
当然、アルバートンだ。
なにやら言葉を発しているようだが、今のアゲハには聞こえなかった。彼女の耳は、鈍い耳鳴りに支配されていたからだ。
ブゥー・・・ン、という耳鳴り。
「・・・」
それは、徐々に大きくなっていく。
次第に、何かの言葉のように聞こえてきた。
「・・・?」
アルバートンのモノとは違う、聞き覚えない声だ。
透き通った男の声・・・だろうか?
「・・・だ、、、れ?」
声を頼りに、アゲハの意識が深層へと落ちてゆく。