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第三章46 『覚醒者の謎』


「ーーーっ!!?」


 突如、アゲハの目の前に出現したアルバートン。

 2者の間は、6〜7メートルはあった筈だ。それが一瞬の間にゼロになった。


「しゃ、、、らぁ!!!!」


 次の瞬間、眩い光がアゲハの視覚を包み込んだ。

 散乱する光。それがアルバートンが放った五月雨(さみだれ)突きだとアゲハが理解したのは、彼女が後方に大きく吹き飛んだ後だ。


「くっ、、、かぁーーーッ」


 地下施設の床を転がったアゲハ。

 視界が回る。

 身体が痛い。

 熱い感覚が腕を伝う。

 だが、そんな事そっちのけで、アゲハの《第六感(シックスセンス)》は、今いる場から離れるよう警鐘を鳴らす。


「づーーーっ!!」


 手で床を押して、反動で強引に立ち上がったアゲハ。

 その刹那、眩い光を放つ鈍色の稲妻が、アゲハが転がっていた位置に落ちた。

 一拍遅れて、空間を割くような破裂音が響き、鼻腔を突くような すえた匂いがする。


「あぶ、、、な・・・っ!!?」


 常人離れした直感力で稲妻を回避したアゲハだが、彼女の危機的状況は終わっていない。

 アゲハがアルバートンの方へ目を向けたのは、まさに偶然だ。

 もしかしたら、アゲハの能力である《第六感(シックスセンス)》が、彼女にそうする様に仕向けたのだろうか。


「ーーーなっ!!?」


 その時、アゲハの目に映った光景を一言で現すのならば《光の収縮》だろうか。

 光が一点に集中している。

 まるで、蛍光灯が光を発する時を、超スローモーションで逆再生したかの様な感じ、と言えば良いのだろうか。

 アゲハは、それを見た瞬間、全力で横に飛んだ。

 なぜそうしたかなど、アゲハにも理解できない。

 ただ、彼女の《第六感(シックスセンス)》が、そうしろと言ったからだ。


「焼け焦げろーーー《雷槍(ドンナー)》!」


 次の瞬間、巨大な稲妻が真横に走った。

 まるで、周囲の空気が一瞬にして数万倍に膨張したかの様な衝撃波が撒き散らされる。次いで、空間にヒビが入ったのかと錯覚するレベルの爆音が地下施設に響き渡った。

 まさに、落雷だ。

 だが、地下深くで、巨大な雷が真横に落ちる訳がない。

 無論、今の稲妻はアルバートンの攻撃だ。

 三又の槍が電気を発生させる事によって、威力、速度ともに本物の稲妻に匹敵するほどの“突き”だが。


「か・・・はっ、、、」


 寸前でアルバートンの“突き”を回避したアゲハ。

 黒焦げとなって即死する事は免れたが、電撃が掠ったのか、大きくダメージは負ってしまった。


「ーーーっ・・・」


 手足が痺れる。

 身体中から脂汗が吹き出て、嫌に喉が渇いた。

 なんなら、立つ事すらままならない。

 ひゅー、ひゅー、と浅く息を繰り返すだけで精一杯だ。


(・・・ヤバ。かすっただけで、この威力? 身体、動かないんだけど・・・)


 這いつくばるアゲハの目の前にーーー、


「くっ・・・」


 アルバートンが立ちはだかる。

 冷たくアゲハを見下ろしたアルバートンは、煩わしく溜め息を吐いた。


「テメェ、やっぱ殺し合いに身が入ってねぇだろ」

「ーーー!」

「反撃もせずに逃げてばっかだしよ。ちらちら、あっちの方見てるし」

「・・・」


 アルバートンが顎で指し示した方に目を向けたアゲハ。そこには、数匹の巨大蜘蛛と戦う島田がいた。


「あの男が気になる訳か? なんだ? アイツはテメェのコレか?」


 親指、人差し指、小指を伸ばして手を振るアルバートン。

 アゲハは、そのジェスチャーに対して首を横に振る。そしてーーー、


「ーーー友達よ」


 と 短く答えた。


「・・・そうか、友達か。その友達が気になって殺し合いに集中出来ねぇなら、先に殺しておこうか?」

「ーーーっ!!」


 アルバートンの一言で、アゲハの瞳に怒りが宿った。

 痺れる手で銃を握り、力が入らない足で身体を持ち上げる。

 身体中が痛いが、死んだ訳ではない。

 なら、問題なく立ち上がれる。

 立ち上がれるなら、島田を連れて逃げる事も不可能ではない。


「ふぅん。まだまだイケんじゃねぇか」


 アルバートンは、器用に槍を振り回す。穂先が空を斬るたびに、バチィバチィィ、と爆ぜた音がした。


「正直、俺はテメェに期待してんだからガッカリさせんなよ。《魔人》と殺し合えるなんて、そうそうねぇからな」


 アゲハは、聞きなれない言葉に首を傾げる。


「《魔人》・・・?」

「テメェみてぇに、特殊な能力を宿した劣等人種(エルデリアン)だよ。テメェの、その勘の良さ、《魔人》の能力だろ」

「ーーー!」

「俺の雷撃を躱せる人間なんて、そう居ねぇからな。《魔人》の能力使ってねぇと説明がつかねぇ」

「・・・」


 アルバートンの口ぶりから《魔人》とは《覚醒者》を指す言葉であるように感じたアゲハ。



 《覚醒者》ーーー世紀末の世に、突如として目覚めた特殊な力を宿した人間たちの総称である。

 そのほとんどが、世界が崩壊してからの記憶を無くしており、見た目、年齢も崩壊以前のまま変わっていない。



「アンタ・・・」

「あん?」

「その、か・・・《魔人》について、何か知っているの?」

「ーーーん? 何か、つーか・・・まぁ、俺は一般的な事くらいしかしらねぇよ。凍結された実験だしな」

「?? 凍結された・・・実験??」

「んん? ・・・あー、なるほど。テメェら《魔人》は、確か記憶を消されてんだよな」

「ーーーっ!」


 アゲハの心臓が跳ねた。


(コイツ・・・ッ、知ってる!!? 《覚醒者》がどんな存在か。なぜ、こんな世紀末の世で突然目覚めたかも・・・っ)


 アゲハがずっと知りたかった事だ。

 なぜ、自分が二十年もの時を経て、荒れ果てた世界で目を覚ましたのか。

 自分に与えられた、この能力は一体なんなのか。

 自分のルーツとなる情報を、目の前の男は知っている。


「・・・」


 アゲハは、再び島田の方に目を向ける。

 どうやら、巨大蜘蛛たちに苦戦している様だ。

 おそらく、このままだと遅かれ早かれ島田は死ぬだろう。

 そうならないためにも、強引にでも目の前の敵から逃げるべきなのだが・・・。


「おい。電気ウナギ野郎」

「あん?」


 この時、アゲハは初めて自分の能力である《第六感(シックスセンス)》を無視した。

 銃を構え、戦う意志をアルバートンに示す。


「ーーー死にたくなかったら、《魔人》について詳しく教えな」

「ーーー!」


 銃を突きつけられたアルバートンは、にたり と相好を崩した。


「なんだぁ? さっきとは違うな。変なやる気が漲ってんじゃねぇか」

「いいからさっさと教えろ」

「・・・」


 取り付く島もない臨戦体制のアゲハに呼応して、アルバートンも腰を落として、槍を構える。


「ーーーいいぜぇ。望んだ展開とは、ちょっと違うが、俺を倒せたらテメェら《魔人》について教えてやるよ。あくまで俺が知ってる範囲のだが」

「・・・」


 ぐっ と二丁拳銃を握るアゲハ。


(ごめんマサル。コイツを倒して、私たち《覚醒者》の謎を聞いたら、すぐに助けに行くから! それまで踏ん張って!)


 念じるように心の中で呟いたアゲハだが、その思いは島田には届く事はなかった。

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