第三章25 『舞い込んだチャンス』
加藤が心の叫びを上げていた頃。
シャノンは西側エリアの6階VIP席に居た。
空室のVIPルームに身を潜めながら、猫由来の鋭敏な三角耳で通路の情報に耳を潜めていた。
「・・・」
ざわざわ、と通路の方が騒がしい。
「・・・チィ!」
苦々しく舌打ちをしたシャノン。
6階VIP席に忍び込み、加藤の主人である米倉と秘密裏に接触するつもりだったが完全に計画が頓挫してしまった。
その原因が、今 騒がれている事だ。
「・・・」
シャノンは再び耳を澄ませる。
遠くの話し声が、ぼんやりと聞こえてきた。
「・・・ーーーうするんだ、コレは?」
「知らないよ!」
「そうだな。私たちははっきり言って関係ない。この者は、国王様 専属の奴隷商だ」
「だからと言って、我々に関係ない訳ではない! 魔道士様に粗相があったのなら我々も同じく粛清されるぞ!」
「おい! ばか!」
「ぁー・・・」
脇目も振らずに騒ぎ立てていた国王の取り巻きが黙り込む。
きっと、彼らの目の前には件の国王とやらがいるのだろう。
と その時ーーー、
「この・・・惨劇の、原因は・・・」
ぽつぽつ、と疎雨のように国王らしき人物の声が聞こえてきた。
「なぜ・・・木更津が、殺されるに至ったのか・・・説明してくれ・・・」
木更津。
マウロと呼ばれる魔道士に殺された人攫いの名だ。
美優と言う女性を攫おうと画策していた為、殺されたのだ。だが、マウロと美優が居ない今、真実を知る者はシャノンしかいない。
「くソ・・・」
シャノンは小さく呟いた。
《怪物闘技》の観戦中に、近くで人死になど出たら騒ぎになるのは必至だ。
できる事ならば、人に見つかる前に死体を隠して起きたかったシャノンだが、そんな暇なく見回りのガードマンに見つかってしまった。
そこからは、瞬く間に騒ぎに発展した。
今、西側エリアの6階VIP席は、蜂の巣を叩いたような混乱が巻き起こっていた。
「このままジャ、米倉と秘密裏に接触するのは難しいゾ・・・」
だが次の瞬間、シャノンの耳にチャンスが舞い込んできた。
「・・・説明してくれ。米倉」
「ーーーッ!」
シャノンは思わず顔を上げる。
突如、思いもよらぬ形で目当ての人物の名を聞いたシャノン。咄嗟に、空室の扉を少し開けて通路を覗き見る。
美優の部屋ーーーつまり、木更津が殺された部屋のほど近くの空室に身を潜めたシャノン。その為、騒ぎの中心をよく見る事ができた。
「・・・」
美優の部屋の前にできた人集りを ジッと見るシャノン。
確か、米倉の特徴は小太りで、身体から直接 首が生えたような見た目らしいが・・・。
「ーーーッ!」
居た。
通路で青ざめている。卵のようなフォルムの男だ。
男は、身なりの良い男性に詰め寄られている。
それを確認したシャノンは、小さな口を釣り上げて犬歯を覗かせた。
「・・・この騒ギ、上手く使えるかも知れんナ」