白い彼、同族に会う
ジルは、ユーリとの(言葉ではなく意思を伝える)念話を交えた言葉の勉強でなんとなくならば、すでに言葉が分かるようになっていた。
そんなある日のこと。
「ジル、今日は私達の同族に会いに行こう。」
ジルはセラフィムに抱き上げられながらそれを聞いて、分からない言葉があったのか不思議そうにした。
しかし、誰かに会うということはわかったようで今度は好奇心に目を輝かせている。
セラフィムはそれを見て、可愛いと優しく笑った。
普段と同じ顔なのに、感じる温度がまったく違う。
「いつもと同じ時刻に戻る。」
「はい、了解いたしました。いつも通りにお待ちしています。」
そう、今から行く場所には他の人間を連れていかない。
なぜなら、今から行く超越者たちの集会所となっている建物があるのが魔の森という帝国内にあるスポットの最奥だからだ。
魔素濃度が高い、スポットと呼ばれる場所の中でも濃度が一番と思われているのが魔の森で、その最奥は一層酷く常人では入った瞬間に死が訪れるような場所だ。
しかし、例外というものは存在する。
生まれた時から膨大な魔力を保有する超越者は、それをコントロールする力も持つ。
また、魔素を無理矢理魔力に変換することも出来る。
そんな彼らは、魔素濃度がどれだけ高くとも無意識で調整してしまうため影響を受けることがない。
故にその場所は、超越者たちにとっては他者からの干渉を受けることもない同族たちとの交流の場なのだ。
普段は他国に属する超越者たちも、集会のある日は訪れる。
センティネラ帝国は、昔から広い国土に優秀な国民を有する絶対中立国として、攻撃されなければ友好的な国となっている。
だいたいの国が、そんな帝国を敵にするべきではないと思って超越者を集会に参加させている。
そもそも、超越者は異常なまでに同族を愛するのだ。
同族を傷つけるくらいなら、友人も家族も平気で捨てる。
彼らに裏切られるのが怖い国は、集会に参加させるしかない。
とはいえ、超越者はそれほど多くない。
今の超越者の最年長は、セラフィムである。
不老の超越者にも死はあるのだ。
中には暗殺などもあったかもしれないが、超越者のほとんどは自殺することが多かった。
周りは自分と同じ世界を見ることが出来ない、その事実に皆絶望して命を絶っていった。
セラフィムは、それをなくすために集会というものを行うようにした。
彼は、自分も同族を愛するのかという好奇心から提案したのだが、比較的に安全な国の超越者本人からのその誘いに、頭を悩ませてきた国たちは、二つ返事で了承した。
それはともかく、二人は今から転移魔法で集会所に行くのだが、本来転移魔法とは大人数で行うような魔法だ。
たとえ超越者でも、生まれたばかりの魔力ではあっという間に底をつく。
そのため、魔力がある程度増えるまではセラフィムがジルも一緒に転移させる。
転移した先は、王宮にも劣らない絢爛な部屋。
この部屋は、超越者一人一人に用意してある部屋で滞在することも出来るように、ベッドやテーブルなどはもちろん欲しいものは自分で出せないならば、固有魔法が創造であるセラフィムがつくる。
セラフィムはジルを抱えたまま、その部屋にある扉を開いた。
ジルは、楽しそうに笑っている。
それは、ジルの視界に舞っているキラキラとした光のおかげだろう。
その正体は、魔素である。
超越者は生まれつき見える魔素、それはひどく美しい。
例えるならば、雪が光を常に反射して光っているような。
普段見るものより、ひとつひとつが大きくて強く光り、たくさん舞っている。
その景色にジルは釘付けだった。
しかし、扉から出た後はそこにいる人を見た。
「ああ、もう全員いたのか。」
そう言ったセラフィムに、扉の先のかなり開けた円卓の席に着いていた人達の視線は集中した。
その視線は、自然と腕に抱えられたジルにも集まる。
一瞬の沈黙の後、席についていたものたちの驚愕の声が上がった。
これが、白い彼と同族の出会いであった。