079⚫️喫茶店での攻防
ジンとふたりで駆けつけた。地下鉄の出口は複数ある。
ココアが予想したのはG2階段を上がった改札から、
地下街に入る11番か12番出口だ。
ジンは11番へ、通りを挟んだ反対側の12番へは俺が向かう。
「いました、アキラさん。11番を出た歩道です。」
ジンが骨伝導フォン越しに伝えてきた。
「わかった。追ってくれ。俺もすぐに行く。」
階段を駆け下り、走り、上がる。ジンの前方にスミスが見える。
横路地に入って迂回し先回りだ。
予想どおりの場所にいるスミスの前方に出た。ジンと挟み撃ちだ。
「よお、また会ったな、ってことでいいのかな?」
俺の問いに、スミスは笑って答える。
「そうですね。でも、正確には、はじめまして、ですね。」
「わたしは、おかえりなさい、といいましょう。一応、あの世から戻ってきた、ということになりますからね。」
ジンもにこやかに言う。
「で、わたしをどうします?任意同行ですか、それとも逮捕ですか?」
スミス、落ち着いてやがるな。
「ここで立ち話、っていうのはどうですか?」
「と言われたら、立ち話もなんですから、と応えるのが日本の礼儀なんでしょうね。」
ジンの提案にスミスは、事も無げに返す。
男ばかりで喫茶店に向かい合うなんて、ロマンチックとは程遠いな。
「期待どおりでした。あなたがたなら、わたしを見つけるだろうと思っていました。」
「ってことは、俺たちに会いにきたのかよ?」
「この前、お目にかかった時に、お伝え忘れたことがありましたので。」
「なんだよ、それって。」
「もうあなたたちは、わたしがジョン・スミスであり、ジョン・スミスではない、とご存じでしょうから。ジョンが伝えられなかったことを、わたし、つまりジョンがお知らせに来ました。」
「近々、わたしたちは例の超人化薬物、我々が‘Supreme’と呼ぶものを、紛争地に投入します。」
「ほぉー。制御できるようになったということか。」
「まあ、本来はお伝えすることではないのですが、申し上げましょう。制御できていません。」
「ということは、服用したもの同士は攻撃対象とはならないが、あとは見境なくということですね。」
ジンは落ち着いて答える。いつものとおりだな。
「はい。紛争者双方に届けます。相手に使用させるためです。これで戦線は混乱し、指令系統は麻痺します。双方の戦闘は継続が難しくなります。さらに、いわゆる‘密売人’が両国内で流布します。依存性が強いですからね。社会基盤が崩壊し、戦争継続どころではなくなるでしょう。かつて大戦が感染症の拡大の影響で終結し、新しい体制が確立されたように。どうですか。平和がくるんですよ。」
「それは膠着状態の戦線を動かしますが、薬物によって多くの犠牲者が出た結果ですよね。終結後の社会が元に戻るのにも困難が伴う。賛成できません。」
ジンの言葉にスミスは反論する。
「なぜです?どのみち、このままでは多くの死者が継続的に出るのです。一時の犠牲の上に来る平和。破壊のあとにある訪れる戦火のない日々。いいではありませんか。」
「それが民衆が望む選択、ではないのでしょう?あなたの判断なのでしょう?」
「両国には、それぞれ薬物投与の効果を説明済みですよ。」
「と、いうことを両国は自分たちの国だけが知っている、と思っているのでしょう?」
「ふふ。そのとおりです。それでも、双方の上層部は了承し、互いに気づいているはずです。」
「それはあなたの想像です。また、仮に両国の首脳部がそれぞれ了解していたとしても、‘一将功成りて、万骨枯る’、戦争で犠牲になるのは、いつも一般の国民です。」
「わたしは旧来の悪しきものを一掃し、新しい萌芽を生み出したいだけです。治療に手術を伴えば、出血も痛みも避けられません。」
「あなたの主張では、明治維新での江戸城無血開城は不可能だったことになります。」
「あれはレアケースでした。それでも、そのあと多くの血が流れましたよ。」
「わたしが言いたいのは、その流血を話し合いで避けうる可能性がある、という史実です。」
「それは理想論ですね。」
「いえ、あなたの方が悲観論です。」
「では、あなたのお力で、わたしの薬物実用実験に代わる終結案を出してください。」
「なるほど。わかりました。前回の約束は守れていませんが、今回は総力を尽くしましょう。」
「前回の約束?」
「覚えておられませんね。そうでしょうね、あなたとは違う’ジョン・スミス’さんに言ったことですから。」
「何だったでしょうか?」
「スミスさんが‘日の巫女’の殺害を教唆したという立証です。」
「ほお。・・・その約束はまだ生きていますね。」
「つまり・・・あなたも彼女を排除しようとしている、ということですか。」
「さあ、それはどうでしょう?でも、ここでゆっくりお茶を飲んでいていいのか、ということは言っておきましょう。」
「ご心配、ありがとうございます。しっかりと胸にとどめておきます。」
「では、以上です。わたしの仕事に付き合ってくださったこと、感謝しますね。」
スミスを見送る。ヤツは黙って3人分の支払いを済ませていった。
「ジン、すぐに日ノ御子神社にもどろう。心配だ。」
「大丈夫です。うちのラボメンが、待機していますから。」
「あの10人程度の連中か?頼りになるのか?」
「ええ、かなり信頼していいですよ。」
ジンが慌てないのはいつものことだが、今回は妙に自信に満ちている。
俺はあいつらの顔を思い浮かべた。
本当に大丈夫なのか?




