060⚫️俺の出番
受付で面会の約束を取っていることを伝える。
丁寧にエレベーターに案内される。
「これって、危なくないのか?」
「ちゃっと名乗ってアポを取って来ているんですから、むこうが何かする、って可能性は低いと思いますよ。」
「ジンにしては、楽観的ね。でも、確かに、ここでわたしたちに何かあったら、それなりに事件になるものね。」
エイミーの言葉に俺は頷く。
最上階に着く。
秘書がうやうやしく迎え、部屋に通される。
窓を背にした男が、笑顔でデスクから立ち上がる。
「遠路はるばる、ようこそ。わたしがジョン・スミスです。ザ・サード・アイの代表を務めております。」
俺たちは簡単に自己紹介をする。ジンが口火を切る。
「スミスさん、先ず、わたしたちと面会していただき、ありがとうございます。さて、それでは、単刀直入に伺います。先日、日本の少女の狙撃依頼を出したのは、あなたですか。」
「いきなり危ない質問ですね。いいえ。何のことかわかりませんね。」
「そうだろうな。明らかな証拠はない。暗殺者も口を割らずに行方不明だ。」
「・・・アキラさん、でしたね。1つの国家の安全保障局の方々が、このような根拠の薄い状況でわざわざお越しになるとは、不思議ですね。」
「そうでしょうね。わたしたち、あなたをこの目でみたかっただけですよ。」
「エイミーさん、あなた、元はアメリカの科学情報局のご所属なんでしょう?日本の少女の狙撃事件に、なぜそこまで関わっておられるんでしょうか?」
「それは、あなたがやっている非合法なことについて、正直に話してくれたら、お答えするとしましょうね。」
エイミーはにっこり笑いながら言う。
が、凄みのある笑顔だ。
自分も撃たれたことも影響してるんだろうな、きっと。
「わたしは、ただ、古い体制を新しいものに変革していくという活動を、支援・援助している、ただの宗教法人とその関連企業の代表を、勤めているだけですよ。」
「つまり、武器商も営んでいらっしゃるんですよね。」ココアが静かに言う。
「お嬢さん、あなたは若い。だから、ご存知ないのでしょうね。虐げられた民衆が侵略者から身を守るには、素手でというわけにはいかないのです。」
「それで潤っている産業もあるということですね。口の悪い人たちは、あなたがたのことを’死の商人’と言っていますが。」
ジンの言葉にスミスは、穏やかに返してくる。
「そうですね。必要なものを必要とするところに届ける。それを揶揄する方々は、どこにでもいるものです。結果的に必要物を提供した、正当な手間賃をいただいているだけですよ。」
「あなたがやっていることは、殴り合いで済むところを、命のやり取りにまでしているということではないのですか?」
「ミスター・タカミヤ、あなたはヒデヨシの刀狩りがあったから、現在の日本には銃器の犯罪が少ないとでも、言うのですか?」
「密林の住民には、拳で殴り合うということを知らず、平手で戦う人々がいました。しかし、ある日、拳どころか、外部からもたらされた銃によって争うようになってしまい、死者が出たのです。」
「それはお気の毒ですね。しかし、銃に罪があるわけではありません。それを使う人が銃爪を引くわけですからね。なければよかった、というのは進歩発展する人類が、歴史上、常に抱える後悔ですね。しかし、なかったなら、今日の発展もなかったはずだ。」
「つまりエデンの園を出た限り、人類は調和の取れた社会を必ず壊そうとする、というのですか。」
「必ず、かどうかは、わたしにはわかりません。ただ、拡張を続ける社会は、矛盾の臨界点がくれば、崩壊していくと考えています。」
「しかし、その崩壊を支援し早めてもいい、と誰が判断するのですか。」
「神のみぞ知る、ですね。例え、わたしが崩壊を助長したとしても、ゆっくり死ぬか、すぐに倒れるか、の違いだけ。日本のサムライは、長く苦しんで最期を迎えるより、速く首を落とされて楽になりたい、と考えたそうではないですか。」
「わたしはサムライの考え方を理解しています。しかし、その苦しみを短くしてやる、という発想は、あくまで死に苦しむ人が選ぶことであって、第三者の傍観者が行うことではありません。タメトモに介錯はありませんでした。」
「ですから、要請がないところには支援をしませんよ。」
「と、いうことは、古いからとか、旧弊だ、とかいうことで、決して’日の巫女’の殺害を指示したことはない、ということですね。」
スミスは表情を変えない。
しかし、瞳にわずかな揺れがあった。
「そういうこと、ですね。もし、わたしが恣意的に、自分の独断でだれかの命を奪うことがあると言うのなら・・・それを立証するべきでしょうね。」
「よくわかりました。では、次におめにかかるときは、是非、その証拠を持って参りましょう。」
ジン、よく喋るヤツだったんだな。
スミスが少し微笑んでいる。
ジンも笑っている。笑顔の裏で、凄まじい気迫がぶつかる。
「それでは、貴重なお時間をありがとうございました。来日の際は、お声がけください。名所をご案内しましょう。」
「それは楽しみですね。しかし、わたしはフジヤマやキョウトなどの名所・旧跡には興味がありません。」
「では、レアな場所、そうですね、日ノ御子神社という古代からの聖域などはどうでしょう?」
スミスが乾いた笑い声をあげる。
「その名は初めて聞きますね。では、その際にはよろしく。」
ふたりが握手する。火花が散るのが見えるようだ。
「ちょっと煽りすぎたんじゃないの、ジン?」
「あんたが、あんなに強気に出るなんて、俺、正直、驚いたぞ。」
「いやあ、すみません。自分でも止まらなかったんですよねえ。」
「ま、いいんじゃない?ジョン・スミスに、直接会えたことだし。」
「そうですね。あとは日本に戻って、次の一手ですね。」
「ココア、段取りはできているか?」
「はい、ジンさん。では、空港に急ぎましょうか。」
おい、おい、俺の出番も、そろそろ考えてくれよな!




