第3部 : すべては友情から始まる
数日後に特別な第10章を公開予定です。楽しい展開はもちろん、ミステリーとロマンスもたっぷり用意していますので、ぜひお楽しみに!
「……高橋くん?」
……
「……高橋くん!!!」
私はまばたきをした。
「……高橋くん、現実に戻って」と白崎は、私の顔の前で軽く手を振った。
「……えっ……?」
「……さっき、固まってたよ」
「…そうだった…?」
「…うん。完全に固まってたよ」
私は辺りを見回した。
ショッピングモール。
喧騒。
行き交う人々。
すべてが平常通り。
あまりにも平常通り。
「…大丈夫?」彼女は少し首を傾げて尋ねた。
「…うん…うん、大丈夫」
だが、心の片隅に――
あの画面。
あのメッセージ。
[新キャラクターを検知
メインストーリールートへの干渉
キャラクターの役割 — ???]
…
「…高橋くん?」
「…ん?」
「…本当に大丈夫?」
僕は無理やり小さな笑みを浮かべた。
「…うん。」
「…ただ…映画のことを考えてただけ。」
「…それじゃ、説得力がないわ」
「…本当だよ」
彼女は、もう一秒ほど私を見つめた――
まるで、それを完全には信じていないかのように。
そして――
「…お腹空いたって言ってたでしょ」
「…うん…」
「…それなら、考え事をやめて行こうよ」
彼女は振り返り――
フードコートの方へ歩き出した。
「…おい――待って――」
私は後を追った。
人混みがさらに密集してきた。
声の騒ぎも大きくなる。
空気に食べ物の匂いが充満している。
「…何食べたい?」彼女は辺りを見回しながら尋ねた。
「…何でもいいよ。」
「…それじゃ答えになってないわ。」
「…君が決めて。」
「…いつも僕が決めてるじゃないか。」
「…じゃあ、また決めて。」
彼女はため息をついた。
「…あなたって本当に手強いわ。」
「…それに、お腹空いてるでしょ。」
「…それはそうね。」
少しの間が空いた。
そして――
彼女はほのかに微笑んだ。
「…行こう」
私たちは並んで歩いた。
人混みに溶け込んでいく。
しかし――
その瞬間に――
彼女に――
この日常に――
意識を集中させようとしたその時――
あのメッセージは――
消えなかった。
そこに留まっていた。
静かに。
しつこく。
まるで何かが、すでに動き出していたかのように。
どこか別の場所で。
そして私は、
自分の物語に何が入り込もうとしているのか、全く見当もつかなかった。
私たちはフードコートに入った。
明るい照明。
至る所に人だかり。
混ざり合う食べ物の匂い――
甘い、揚げ物、辛い――
すべてが一気に漂ってくる。
「…たくさんあるね…」白崎は屋台を見渡しながら言った。
「…うん…」
「…何食べる?」
「…何でもいいよ。」
「…またその答えか…」
彼女は私を無視して先へ歩き出し――
あるデザート屋台の前で立ち止まった。
「…おぉー、これ美味しそう…」
私はメニューをちらりと見た。
「…それ…砂糖がかなり多そうだけど…」
「…完璧よ」と彼女は自信満々に言った。
数分後――
彼女はトレイを手に戻ってきた。
イチゴのパフェ。
どら焼き。
「…かなり気合入れてるね…」
「…もちろんよ」
私は彼女の向かいに座った。
彼女がひと口かじると――
瞬く間に目が輝いた。
「…うーん――!」
「…美味しい?」
「…めっちゃ美味しい――!」
私はどら焼きを小さくひと口かじった。
…
「…うん…美味しいよ…」
「…『美味しい』?」彼女は眉をひそめた。「…それだけ?」
「…甘いね。」
「…それが目的なのよ。」
「…すごく甘い。」
彼女は言葉を切った。
そして私を見た。
「…甘いもの、嫌い?」
「…好きだよ…ただ…これほどまでは…」
短い沈黙。
そして――
彼女は微笑んだ。
優しく。
「…じゃあ、君のために作ってあげる。」
「…え?」
「…家で。」
「…マジで?!」
彼女は少し身を乗り出した。
「…それに、君にぴったりの甘さに調整してあげる。」
…
頬が少し熱くなるのを感じた。
「…そんなに自信があるの?」
「…もちろん。」
彼女はまた微笑んだ。
そして一瞬――
その笑顔が…いつもと違うように感じられた。
もっと温かくて。
「…本当に料理が好きなんだね」と私は言った。
「…うん。」
彼女は自分の料理をじっと見つめた。
それからまた私の方を見た。
「…私が作ったものを、みんなが喜んでくれるのを見るのが好きなんだ。」
…
僕はすぐには答えなかった。
代わりに、小さく微笑んだ。
彼女の美味しい料理が食べられると思うと、心の中で静かに嬉しくなった……
うわっ、美味しそう!
「まあいいや……次はあなたの番よ」と彼女は言った。「……何か買ってきて」
「……わかった……」
僕は立ち上がった。
辺りを見回した。
ある屋台が目に留まった。
スパイシーからあげ丼。
スパイシーソースのたこ焼き。
「…最高だ。」
トレイを持って戻った。
席に着いた。
「…それ、危なそう…」と彼女は言った。
「…大丈夫だよ。」
「…絶対に大丈夫じゃないわ。」
一口かじった。
「…うん…美味しい。」
彼女は身を乗り出した。
「…私も食べてみる。」
「…本当にいいの?」
もう手遅れだ。
彼女は一口食べた。
…
…
彼女の表情が固まった。
「…うっ…」
…
「…うっ??」
…
彼女の目から涙がこぼれ始めた。
「…辛い…!」
「…言ったでしょ!」
「…なんでこんなに辛いんだ…?!」彼女は口元を扇ぎながら言った。
「…水を飲んで…」
私は急いで自分のグラスを彼女に渡した。
彼女は飲んだ。
一気に。
「…まだ辛い…!」彼女はそう言い、目にはもう少し涙が浮かんでいた。
「…本当に泣いてるよ…」
「…泣いてないわよ—!」
「…泣いてるよ—」
「……これ、あなたのせいよ——!」
私は思わず
笑ってしまった。
「……笑わないで——!」
「……ごめん、ごめん——」
「……まだヒリヒリする……」と彼女は呟いた。
彼女はボウルを睨みつけた。
まるでそれが彼女を裏切ったかのように。
「……わかった……」と私は言い、トレイを少し自分の方に引き寄せた。
「……俺がこれを食べ終わるよ」
「……そうして……」
彼女はパフェの方へ視線を戻し――
今度は小さく一口かじった。
ゆっくり。
慎重に。
「……こっちの方がずっと美味しい……」と彼女は呟いた。
「……そりゃそうだろう」
俺は辛いからあげを食べ続けた。
彼女はデザートを食べ続けた。
時折――
彼女は私の料理をちらりと見ては、
すぐに目をそらした。
「……気になっているんだね」
「……そんなことないわ」
「……さっき見たでしょ」
「……あなたが苦しんでいないか確認してたの」
「…苦しくないよ。」
「…嘘つき。」
…
あと数口食べた後――
彼女はため息をついた。
「…よし…もう大丈夫だと思う…」
「…よかった。」
「…でも、まだ口の中がちょっとヒリヒリする…」
「…じゃあ、これの後に何か飲み物を買おう。」
「…うん。絶対。」
私たちは近くの屋台へと歩いた。
私は注文した――
ラムネ。
抹茶ミルク。
私は彼女にラムネを手渡した。
「……これ、飲んでみて。」
彼女はキャップを開け――
一口飲んだ――
「……おっ……」
彼女の肩の力が少し抜けた。
「……これでいいわ……」
私は抹茶ミルクを一口飲んだ。
冷たい。
落ち着く。
彼女は息を吐いた。
「…もう二度と辛いものは食べないわ…」
「…今だけそう言ってるだけだろ」
「…いや、本気よ」
少しの間が空いた。
そして――
二人で笑った。
一瞬――
すべてがまたシンプルに感じられた。
――ちらりと。
私の目がわずかに見開かれた。
[ システム
タスク2の機会を検知
10秒以内に「ラブコメの瞬間」を創出
間接キスチャンス]
…
…何…?
えっっっっっ!!!!
10…
…いや、いやいやいや—
9…
私は白崎をちらりと見た。
彼女は何食わぬ顔でラムネをすすっていた。
全く気づいていない。
8…
…冗談でしょ!!!—
7…
間接キス。
間接キス。
間接キス—?!
6…
「…これ、正気じゃない…」
5…
「…あの、えっと…白崎さん?」
「…ん?」
4…
「…あ、あの…その飲み物…ちょっと…飲ませてくれない…?」
彼女はまばたきをした。
「…私の飲み物?」
「…う、うん…」
3…
「…いいの?」
彼女は何気なく手渡した。
ためらいもなく。
2…
「…ありがとう…」
それを受け取ると、手が妙にこわばった。
心臓の鼓動が――
あまりにも大きく響く。
1…
「…もう、やっちゃえ…」私は小声で呟いた。
ボトルを持ち上げ――
深く考えずに――
身を乗り出し――
飲んだ。
彼女のストローから。
…
…
…
「…!」
頭が爆発しそうだった。
これって間接キスだ——!!
私は慌てて身を引いた。
平然を装おうとした。
完全に失敗した。
「…あ、あ、これ…」
ボトルを返した。
「…ありがとう」と彼女は受け取りながら言った。
相変わらず平然としている。
まだ気づいていない。
…
「…顔が赤くなってる」と彼女は言った。
「…そんなことないよ」
「…赤くなってるよ」
「…そんなことない」
「…あるよ」
「…暑いから」
彼女は首を傾げた――
そして――
私の飲み物に目をやった。
「…あなたの、飲んでもいい?」
…
…
…
「…えっ――?」
頭が真っ白になった。
「…あ、あの、飲みたいって――?」
「…うん?」
「…私、えっと――」
私の握る手が少し強くなった。
「…そ、そうね…」
私はそれを彼女に手渡した。
彼女はそれを受け取った。
口元に近づけた。
そして――
動きを止めた。
彼女の視線がわずかに揺れた。
ストローへと。
そしてまた私へと。
…
一瞬の沈黙。
「…あ」
彼女の顔――
一瞬にして――
真っ赤になった。
「…待って、これってつまり――」
…
僕は目をそらした。
…
沈黙。
そして――
ゆっくりと――
とてもゆっくりと――
彼女は再び飲み物を持ち上げた。
「…い、いいのよ……」
彼女は呟いた。
僕が答える間もなく――
彼女は一口飲んだ。
僕のストローから。
「…!」
…
…
…
彼女は身を引いた。
顔は真っ赤だった。
「…こ、これ…美味しい…」
「…う、うん…」
二人とも互いを見なかった。
沈黙。
そして――
彼女は私を一瞥した。
ほんの少しだけ。
「…それで…」
「…それで…」
「…あれは…間接的だったね…」
「…言わないで——」
「…キス…」
「…言わないで——!」
彼女は微笑んだ。
ほんの少しだけ。
からかうように。
「…高橋くん、すごく赤くなってるよ」
「…君の方がひどいよ」
「…そんなことない——!」
「…あるよ」
…
間。
二人とも。
まだ照れている。
まだ動揺している。
でも、笑っている。
「……ふん……」彼女は少し身を乗り出し、目を輝かせた。
「……つまり、間接的なキスがしたくて、私の血を飲もうとしたの……?」
……
「……高橋くん……」
……
「……この悪魔め。」
「……な、何だって――!?」
「…なるほど、そういうことね…」彼女は明らかに楽しそうに続けた。「…平然を装って、突然仕掛けてくるなんて――」
「…そんなことないよ――!」
「…本当?」彼女は首を傾げた。「…だって、すごくわざとっぽかったわよ。」
「…課題だったんだ――!」
「…課題?」
「……つまり……課題じゃなかったんだ!」
「……あら?」彼女の笑顔が広がった。「……じゃあ、わざとだったって認めるの?」
「……違う……俺……待って……」
彼女はクスクスと笑った。
本当にクスクスと笑った。
「……あなた、からかいやすいわね……」
「……お前が始めたんだぞ……」
「……文字通り、最初に私のストローから飲んだのはあなたよ。」
「……あなたも私のストローから飲んだじゃない!」
「……あなたが飲んだ後でよ!」
「……それでも飲んだのはあなたよ!」
彼女は一瞬、言葉を切った。
それから、腕を軽く組んだ。
「……まあ……」
「……何?」
「……たぶん、ただ負けたくなかっただけかも」
私はまばたきをした。
「……何を負けたくなかったの?」
「……この状況よ」
…
「……それ、意味が分からないよ」
「……私には分かるわ」
私はため息をついた。
それから、少し背もたれにもたれかかった。
「……わかったよ……」
「……ん?」
「……もし僕が悪魔なら……」
私は彼女を一瞥した。
「……じゃあ、君は何になるの?」
彼女は固まった。
「……え?」
「……それでも、私のストローで飲んだじゃないか」
……
……
彼女の顔がまた赤くなった。
「……そ、それは違うわよ――!」
「……どう違うの?」
「……ただ違うのよ――!」
「……言い訳に聞こえるけど」
「……言い訳なんかじゃないわ!」
私は少しニヤリと笑った。
「……じゃあ、飲みたくなかったってこと?」
「……そんなこと言ってないわ!」
彼女はすぐに口を手で覆った。
……
沈黙。
「……待って……」
「……今、君は……」
「……そんなつもりじゃなかったのよ――!」
私は笑ってしまった。
笑わずにはいられなかった。
「白崎さん……今、悪魔なのはどっち?」
「……高橋くん――!」
彼女は私の腕を軽く叩いた。
強くはない。
ちょうどいい力加減。
「……あなたって本当に手強いわ……」
「……君が始めたんだぞ。」
「……それでもあなたのせいよ」
「……そうかな」
……
また二人で笑った。
彼女はしばらく私を見つめた。
それから、少し首を傾げた。
「……上手くなったわね」
「…何が?」
「…口説き方。」
私は思わずむせ返った。
「…な、何だって?」
「…それとからかい方」と、彼女は全く動じずに付け加えた。「…昨日よりずっと上手よ。」
…
私の頭はすぐにあの時へと戻った。
あの瞬間。
あの場面。
クラス全員の前で。
「…もうその話はやめてくれ……」私は顔を少し覆いながら呟いた。
「…マジで……あの出来事はなかったことにして……」
彼女はクスクスと笑った。
本当にクスクスと笑ったのだ。
「…いや。」
「…なんで…?!」
「…だって面白かったから。」
「…全然面白くなかったよ。」
「…すごく面白かったよ。」
「…トラウマになったわ」
「…生き延びたんだから」
「…かろうじてね」
彼女は微笑んだ。
…
私たちは再び歩き始めた。
飲み物を手に。
人混みの中を縫うように。
「…それで…」彼女は周りを見回しながら言った。「…次は何する?」
「…買い物はもう済んだし」
「…映画も」
「…食事も」
「……じゃあ……?」
「……ただぶらぶら歩くのもいいかも」と私は言った。
「……うーん……」
彼女はうなずいた。
「……うん。それ、いいね。」
私たちは歩みを緩めた。
もう急ぐ必要はない。
予定もない。
ただ歩くだけ。
話すだけ。
とりとめのないことを。
学校のこと。
授業のこと。
先生のこと。
「…学校ではいつもすごく落ち着いて見えるよ」と僕は言った。
「…そう?」
「…うん」
「…それはただ、あまり話さないからだよ」
「…今、すごく話してるよ」
「…それは別だよ」
「…どういうこと?」
彼女は僕を見た。
ほんの一瞬のことだった。
「……だって、あなただもの……」
……
私は固まってしまった。
「……つまり……私たち、趣味が似てるってこと……」
私は返事をしなかった。
「……まあ、とにかく」彼女は視線をそらして、慌てて付け加えた。「……あなたも、別に静かってわけじゃないし」
「……静かだよ。学校では」
「……私が見た限りでは、そうは思えないけど」
「…それは、あなたがずっと私に話しかけてくるからだよ。」
「…え、じゃあ私のせい?」
「…当然でしょ。」
私たちは笑った。
ショッピングモールを歩きながら、私たちは歩みを緩めた。
人混みが少しぼやけて見えた。
声は背景へと消えていった。
なぜか――
私たちの周りだけが、静かになった気がした。
「…ねえ、白崎さん…」
「…ん?」
私は足を止めた。
ほんの少しだけ。
「…ありがとう。」
彼女は私の方を向いた。
まばたきをしながら。
「…ありがとう?」
そして――
彼女は微笑んだ。
「…何に対して?」
私は彼女を見た。
それから目をそらした。
そしてまた彼女を見た。
「…友達でいてくれて。」
…
彼女は足を止めた。
それに気づいた。
だから、僕も止まった。
彼女は今、まっすぐ僕を見つめていた。
真剣な眼差しで。
「…友達……」彼女はそっと繰り返した。
「…うん。」
短い沈黙。
「…実は…」僕は頭の後ろをかきながら続けた。「…高校時代、僕には友達が一人もいなかったんだ。」
彼女は少し首を傾げた。
「…リクくん以外には?」
「…ああ。」
彼女はゆっくりと頷いた。
「…なんとなく気づいてたんだけど…」
「…気づいてた?」
「……少しね。」
彼女は一歩近づいた。
「……でも、よく分からないな……」と彼女は言った。「……あなた、話しやすいし。」
私はまばたきをした。
「……それに最近……」と彼女は付け加えた。「……あなたもすごく心を開いてくれるし。」
…
私は小さく息を吐いた。
「…ねえ…」
「…ん?」
「…当ててみて。」
「…何を?」
「…私とリクが友達になってから、どれくらい経つかな。」
彼女は少し考えた。
そして――
「……うーん……4年……もしかして5年?」
私は微笑んだ。
それから、静かに笑った。
「……1年。」
彼女はまばたきをした。
「……え?」
「……1年。」
「……まさか――」
「……あと数ヶ月。」
彼女は本当に驚いたような顔をした。
「……でも……あなたたち、まるで……」彼女は言葉を捜すように間を置いた。「…… ずっと昔から知り合いだったみたい……」
「……うん……」
僕は少し微笑んだ。
「……彼は、僕が今まで出会った中で一番の親友だよ。」
……
「……それにね……」
僕は小さく笑った。
「……彼がバカでよかったな、って思うよ。」
彼女はまばたきをした。
「……それに、めちゃくちゃで。」
僕はまた笑った。
彼女は私を見つめていた。
じっと。
ただ聞いているだけじゃない。
理解しようとしている。
「……高橋くん……」彼女は静かに言った。
「……ん?」
「……あの……中学の頃……」
……
「……友達はいなかったの?」
私は言葉を止めた。
ほんの一瞬だけ。
それから――
私は微笑んだ。
「……いたよ。」
「…『いた』?」
「…うん。」
僕は前を見た。
彼女の方ではなく。
「…いわゆる『友達』は、たくさんいたよ。」
その言葉を少し強調した。
「…でも…」
僕は小さく息を吐いた。
「…あの頃の『友達』の定義は…」
僕は再び彼女の方を向いた。
微笑みながら。
「……それに、リクにとっての『友達』の定義……」
少しの間を置いた。
「……は、全く違うんだ。」
……
彼女は口を挟まなかった。
ただ聞いていた。
「……それにね……彼以外で……」私は声を少し柔らかくして続けた。「……実際に僕に話しかけてくれたのは、君が初めてだったんだ。」
彼女の目が少し見開かれた。
……
私はまた微笑んだ。
「…だからね…」
「…本当に嬉しいよ…」
「…もう一人、親しい友達ができて。」
…
沈黙。
ほんの一瞬だけ。
私はそれに気づいた。
その微かな変化に。
彼女の笑顔はそのままだった――
けれど――
ほんの少しだけ――
何か別のものが混じっていた。
もっと優しい感じで。
もう少し静かに。
「……なるほど……」と彼女は言った。
そして――
私が反応する間もなく――
彼女は一歩踏み出した。
そして――
私を抱きしめた。
「……!」
頭が真っ白になった。
「……シ、白崎さん……?!」
彼女は何も言わなかった。
ただ、しばらくそのままでいた。
それから彼女は身を引いた。
私を見上げた。
以前よりも近くで。
「…うん。」
「…そ、それって何のため…?」
「…何でもない。」
かすかな微笑み。
「…ただ、あなたにハグが必要だと思っただけ。」
…
顔が熱くなるのを感じた。
「…あ、あの…」
「…ありがとう…」
彼女はまばたきをした。
そして、ため息をついた。
「…本当に『ありがとう』ってよく言うね…」
「…そうかな…?」
「…うん。」
少しの間が空いた。
そして――
彼女はまた微笑んだ。
「…でも、なんだかいい感じ。」
…
私は気まずそうに頬を掻いた。
「…減らすようにするよ…」
「…やめて。」
「…え?」
「…やめて。」
…
彼女は少し体を向けた。
また歩き始めた。
…
私はしばらくその場に立ち尽くした。
そして――
後を追った。
「……それ、わざとそう言って、もっと言わせようとしてるんでしょ」
「……そうかも」
「……それって悪いやつね」
「……さっき、君が自分を悪魔だって言ったじゃないか」
「……あなたが言い出したのよ」
「……それでも君のせいだよ」
「……またその話?」
彼女は笑った。
僕も笑った。
そうして——
その瞬間、また雰囲気が和らいだ。
その後、僕たちはいくつか用事を済ませた。
大したことじゃない——
あちこちでちょっと立ち寄っただけ。
僕はいくつか物を買った。
白崎もいくつか買った。
ほとんどが小さくて可愛いもの――
決める前から彼女が微笑んでしまうようなもの。
私たちは歩き回り――
とりとめのない話をした。
大したことじゃない。
でもなぜか――
空虚には感じられなかった。
時間は過ぎ――
思ったより早く。
そして気がつくと――
空はすでに薄暗くなり始めていた。
「……もう遅いね……」白崎はガラス越しに外をちらりと見ながら言った。
「……うん……」
少しの間が空いた。
「……帰ろうか」
「……うん」
タクシーを呼んだ。
数分後――
私たちは車内に座っていた。
並んで。
窓の外を街の明かりが流れていった。
柔らかく。
ぼんやりと。
「…今日は楽しかったね」と彼女が言った。
「…うん」
「…買い物…」
「…必要もない服を試着させられたし」
「…似合ってたよ」
「…そういうことじゃないの」
彼女は小さく笑った。
「…映画も最高だったし…」
「…うん…」
「…あの裏話…」
「…まだ胸が痛む。」
「…そうよね?」
短い沈黙。
今回は心地よい沈黙だった。
それから――
「…ありがとう。」
僕は少し体を向けた。
「…今、何に感謝してるの?」と僕は尋ねた。
彼女はかすかに微笑んだ。
自分の手を見つめながら。
「… 「今日、一緒に来てって誘ってくれて。」
…
「…本当に楽しかった。」
胸の奥が、何かがほぐれるのを感じた。
「…うん…」
彼女はためらった。
ほんの少しだけ。
「…あと…」
彼女をちらりと見た。
「…私…」
彼女は視線をそらした。
ほんの少しだけ。
「…また、こんな風に二人でどこかに行きたいな…」
…
「…二人きりで…」
最後の言葉は、彼女の声が小さくなった。
柔らかく。
ささやき声より少し大きい程度に。
…
聞こえた。
はっきりと。
…
顔が急に熱くなった。
僕も目をそらした。
「…う、うん…」
…
頭の中――
そして心臓――
が激しく鼓動し始めた。
彼女はただ……
また出かけること……
を言ってるだけ……
そう……
それは普通のこと……
だよね……
僕たちは友達だし……
そう……
僕は心の中で小さく頷いた。
「……うん……また行けるよ……」
彼女はすぐには返事をしなかった。
でも、僕は気づいた――
彼女の顔に浮かんだ、小さな微笑みを。
それは――
静かに、
残りの道のりは、沈黙の中で過ぎていった。
気まずいわけではなかった。
ただ……
満たされていた。
混沌と始まったその日は――
静かに幕を閉じた。
だが、どこか別の場所で――
この穏やかな瞬間からは遠く離れた場所で――
別の何かが起きていた。
私たちには見えなかった何か。
私たちには知らされていなかった何か。
私が白崎と一日を過ごしている間に――
一体何が……
リクに?
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