第十三話:医と記録と香の果てに
数日後、寧華は正式に拘束された。
罪状は、香術による殺意と、妃の意識支配、術帳の不正使用。
凌華は、すべての香術の記録を“医療記録”として公文書化した。
「香は術でもあるけれど、医でもある。ならば私は、香を診て、香を裁く医者になる」
その決意に、老医官は目を細めて言った。
「おまえは父上を越えた。医術だけでなく、“記録と闇”にも切り込んだな」
凌華は、破られた術香の封じ札を手にしていた。
そこには、父・凌司雲の筆跡でこう記されていた。
>《香を診る者が現れれば、闇の香も無力なり》
父もまた、香の中に医の可能性を見ていたのだ。
翠道が傍で問いかける。
「これからは……どうされますか?」
凌華は迷いなく答えた。
「私は医者。だけど、香の裏も見られる医になる。後宮が香で沈黙するなら――私が声を取り戻す」
風が吹き、香包がひとつ揺れた。
その香はもう、封じの香ではない。
命を繋ぐ香として、これからの後宮に、淡く香り立っていく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
香りが命を支配し、医がその闇を斬る――そんな後宮の物語を描きました。
第一部では、「香」と「記録」と「医術」の三つ巴が交錯する中で、
女医・凌華が自らの信念を見つけるまでを描いています。
もしこの物語が、少しでも“香るような余韻”を残せたなら幸いです。