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Fake Ghost Vox  作者: uki
9/10

初めての恋

「・・・・やっぱこれ俺のPCだわ」

起動した謎のエロゲは、全ての選択肢の前でセーブしてあり、おまけの裏シナリオのCGまで開放されていた。

しかし1級エロゲ技師(自称)の俺にも心当たりのないタイトルだ。

「だが」

ポキポキと指を鳴らす。

「この程度造作もない。3時間で終わらせてやる」

オートモードは甘えを信条にしている俺の速読はもはや常人の域を超えている。

この中に手がかりがあるだろうからやるだけであって。別にやりたいわけではあります。


「なるほど」

ある程度進めて分かったこと。入学してきた主人公のまわりにおこるドタバタを描いたラブコメであり、ヒロイン全員銀髪というマニア垂涎ものの異彩を放つ特色を持っている。

俺は隣のクラスの留学生のレイチェルに狙いを絞った。

銀髪のセミロングの貧乳ちゃんで俺の琴線には一切触れないが、何故か一番気になった。

出会いのきっかけは、次の移動教室がどこかわからない彼女を主人公が連れて行ってあげるというもの。

隣のクラスということもありなかなか一緒の時間を作れないというじれったさに俺はやきもきしていた。

同じクラスの親友の手を借りて何とか時間を作り一緒に帰ったりしながら距離を縮めていった。

言葉は通じるが価値観が違う彼女に若干の苦戦を強いられたが、ついに初デートまでこぎつけた。

王道の夏祭りデート。異国から来た彼女は祭に興味津々ではっきり言ってちょろかった。

ここまでで15分。なかなか手こずったな。

途中黒髪ボインの先輩キャラの邪魔がなければもっと早かったんだが。


デート当日。慣れない浴衣姿の彼女は歩きにくそうにこちらに向かってきた。

約束の30分前。お約束の楽しみでお互いに早く来ちゃった展開に若干萌えた。

金魚すくいに射的、チョコバナナと王道のイベントをこなしていきついにメインの花火大会というところでそれは起こった。

人込みにぶつかって主人公のメガネが飛んで紛失してしまう。俺と同じでこの主人公は伊達メガネだから問題はないのだが、心配したレイチェルはそっと手を差し出して繋いでくる。

「いや、ここは人込みではぐれないように先にヒロインの手を引くところだろ」

なんだこの主人公は。さっきからプレイしていて軟弱なところがちょくちょく目に付く。

彼女は顔を真っ赤にして俯いて、早く行こうと急かしてくる。

花火を一緒に見て帰宅。え、何もないの?

「裏の林の中でSEXせんのかぁぁぁいっ!!」

ついつい突っ込んでしまった。この時点で二人はまだ付き合っていない。

俺としたことが見誤ったか。俺はパンツを履きなおしシナリオを進めた。


心の距離が近づき、レイチェルのことを愛称を込めてレイと呼び始める主人公。

レイも主人公をイッキと呼び始める。

「げ、俺自分の名前主人公に付けたのか・・・」

今まで君とか貴方しか言われなかったから気づかなかった。

レイか。あいつ無事かな。まぁいい。続きだ。

エロゲの前にはすべてが二の次になる。これも1級技師の運命か。


よくある、ルートに入ってからヒロインのシリアスな事情に踏み込んでいく展開。

彼女はどうやらクラスでイジメにあっているようだ。

銀髪で赤目の彼女は周りから浮いていて、幽霊扱い。留学生ということもあいまって遠ざけられている。

主人公に心配をかけまいと気丈にふるまう姿に胸が痛くなった。

この先どうやって主人公が助けるのか気になるところだ。

さらにシナリオを進めていくと・・・・

「は?」

茫然とした。理由も告げずにヒロインが転校して終了。

まさか俺とした事がBADに突入でもしていたのか。

「なんだよ・・・なんだよこのクソゲーは・・・」

普通ならすぐに板に晒してディスクをフリスビーにするほどの駄作だが、俺は何故か涙していた。

鍵のグラノダでも涙目になった程度の俺が涙を零していた。

なんでだろうこんなに悲しいのは。

暗くなった画面の前で俺はただただ天井を眺めていた。



SIDE  レイ

これはきっと私の夢。


出会った頃の彼はなんだか暗くてとっつきにくい印象だった。

パパの仕事の都合で日本に来たばかりの私は不安でいっぱいでいつも泣いていた。

彼の事を私も言えないな。友達もできなくて学校楽しくなかった。

あの日もそう。移動教室がわからなくて、友達もいないから誰にも聞けなくて。

そんな時彼が声を掛けてくれた。

「どうした?」

「っ!?」

ぶっきらぼうな彼の声に驚いてし固まってしまった私。

そんな私をぼーっと見つめている彼。

「あぁ、お前2組か。科学室ならあの階段登ってすぐ」

私の手にあった教科書を見て気づいてくれたみたい。

ペコリ。

恥ずかしくてお礼も言えずに逃げてしまった私。

後悔した。また会えるかな。ちょっとだけ学校に行く楽しみが増えた。


アプローチは突然だった。彼の友達の信楽君がいきなりクラスにきて私を呼んだ。

クラスに居場所がいない私はすごくドキドキしたのを覚えている。

信楽君とは清掃委員会で一緒になって少し話した程度だった。

「レイチェルさ、一緒に飯食わない?」

意味がわからなかった。でもその時はクラスの注目を集めているのが嫌で信楽君に付いていったっけ。

「屋上で飯食ったことある?けっこういい眺めだぜ」

何を言ってるか緊張して頭に入らなかった。この時はずっとうつ向いていた。

屋上に着くと彼がいた。・・・零子先輩と一緒に。

3人は幼馴染みたい。なんで私誘われたんだろう。でも彼に会えたからいいや。

何を話したかは緊張して覚えてないけどすごく楽しかったことだけは覚えてる。


そのあともちょくちょく信楽君は私に会いに来た。

ある日私が、どうして?と聞くと、零子先輩が好きだから協力してほしいと恥ずかしそうに打ち明けた。なんだか友達ができたみたいで嬉しかった。私も彼が気になっていたしこんな素敵な事があるんだって、この時初めて神様に感謝した。


クラスが違うから会えるのはお昼と帰り道だけだったけど、私と彼の距離は確実に縮まっていたと思う。わざわざ方向が違うのに送ってくれる彼のやさしさにドキドキした。


そしてついに初デートの日。デートなんて大したものじゃないのかもしれないけど、私にとってはそれで十分だった。彼とお祭りに行けるのが嬉しくて。


30分も早く約束の神社の大樹についてしまった。彼に笑われるかな?と思ったら彼はもう来ていて。お互いに顔を合わせて笑ったっけ。

「行くか」

相変わらずぶっきらぼうに告げる彼。さっさと歩いて行ってしまう。

あの手を握りたいのに

「・・・やっぱり遠いな」

「ん?なんか言ったか?」

私の呟きは風にかき消された。


日本のイベントは何もかもが目新しくてキラキラに輝いて見えた。

隣にいるのが彼ということもあってとても幸せな時間だった。

金魚すくいや射的でムキになってる彼の横顔が愛おしかった。

やっぱり私彼が好きなんだってこの時初めて自覚したのかもしれない。


最後のイベントの花火。なんだかデートらしくなかったなんて私は少しワガママになっていた。この花火で挽回なんて思っていたら、人込みにぶつかって彼のメガネがどこかへいってしまった。

立ち止まってしまった彼、私がなんとかしないと。

「ほら、早く行こう」

彼の手に初めて触れた。心臓が破裂しそうだったの覚えてる。

「お、おう」

彼も恐る恐る握り返してきてくれた。


楽しみにしていた花火はよく見えなかった。彼の横顔に夢中になりすぎて。

目が合うたびに照れくさそうに逸らす私たちがなんだかおかしかった。


「ん・・」

ここどこだろう。私は大きな黒い皮のソファに寝かされていた。

「ようやくお目覚めですか?」

寝起きの私に話しかかる仮面の男を見た途端状況を理解する。

「私、塔から!落ちて!ここ!」

「落ち着いてください。あなたは生きていますよ無事です」

私をなだめる仮面の男。というかそんなことより

「なんであんた裸なのよ!?」

私の前で堂々と全裸を晒している仮面の男。やっぱり変態なのかしら。

「おや失敬。さっきまでシャワーを浴びていたのでね」

たしかに前髪が少し濡れている。全裸に仮面。やっぱり変態だわ。

お腹に少し大きめの十字の傷がある。あれ?あの傷どこかで・・・

「あんたその傷どうしたの?」

どうしても気になった。あんな傷誰にでもあるものじゃない。

「おっと、お話はここまでです。お寝坊の王子様がようやくお迎えに来たようですよ」

「え?それって」

ソファから体を起こす私のもとから蛍が一匹飛んで行った。

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