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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ
第10章 魔界動乱

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9 切り札

 俺を狙ったゼガートの一撃を、リーガルが受け止めていた。


 俺を、助けたのか……?


 驚いて髑髏の剣士を見つめる。

 ゼガートもまた驚きと戸惑いの表情で、


「……フリードに与するか、リーガルよ」

「分からなくなったのだ……俺には」


 髑髏の剣士がうめいた。


「人間への憎しみが消えたわけではない。消えることもない。だが、この男は──」


 と、俺を振り返るリーガル。


「何かが、違う。ともにいると、心が少しだけ──すでに失ったと思っていた俺の『心』が、ほんの少しだけ温かくなるような気がするのだ」

「……ふん」

「それがなんなのかを確かめたい。ゆえに、今は魔王様を討たせるわけにはいかなくなった」

「随分と勝手な言い草だな、不死王」


 ゼガートが不快げにうなる。


「言い訳はできん。だが俺は、この剣を退くこともできん」


 リーガルは折れた剣を構えた。

 その体から、ほとんど瘴気が消えている。

 冥王終焉斬《ハーデスブレード・エンド》──。

 俺との戦いで、数千年溜めこんだ瘴気をほとんど使い果たしたはずだ。

 もはや戦う力はロクに残っていないだろう。


 それでも、リーガルの闘志はまったく萎えていない。


「儂は容赦せんぞ、フリード、リーガル」


 ゼガートが静かに告げ、ツクヨミに視線を向けた。


「やれ」

「『アレ』を出すのでありますか?」

「生き死にの勝負は最後まで何が起きるか分からん。切り札はここで一気に切る。このまま圧倒的な力で叩き潰す」

「稼働率はまだまだでありますが──まあ、実戦テストも兼ねて、ちょうどいいでありますな」


 言って、ツクヨミが右手を掲げる。


「『闇の王』」


 空に、呼びかけた。




 るおおおおおおおおおおおおんっ!




 不気味な咆哮が、響き渡る。

 上空から何かがゆっくりと降りてきた。


「なんだ、あれは──」


 俺は呆然と空を見上げる。


 黒い、竜。

 全長は百メートル以上あるだろうか。

 魔導装甲で覆われた、機械的なデザインの巨竜だ。


「『魔想覇王(アシュタロートギア)』──神に対抗するための、魔王城防衛兵器の一つ。未完成品ではありますが」


 と、ツクヨミ。


 魔王城の防衛兵器──。

 確かに先代魔王ユリーシャからの引継ぎで、その存在は教えられていた。


 だが、兵器の大半は太古の戦いで破壊され、今では用をなさないと聞かされていたのだ。

 それが修復されていた、というのか……!?


「太古、神と始まりの魔王(ヴェルファー)との戦いで城の地下に封じこめられていたものを、自分が起動させたのであります。稼働率はせいぜい30%……といったところでありますが、しかし──」

「力を使い果たしたお前たちを葬るには十分すぎる性能だ」


 と、ゼガート。


「魔王城の地下には、まだ他にも何かが眠っているのであります──おそらくは。それを思う存分に調べることができるなら──そのための知識を『かの者』から得られるなら、自分にとってゼガート殿に与する報酬は十分であります」

「知識欲、というわけか」


 それが、ツクヨミが反乱に加担した理由か。


「自分は前魔軍長イザナの道具として生み出されたのであります。ですが、そのイザナは死に、今は自由──ならば、自らの意志のままに生きるのであります。すなわち」


 ツクヨミの声に、初めて熱がこもった。


「研究者としての道を貫くのであります……っ」


 ぎぃぃぃぃおおおおおぉぉぉぉぉぉ……っ!


 鉄が軋むような鳴き声とともに、巨竜が口を開く。


 閃光が、視界を埋めた。


 黄白色に輝くドラゴンブレスが獄炎都市を薙ぎ払う。

 建物がまとめて消滅し、都市の四方にある黒い火柱もまとめて吹き飛んだ。


「この威力は……!」


 一瞬にして、ジレッガは廃墟と化していた。


 これを勇者迎撃戦に使っていれば、もっと楽に戦えただろう。

 それを使わなかったのは、なぜなのか。

 当然、反乱のための秘密兵器だったからだろう。


 たとえ勇者たちによって魔族が犠牲になっても──。


 俺はぎりっと奥歯を噛みしめた。

 いや、今は怒りなんて後回しだ。


「リーガル!」


 俺は彼の側に駆け寄り、魔力障壁の呪文を唱えた。


「『ルシファーズシールド』!」


 だが発動した障壁はすぐに揺らぎ、消えてしまう。


「無駄だ無駄だ。儂だけでもお前たちを駆逐できそうだが、さらにツクヨミとこの兵器まである。逃れるすべはない──」

「──まだだ」


 俺は諦めていなかった。

 諦めて、たまるか。


「俺も、リーガルも、リリムたちも──生きてこの場から逃れてみせる」

「ならば、その希望ごと打ち砕いてやろう!」


 ゼガートが拳を振り上げる。

 鋭利な爪が鋭く光る。


 それを迎撃できる威力の魔法は、もう撃てそうになかった。


「させない! 魔王様はあたしたちが守る!」


 飛び出したのはリリムたち警備兵だ。


「よせ、お前たちじゃ──」


 確実に殺される!

 俺は彼女たちのさらに前へ出ようと、駆け出し──、


「『アイスブラスト』!」


 突然、氷の魔法が後方から飛んできた。


「むっ!?」


 上級の氷結魔法を不意打ちで食らい、後退するゼガート。

 さすがに今の一撃では倒せないものの、多少のダメージは受けたようだ。


「魔王様、ご無事ですか!」


 背後から走り寄る者がいた。

 この声は──、


「ステラ!」


 黒衣をまとった銀髪の美しい少女が、俺の元に駆け寄った。

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