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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第二章 知らなくたって、いいんだよ
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どーでもいーじゃん(4)


玄関で、音が聞こえた。

導かれるように、俺は自分の部屋を出て、玄関へと下りる。

そこには、姉の智里が居た。

靴ひもを結び直して、俺の気配に気づいて振り返った。


「……剛司……」

「姉ちゃん、頑張って……」


姉は無理をしたような表情で笑った。

それから涙をこらえるようにして、上を向いた。


「剛司も……出て行った方が、幸せだよ。」



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



俺の質問を噛みしめて、ついでに最後の一口も噛みしめて、

慎悟はじっくりと考えた。その間に俺は残りのご飯を減らした。

答えはすでに決まっているらしかったが、慎悟はちゃんと言葉を選んだ。


「やっぱり不安はあったよ。だけど、あいつらはあいつらだし、それなりに何とかなると思ってたかな。達也やテルは何も知らなかったしね。」

「あーなるほどじゃん。」

「あとは、それ以上に家を出たいって気持ちが強かったかな。色々トラブルが起きたのは、ほとんど家のせいだと思ってるし……うん、そんな感じ。」


俺は思わず目を反らして、手元のカレーに目を向け、手を動かした。

慎悟の目は、純真で透き通っていて、まっすぐだった。


「やっぱすげーじゃん。過去に立ち向かうって、並大抵のエネルギーじゃできないんじゃね?」

「そうかもね……勇気は必要だったと思うよ。」

慎悟は口角を上げて笑う。目元にしわが寄った。


残ったカレーをかけこみながら、俺はぼんやりと考えていた。

過去に立ち向かう、その言葉の持つ意味を。


ちょうど俺がカレーを食べ終わったので、慎悟は席を立った。

そのまま二人で一度部屋に戻り、風呂へ向かったが、

そこからは大した会話もなく、ただ思い思いに時間を過ごしていった。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



一人、風呂から帰る途中、廊下の端から佐久馬が歩いてくるのが見えて、

無駄のない歩き方と、一瞬たりとも崩れない髪や表情に、俺は苦笑した。


「佐久馬じゃん。ハロハロー。」

「ええ、どうも。」

「風呂とか入んねーの?いっつも髪型決まってんじゃん。」

「そうですね、早朝に入るようにしています。」

「へー。」


この会話自体に大した意味はないと思われるので、

そのまま通過しようとしたものの、佐久馬が俺を引き留めた。


「ちょうどよかったです。今、お時間ありますか?」

「いーよ。なに?」

「……ここでは何ですから、場所を変えましょう。お茶を出しますから、是非調理室へどうぞ。」


何の話をされるのか、大体の見当はついていながらも、

俺は佐久馬に言われるままについて行き、調理室へと向かった。



「『奇跡の子』織田直樹のことなんですが……」

「やっぱりじゃん。」

「お察しの通りです。体育祭ではめざましい活躍を遂げ、執行部、部長会、寮生の三大組織に名前が知れた彼について……どう思われますか?」


佐久馬は眼鏡の縁を上げて、俺を見つめたが、

正直俺には、質問の意味がよく分からなかった。


「どういう意味?」


「あそこまで目立った彼に対して、不快感はないか、と聞いているのです。」


佐久馬の目は、俺の瞳の奥に眠る感情を射抜いたかのようだった。

織田直樹の活躍は、非常に惹きつけられるものであったのは確かだが、

その活躍に、全ての人間が良い思いをしたかというとそうではないだろう。

結果だけを見ると、あの男がいたチームは全て勝利を挙げている。

もはや、そこに公平性など存在しなかった。


「別に不快感ないよ。あーいう奴もいるじゃん。」


俺はあっけらかんと答えてみせた。

しばらく佐久馬は疑わしそうに俺を見ていたが、やがてふっと笑った。


「食えない方ですね、貴方は。」


そう言って佐久馬は自分で注いだ紅茶を飲んだが、

一転、彼は顔を歪ませて紅茶のカップを見つめた。


「……濾しすぎましたかね?少し苦いですね。」


……俺は手を付けなくて正解だったようだ。

しかし、織田直樹のことを俺に聞いてきたのは、

あの体育祭で、俺が直樹君に不快感を示したように見えたからだろうか。

いずれにしても、彼の仕える渡透のためにこの質問をしているのだから、

常に一緒に過ごし、居ない時まで彼の事を考えなければならないのは大変だ。

苦い顔をする佐久馬に対し、あえて踏み込んでみる事にした。


「よくそこまで人のために動けるじゃん。」

「……人のため、とは透様のため、ということでしょうか?」

「普通に考えてそーじゃね?」

「透様との関係を勘繰るのがお好きな様ですね。前にもお答えした通り、私は 生まれた時から透様と一緒に居て、それが当たり前だったのです。」


もうそれ以上の答えはない、という顔で憤然としている佐久馬。

育ちの良さそうな彼の姿から見ても、

俺は彼の環境がいかに恵まれているかを思わざるを得ない。


「生まれた時から一緒に居たってさあ。」

「何でしょう?」

「その人を好きになるかどーかは、巡りあわせ次第じゃね?」


紅茶を手に取って一口飲んでみた。確かに苦い。

この苦みは、心の奥底に広がり始めている余計な感情のせいではない。

佐久馬は一定の理解を示しながら、穏やかに笑った。


「その通りですね。ならば私は、巡りあわせが良かった、という事でしょう。」

「すげー自信じゃん。」

「ええ。それでは、貴方には巡りあった方はいらっしゃらないのですか?」


俺の真意を確かめるかのように、佐久馬は聞いてきた。

佐久馬が苦い紅茶を全て飲み干すまで、俺は作り笑顔をして待っていた。


「さーね。居たとしても居ないとしても、言う必要はないじゃん。」

「それもそうです。……お時間を取らせてしまいましたが、それなりに有意義な情報交換が出来ました。」

「良かったじゃん。」


佐久馬が俺のカップを取り上げて、まとめて片付け始めたので、

俺も席を立ち、調理室を出ようと彼に背を向けた。

その時、一度水道を止めた佐久馬が俺の背中に向かって付けたした。


「ああ、私自身、自分が特異な例であるという事は自覚しているのですよ。健全な男子学生であれば、学生生活の中で生涯の友を獲得するようですからね。そんな友が、貴方には居るのではないでしょうか?」


あえて最後の質問には何も答えること無く、俺は階段を駆け上がった。


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