ネガティブ・アスリート(10)
種目:騎馬戦
えー、以前もお伝えした通り、僕らのいる白組は、
スポーツ馬鹿の竜飛龍馬、「春風」桜塚紅などが控える最強四組と、
「帝王」渡透の率いる五組後半チームがふんぞり返っているわけで、
さらにそこに「奇跡の子」織田直樹のいる僕ら三組で、負けるはずないです。
作者はクラス替えの時こういうバランス考えなかったんですかね?
さっそく騎馬を組み始めた僕らは、作戦通り直樹くんを上に乗せます。
今までは達也さんが上で、細くて軽かったので上げるのも楽でしたが、
直樹くんは一応筋肉もしっかりしているし、難しいんじゃないかと思いきや、
ひょいっと、まるでプラスチックのケースでも乗っけたように、
軽々と僕らの上に乗りました。この人本当に人間なんでしょうか。
前の六道さんがしっかり支えているせいか、
僕と達也さんはほとんど負荷がかからず、非常に楽チンです★
開始合図の直前に、渡様が乗っている騎馬が一歩前に出ました。
「予定通り、指揮は僕が執る。勝利は見えているが、油断は禁物だよ。事前に伝えておいたフォーメーションで、確実に相手を潰そう。」
ほくそ笑む渡様。この人やっぱりまとめさせたらピカイチですね。
ところで、日陰の僕らはフォーメーションなんて聞いていないんですがあ。
「俺たちは前から、四組は回り込んで後ろから突っ込む作戦だ。劣勢な箇所に少し遅れて五組が突っ込むらしい。」
「何も考えず突っ込む囮役を務めれば良いんだな。」
直樹くんと六道さんが聞いていたようでした★
しかし僕と達也さんは後ろ側なんで、あんまり聞いても意味ないような……
渡様が白組全体を鼓舞し終わった時、笛の音が甲高く鳴り響きました。
騎馬戦スタート。反射的に六道さんが早足で動き始め、
僕らは足がもつれないようについて行くのに必死でしたが、
やがて敵側の第一陣が目の前に近づいてきました。
「左側が脆い。そっちに向かってくれ。」
「分かった。」
直樹くんの状況判断を聞いて動く六道さん。
僕と達也さんは半分振り回されながら、騎馬を崩さないように気を付けます。
まあ、六道さんの安定感と直樹くんの軽さが相まって、
僕らとしても非常にやりやすいんですが……。
「お前が織田か!リレーのエースを倒して、人気者になるぜえええ!!」
「遅い。」
モブキャラ全開で迫ってきた一つの騎馬の攻撃をすり抜けて、
直樹くんが早わざで相手の帽子を奪い取ります。
僕らは安定感がありすぎて上の状況を見る余裕さえあります。
「直樹すごいな!その調子で頑張ってくれ。」
「ああ。」
達也さんのエールにそっけなく答えたかと思うと、
また次の騎馬が迫って来て、今度は六道さんに指示を出して、
こちらから猛攻をかけ、驚いてバランスを崩した相手方の帽子を奪います。
……そもそも六道さんはかなり威圧感のある人なので、
この人が先頭で向かって来ただけで、恐れおののいてしまいますよね。
「行っくぜー!!」
その頃、ようやく四組チームの回り込みが完了したようで、
スポーツだけは得意な男、竜飛龍馬の合図と共に、
四組勢が相手方の後ろ側から猛攻をかけはじめました。
我々も完全に囮というわけでもなく、なかなかいい勝負をしています。
「次は向こう側を攻めよう。後ろに気を取られている隙に、前から」
「そう簡単にはいかねーじゃん。」
直樹君が進行方向を指さした時、後ろから聞き覚えのある声がしたかと思うと、
うのぽんの騎馬が僕のすぐ後ろに控えていました。
神様が後ろで支えているのがギリギリ目に入りましたが、
僕の目の前にはその騎馬を先頭で支える、洋次くんがいました。
「悪いな。」
「え……?」
洋次くんはほぼ蹴りにも近い勢いで、足を僕の方に回し、
なんと僕の足を引っかけようとしてきたのでした。
筋力のない僕の足は、屈強な洋次くんの足ともつれる形になったので、
僕はバランスを崩し、思わず六道さんとつないでいる手を離してしまいました。
「恒太!」
「ハッ!チャンスだ宇野君。行くのだ!!」
脆くなった僕の方に、洋次くんが一歩踏み込むと、
六道さんが体勢を立て直そうとする前に、
片足が宙に浮いた状態の直樹君の帽子に、うのぽんが手を伸ばしたようでした。
僕は慌ててもう一度直樹君を支えるべく六道さんの手を取ろうとしたのですが、
その手を取った時には、もう決着はついていました。
……直樹くんがすさまじい反射神経とバランス感覚で、
うのぽんの猛攻を退け、逆にうのぽんの騎馬のバランスを崩させて、
彼の帽子を造作なく取り上げてしまったようでした。
僕は自分の事で精一杯だったのでよく見ていませんでしたが、
帽子を失って、意気消沈して戻って行くうのぽんたちの後姿が印象的でした。
そこでちょうど競技終了の笛が鳴り、
大方の予想通り、白組の圧勝で騎馬戦は幕を閉じたのです――。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ハロハロー。優勝おめでとーじゃん。」
その後も大番狂わせも無く、白組の優勝で体育祭は終わり、
用もなく帰る支度をしていた僕と達也さんのもとに、
先ほど激闘を繰り広げたうのぽんがやって来ていました。
彼の姿を見た瞬間、達也さんが怪しむようにして尋ねます。
「おい剛司、さっきのは何だったんだよ?恒太が洋次に足引っかけられて、最悪怪我してたかもしれんぞ。」
「まー悪あがきにも近い作戦じゃん。そーするって決めてたからね。」
「……何だと?」
「ま、まあまあ……僕は何事もなかったわけですし、怪我をしてたとしても僕が貧弱なだけですから……」
実際怖かったですけどね。洋次くんのあの攻撃。
でもそれ以上に、今のうのぽんの様子と、達也さんとの雰囲気の方が、
ぶっちゃけ、よっぽど怖いです。……何やら嫌な予感がします。
「剛司お前、恒太を怪我させてまで勝ちたかったのかよ?」
「あ、あの達也さん……心配してくれるのは嬉しいですが、僕大丈夫なんで」
「いーや。勝ちにもうこだわりは無かったんじゃね?どーせ『奇跡の子』が居たら、勝負になんねーじゃん。」
剛司さんは自虐的に、何やら不可解な表情でそう語ります。
……確かに、白組の圧勝は、オールスター四組&渡様たちの影で、
「奇跡の子」直樹くんによって支えられてるところが大きいです。
「直樹は『負け』を知らない」という言葉が、現実味を帯びてきました。
「じゃ、直樹くんによろしくー。」
僕らの言葉を聞くこともなく、そのまま去っていくうのぽんの後ろ姿は、
何だか後味悪く、僕らに気味の悪い感触を残していったのでした……。




