あぶない!保健室(3)
「わ、綿華さん!よ、よかったら俺と結婚……じゃなくて、お昼を食べ」
「はー、どっちも論外。」
昼休みになって、英語の実力別クラスから帰る途中、
教室に着く前に、どこからか工藤が現れた。
当然、彼の申し出は却下。いい加減諦めて欲しいわ。
でも、工藤は目をキラキラさせて向かってくる。
「もしかしてそれって、シミュレーションNo.28、何度も拒絶することで俺が障害を乗り換えてくるかを試しているっていう」
「はい、どーん!」
笑顔でグーパンチ!工藤は倒れた!
面倒過ぎたから武力行使したわ。工藤はそこでのびてるわね。
……はー、本当に工藤がしつこすぎて、さゆり限界。さゆり吐きそう。
そんなこんなで教室に戻ると、いつものごとくテル君が一人で食べていて、
あたしは空いている前の席に、購買のパンを持ち込んで座った。
「よっ、テル君っ!」
「……いつも元気だね~。」
そろそろ見慣れて来た、テル君の作り笑い。
目が笑ってなくて、拒絶を感じるわ。これもいつも通りね。
でもこんな事でくじけるあたしじゃないって事よ!あっはっはっ!
……工藤と同じだとか思ったら負けよ!あたしは好意でやってるの!
ただ、そんなテル君だけど、最近少しずつ心を開いてくれている気がするわ。
たあいのない話をしながら、自然な笑顔を時折見せるようになってくれて、
二人で食べるにはそこそこ楽しい相手になって来てるのよ。
ま、でもあたしの目的はあくまでテル君のサポートなんだけど……。
「ね~、綿華さ~。」
「えっ、うん、何?」
滅多にあたしの名前を呼ぶことのないテル君が、
ためらいがちだったけど、あたしの目を見て名前を呼んだ。焦ったわ。
「よく、言いたいことがあるなら言え、って言ってくれるよね~。」
「ええ……まあそうね!テル君なんか我慢してるように見えるから。」
テル君に初めて話しかけるようになってから、
あたしはかなり頻繁にその言葉を言ってるわね。
どうしてもすーみん(洋次)との関係の中で、テル君は言いたいことを我慢して、
すーみんもあんな感じで自由人だから、ストレスが溜まるに違いないのよ。
最近は、あたしの方からすーみんにアプローチしてないんだけど、
(いくらなんでもやりすぎって、神様に怒られたしね。)
あまりにも変わらない関係性に、やっぱり不安なのよー。
「昨日、別の友達にも言われちゃった~。やっぱりそう見えるのかな~。」
「……ええ、そうだと思うわよ?テル君意外と分かりやすいんだから。」
「でもそれを、『あの人』は分かってくれないんだよね~。」
別の友達……誰かしら?テル君の友達といえば軽音部か幼なじみだから、
そういうアドバイスしそうなのは、たっちゃん(達也)かわっきー(脇坂)ね。
それから、「あの人」……これは間違いなく、すーみんの事ね。はーあ。
「テル君、嫌な事があるんだったら、ビシッと言ってやりなさいよ!そうでもしないと一生分かんないわよ。男なんてそういう生き物なの。……ま、テル君も男だけどさ。」
「……そうかもね~。」
そう言うと、テル君は考え事を始めたのか、黙り込んだ。
あたしのアドバイス、多少は役に立つかしら?
……洋次君はやっぱり傲慢なところがあると思うわ。
立場の弱いテル君を、守ってあげたくなるのがあたしなのよねー。
「どーもー!最近暑いなー!」
ものすごい勢いで廊下から駆け込んできて、
近くの椅子を引っ張ってあたしたちの横に座り込んだのは、
これまたお馴染みのおくっち。
軽音楽部のムードメーカー兼ギタリスト!……らしいわ。
「そうね、確かに五月ももう終わり……春の陽気じゃ済まされないわね。」
「そうかな~?まだ少し肌寒いと思うけど~。」
バルガクは制服が数種類あって、どれをいつ着ても良いんだけど、
おくっちが半袖なのに対して、テル君はまだカーディガンを羽織ってるわ。
あたしもどっちかと言うと暑がりだし、胸も無駄に大きいから、
胸元に汗が溜まっちゃって、気持ち悪くてたまんないわ。
中学の頃はシャツに空気を送ってると男子から視線を浴びたものだけど、
この学園はほとんどスルーよ。さすがゲイの楽園ね。
「あ、そうそう、軽音の話してもいいかー?」
「好きにしてちょうだい。」
「テル君さー、間奏のとこのギターどう思ったー?」
「あ~、なんか変だったかもね~。ドラムはクレッシェンドしてるから、あんまり音量落とさない方が良いんじゃないかな~。」
「だよなー!でもさー、結衣のベースが下がってるしー、悩むんだよなー。」
……おくっちとテル君が専門的な話を始めたので、
あたしは黙ってレモンティーを飲むことにしたわ。
おくっちからしたら、あの軽音メンバーで同じクラスという接点があって、
テル君と仲良くなるのは当然だから仕方ないにしろ、
当のテル君も、必要以上に楽しげなのが気に掛かるわ。
すーみんもこの様子を見て、良い気はしないだろうし……難しいわね。
ところで二個先の机の影から、工藤がすごいあたしの事を見てるけど、
あたしは完全に気づかないフリよ。あとで110番しよーっと。
○ ○ ○ ○ ○ ○
テル君とおくっちを二人きりにさせるのもどうかと思ったけど、
それはそれで考えすぎかと思って、蚊帳の外のあたしは保健室へ向かったわ。
それこそ、何となく嫌な予感がしたのよ。
あの安達とかいう元ホスト、放っておけないわ!
一応控えめに保健室の戸を開けると、そこには誰も居ない。
……以前だったら小泉先生が優しく微笑みかけてくれたというのに。
今朝の離任式を思い出して落ち込んでいると、
ベッドの方からごそごそと物音が聞こえてきた。……まさか!
「……どうだ?気持ち良いだろ?」
「あっ……も、もっと優しく……」
よく見ると、ベッドの横には脱ぎ捨てられた制服が落ちてるわ。終わりの日!
「こ、コラァァァァァァアアアアアアア!!!」
あたしはベッドを覆っているカーテンを慌てて開けた。
そこには、下着姿でうつぶせに寝ている男子生徒と、
その横から生徒の身体に手を当てている安達先生が居た。
「どうした綿華?待ちきれなくなったのかよ。」
「……え、ちょ、え?マッサージ……」
なるほど、マッサージ……百歩譲ってそこは許すとして、服脱ぐ必要ある?
と思ってると、どこからか中島先生が駆け付けてきて、
こちらに近づくやいなや、またまた安達先生に拳骨を浴びせた。
「やめて下さいよ、破廉恥な!ちょっと見てない隙に、あなたって人は!」
「何すんだ真面目野郎!マッサージのどこが悪いってんだよ?」
「服を脱がせる必要ないですよ!大体あなたはいつも自分勝手でくどくど」
……はー、先が思いやられるわ。




