あぶない!保健室(1)
やっほやっほ!あたし、綿華小百合。
今を時めく史上最強の女子高生、なはずなんだけど、
……超ショッキングな出来事から、あたしの物語は始まるのよ……
「やだよーー!!小泉先生、行かないでよ!」
あたしが泣きついているのは、この一年間ずっと私を支えてくれた、
保健室の女神!……小泉律子先生。
「ごめんなさい小百合ちゃん。離れてても、応援してるから。」
「やだ!先生のバカ!先生と結婚するのはあたしだったのに!」
「う、うん……ごめんなさい、プロポーズしてもらって……」
小泉先生は結婚が決まって、しかも授かり婚。
そのまま寿退職が決まって、バルガクはお祝いムード。
前々から聞かされてはいたけど、いよいよ最後の日になって超絶ショック。
ついでにどさくさに紛れて告白したけど、ドン引きされてWショックだわ。
小泉先生に甘えて、もう色々ぶちまけたい!
保健室の先生が出来ちゃった婚はどうなんですかとか言いたい!
「あたし、小泉先生がいるから保健委員長を引き受けたのに!」
「うん……でも小百合ちゃん、去年よりずっと大人になったわ。腕もずいぶん回復したみたいだし……」
あたしは中学三年の時、交通事故で両親を失い、自分も腕に大怪我を負った。
幼なじみの神様の励ましで、何とかバルガクには入学したけど、
メンテナンスの度に塞ぎ込んで、必要以上にサボッてたわ。
そんな時に、いつも励ましてくれたのが学校唯一の保健医、小泉先生。
先生の仕事をできる範囲で手伝う事もあって、名コンビだったのに……。
「でも安心して、中島先生がきちんと後を継いで……」
「えー?だって中島先生根暗じゃないですか!しかも男だし!一緒に居てつまんないですよ。」
「小百合ちゃん落ち着いて。中島先生にグサグサ刺さってる。」
中島先生は今年入った先生で、今はまだ研修中という事らしいけど、
なんかおどおどしてるし、真面目そうだし、よく分かんないのよね。
だけどあたしは忘れていなかった!そう、たった一つだけの希望を!
「でも……今年から保健医が二人になるんですよね?そしたら、小泉先生の代わりはいらっしゃるんですか?」
「ええ、安達先生という男の先生がこの後いらっしゃるって……」
「ぐわあああああお!もう完全に男のむさ苦しい保健室だわ!バルガクに残された唯一の花園を!」
「小百合ちゃん?男女差別がひどすぎるわよ?」
「小泉先生ー、そろそろ退任式のお時間が……」
「あ、はい……それじゃ、小百合ちゃん……」
係の先生が呼びに来て、あたしは涙顔で小泉先生を見送った。
朝早くから先生を捕まえていたんだけど、とうとう来たわね退任式。
もちろん保健委員でお礼の色紙も書いたし、個人的に花束も渡したわ。
でも……ふふふ、見てなさい小泉律子!
あたしがこの退任式を何もせず終わらせると思わないことね!
命を終えようとする最後の虫の抵抗とばかりに、小泉先生の退任を阻止して……
「ハッ!何を良からぬ事を企てているのだね、綿華君。」
保健室を出た瞬間に、神様に待ち伏せされて捕まったわ。
今にも走り出そうとしているあたしの前を塞いで動かない。
「出たわね神様!あなたをぶっ飛ばしてでも、あたしは行くわよ!」
「ハッ!とんだトラブルメーカーが居たものだ。君は、前のように落ち込んでいる位がちょうど良い様だな。」
「だって納得いかないじゃない!こんな中途半端なタイミングで、先生が……」
「綿華君。お世話になった小泉先生の幸せも、考えてあげたらどうだね?」
声色を変えて、諭すような口調の神様。本気だった。
けど、小泉先生を止めたいあたしの気持ちも、偽りじゃない。
私は廊下に座り込んで、ピカピカの床に映る、逆さまの神様を見つめた。
「……あたしだって分かってるわよ。小泉先生を止められないこと。……けど、あたしは小泉先生に迷惑を掛けてばっかりだったのに、何も恩返しできなかった。保健委員長になって、仕事を手伝えたらって思ってたのよ……」
喋った後に、思っていたよりずっと暗い声だから自分でも驚いたわ。
それから、神様もしゃがみ込んで、あたしの肩を優しく支えた。
……小泉先生、こんなに早くいなくなっちゃうなんて……。
退任式はしめやかに、しかしお祝いムードで行われた。
私は花束を渡す役を辞退して、会長の花園先輩に譲った。
それから感謝の言葉を言う役も、副会長の桜塚先輩に譲った。
多くの生徒が笑顔で拍手をする中、あたしはきっとしかめっ面で、
壇上から心配そうな顔であたしを見る小泉先生と、最後に目が合った。
……ダメだわ、あたし。最後の最後まで、小泉先生に迷惑かけてる。
そう思った時、退任式が行われる体育館までの道すがら、
神様があたしに語り掛けてくれたことを思い出した。
『ハッ!何をすればいいかだと?それこそ君は君の仕事をすれば良い。新たな保健医が二人とも男ならば、女子生徒は君を頼るはずだ。違うのか?』
……そうよ。あたしが、小泉先生の代わりをしなくちゃ。
メソメソしてたら駄目だわ。小泉先生にこれ以上迷惑かけられない。
あたしは壇上の小泉先生に微笑み返した。そして、拍手を始めた。
すると小泉先生はニコッと笑って、生徒全員に向けて手を振り、
二年間と二か月過ごしたバルガクに、お別れを告げた――。
「はあー、とはいえ、やっぱ小泉先生居ないのキツイわねー。」
「ハッ!君も大人になったものだ、結局暴動を起こさず終わったのだからな。」
あたしは神様と二人、体育館から保健室へと逆行する。
一応今日来るらしい安達先生には挨拶をしておかないと。
あまり気持ちを切り替えきれないまま、何とか足を前に出していた。
もたもたしてたらHRが始まっちゃうから、すぐ教室に戻らないと。
そして神様を連れ添って保健室の戸を開けると、
……何やら白衣を着崩した男が、ベッドのそばに立っている。
よく見ると、ベッドには男子生徒が寝ていて、
あたしが入った瞬間に、彼は慌てた様子で起き上がった。
「あ、ありがとうございました……さ、サイコーでした。」
「忘れられなくなったらまた来いよ……たっぷり、かわいがってやるぜ?」
「は、はわわわ……お、お願いします……」
それから男子生徒は上着を抱えて、あたしの横を通り過ぎて出ていった。
わけもわからず目の前の長身の男を見ると、
彼は口元にいやらしい笑みを浮かべて、こちらを見た。
「次の子猫ちゃんは君かな?俺の美貌に囚われてしまったのは……」
「えーと、何ですかあなた?」
「おっとこいつは失礼。俺の名前は安達雅人。
ホスト出身の、華麗なる保健医だ。」
……これが新任の安達先生?あたしは真っ青になった。
さっきの生徒に何をしていたのだろうか。嫌な予感がした。
対照的に、安達雅人はいやに白い歯をキラリと輝かせる。
「自己紹介代わりに俺のモットーを教えてやろう。
穴があったら何でもオッケー、だぜ?」
……あ ぶ な い❤ 保健室。




