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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第二章 知らなくたって、いいんだよ
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オベディエント(1)


「渡 透」という男を、知っているだろうか。

恐らく彼を最もよく知る男こそが、私だ。


抜群の統率力に加え、誰よりも高いプライドで、

いずれの環境においても、王者のごとく君臨する男。

屈せぬ向上心を持ち、常に成長し続け、

一度負けた相手にも、いつか必ず勝つ男。

それが、「渡 透」である。


そしてその男は、少し苛立つようにして、いま私の前を歩いている。



「……透様?」

「……考えられない……なぜこんな事が起きた……」

「透様」

「……何故よりによってアイツなのだ……僕の見ていない時に、こっそりと努力していたというのか……しかし」


前をずんずんと突き進んでいく彼は、私の呼び掛けには全く耳を貸さず、

物の取り憑いたように、ひたすらつぶやいている。

彼の向かう先は向かうべき教室とは反対であり、

恐らく驚きに突き動かされて、暴走しているのだろうと考えられる。

そのいびつな行動に、周囲の注目も浴びつつあった。


「透様」

「すまない氷紀、しばらく一人にしてくれ」

「……かしこまりました」


彼にそう言われ、私はそこで足を止めた。

そのまま突き進んでいく彼を後目に、翻って教室へと戻っていく途中、

彼が暴走する「きっかけ」を作った「あの掲示」の賑わう前で立ち止まり、

こんなことが、と驚きつつも、ちらと掲示に目を向けた。



 二学年第一回試験 理系 成績優秀者

1 花園 優希  2年4組 587点

2 上川 大樹  2年1組 562点

3 勝村 幸夫  2年4組 560点

4 鈴木 美沙子 2年1組 556点

5 舞空 総悟  2年4組 550点


 二学年第一回試験 文系 成績優秀者

1 織田 直樹  2年3組 600点

2 城崎 弓   2年5組 576点

3 朱雀 優美  2年4組 555点

4 渡 透    2年5組 553点

5 早田 椿   2年2組 551点



文系のトップに立った男、「織田 直樹」。

掲示の前の生徒たちは、その話で持ちきりのようであった。

転校生が一位だった事に加え、驚くべきはその点数。

国・数・英3教科6科目すべてで満点を取らなければ不可能な600点。

……3位に入るはずだった透様の名前など見向きもされず、

織田なる生徒が、ダントツの注目度で今日この学年を支配したのだ。


――客観的に考えると、この程度大した事件ではないのだが、

透様にとってみれば、これは大した事件であり、

しかもよりによって1位は、透様のルームメイトである織田。

一旦私の前から姿を消した透様が、戻って来た時に、

私たちのもとにどんな嵐を引き起こすのかが気掛かりでならなかった。



その後、授業が始まるまでには透様も教室に戻って来て、

一見して何事もなかったかのように、普段通りの気品を携えて、

私に何か言うでもなく、午前中の授業を淡々とこなした。


そして昼時。もはや中学時代から慣例となっているのだが、

私の作った料理を好む透様に、今日の弁当を差し出しつつ、

その向かいに座って、透様の機嫌を伺う。


「……氷紀。織田直樹が勉強している所を見た事があるか?」


私の方からは触れないように、とだけ考えていたものの、

透様はすぐに例の話題を持ち出した。


「私の確認した限りだと……あまり勉強していない、と思っておりました」

「確かか?」

「はい。透様と同じ部屋になった時に、ひと通り織田直樹の身辺を調べましたが、自習室の専用机もほとんど使っておらず、専ら自分の部屋にこもっているようです。部屋の内側での彼の様子は透様の方が詳しいかと」

「……その間も、本を読むばかりで勉強している様子では無かったよ」


そう言って、ようやく透様は、手作り弁当を広げて食べ始めた。

それを見てから、私も自分の弁当を食べ始める。今日は少し味が濃い。

彼は不満げな表情をしている。恐らく弁当にではなく、織田直樹に。


「あの男、何者だ……?」


疑念は渦巻くが、きっとすぐに生徒たちの話題からは消えていく。

だが透様は、一度受けた屈辱を決して忘れないお方なのだ。


「氷紀。僕も彼と直接話してみようとは思うが、君の方でも改めて調べておいてもらえないか?」

「かしこまりました」


透様はそれだけ告げると、黙々と弁当を食べる箸を進めるのだった。

最終的に学園統治を目指す透様にとって、敵は多い。

その敵の情報を掴み、彼に伝える役目を担うのがこの私である。


紹介が遅れたが、私の名は「佐久馬 氷紀」。

関東地方の名家である渡家に、代々仕える一族の跡継ぎだ。

ちょうど同い年、長男同士で生まれた私たちではあるが、

小学校より常にお仕えし、中学に入るころには秘書兼護衛を務めていた。


如何なる時でも透様のそばに控えている、それが私の運命である。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



その日の夜、部活で遅く寮に戻ってきた織田直樹を、

玄関で捕まえるのも私の役目だった。


「何だ?」

「……透様がお話ししたいそうです。すぐに食堂へ」


用件を手短に伝えると、織田は面倒くさそうに頭を掻いた。

確かに彼は噂通りのイケメンで、そこに何らかの異常性は見られなかった。


「部屋で話せば良いだろ?」

「確実に話をしたいとのことです」

「仕方ないな」


逃げようとするなら強硬手段も辞さない考えだったが、

案外、織田はあっさりと私に連れられて食堂へと向かってくれた。

まだ人のまばらな食堂の、入口付近の椅子で透様は待っていた。


「やっと来たか織田直樹」

「他人に興味は無いんじゃなかったか?」

「例外はある。君のように、突然定期試験で全教科満点を取るルームメイトの事を、気にならない奴も居ないだろう」

「あー、そういう系か」


織田がさらに何かを言おうとしたのを遮って、

透様は珍しく少し感情的になってまくしたてた。


「君はほとんど努力をしていなかった。ならばあの点数は何だ?どんな手を使えば、全教科満点が取れるというのだ?」

「ああ、その答えなら簡単さ」


織田はまるで作られたような笑みを、私たちに見せつけた。


「俺が『奇跡の子』だからだ」


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