俺の嫌いなお節介野郎(6)
ライブ当日の土曜日。
朝はプールに泳ぎに行って、昼はダラダラと過ごす、
ゴールデンウィークに入っても変わらない日常を送る俺にとって、
一番イレギュラーなイベントがこのライブだな。
行く道も慎悟と一緒に、と思っていたが、
あいつは同じ寮生の宇野や落合らと一緒に行くらしい。
恥さらしと言いながら、達也も結構いろんな奴に声を掛けてるようだな。
それで、特にする事もないので、開演時間より早めに家を出て、
達也からメールで送られてきていた地図を見ながら、
学校そばの、少しにぎわっているエリアへと向かう。
音楽にあまり縁もないから、ライブハウスなんて来るのは初めてだが、
見失うかと思うほど看板は小さく、本当にここかと怪しみながら、
地下へ続く暗い階段を下り、大きな戸を開くと、
名も知らない楽器の音色と、人の話し声が溢れて来た。
「おっ、良助。来やがったか……」
受付には前髪を逆立たせ、目元に濃いメイクを施した男が居て、
その声から、ようやくそれが達也だと分かった。
「来やがったかとは何だ。誘ったのはお前だろ。」
「まあ、そうだが……ゆっくりしてってくれ!」
キツいメイクのせいで、あの野暮ったい(?)達也と同一人物とは思えないぞ。
促されるままにチケットと引き換えに、ジンジャーエールをもらった。
すると普通の格好をした男が来て、達也と受付を代わった。
「俺らは結成してすぐだから、出番も早いんだよ……緊張するぜ。」
「そういうものか。」
背中を押されて、俺はまだ人もまばらなステージ前に足を進める。
達也の格好のインパクトがすごかったから焦ったが、
全部のバンドがそういう格好をするわけではないらしく、
ステージの上で楽器をいじっているのは普通の格好の奴らだった。
「それじゃ、開演まで十五分くらいあるから、気軽に待ってくれよ。」
「ああ。頑張れよ。」
そう言ってステージ裏に消えていく達也。
あんな服持っていたのか?という程派手な格好。顔や髪はすごいな。
「おっ、良助君じゃん。ハロハロー。」
そんな時、後ろから宇野に声を掛けられた。
隣には落合も居る。申し訳なさそうにオレンジジュースを飲んでいる。
「お前らも来てたんだな。」
「まあ達也に誘われてじゃん。ってか良助君いま達也に見とれてたんじゃね?」
「いや。そういうわけじゃないが、まあ変な格好をしてたからな。」
「おー!最初からビジュアルでガンガンいかねーとなー!!」
背後からもの凄く大きな声で話しかけられた。
そこに居たのは達也より派手に髪を散らし、覆面を被ったようなメイクをした、
元の顔がどんなだったか思い出せないほど、派手な男だ。
「た、正くんですよね……す、すごいですよね……」
「おー恒太!結衣とテルには猛反対されたんだけどさー!ノッてくれたのは達也と直樹だけなんだよー!ひどいよなー!」
「あっ(お察し)」
「盛り上がって良いんじゃね?」
「おー!剛司だっけー?マジ分かってるわー!軽音やりてーの!?」
「そこまで言ってないじゃん。」
熱い軽音野郎と、冷めた宇野。二人の会話は全然かみ合ってないな。
しかし、この三人はどうでも良いとして、慎悟はどこだ?
こいつ等と一緒に来たんじゃなかったのか?
「……あ、あの……脇坂君?」
「なんだ落合。」
「違ったらあれなんですけど……慎悟くんなら、飲み物を買うとかで、途中別れちゃって……」
「……そうか。」
落合は俺にペコペコ頭を下げながらそう言った。
……周りを見ていただけで気づかれるとはな。
「慎悟君の事、そんなに気にする必要ないんじゃね?」
そんな俺に追い討ちを掛けて来たのが宇野だった。
いつの間にか軽音野郎はステージの方へと消えていて、
宇野の目線が突き刺さる。……何もかも、お見通しとでも言いたげだ。
「もうみんな小学生じゃなくて高二じゃん。慎悟君も、色々自分で考えてると思うよ?よくわかんねーけどさ。」
徐々に周りに人が増えてきて、開演のブザーが鳴り始める。
俺たちの居るステージ前だけが、時間から切り離されたようだ。
宇野……お前には、改めて否定しておかないとな。
「別にそんなつもりは無い。慎悟は慎悟で上手くやってるだろ。」
そう言うと、宇野も落合もそれ以上は何も言わず、
宇野は目をふいと反らし、落合は不安な表情でこちらを見るばかりだ。
俺は「トイレ」と一言言って、その場から離れた。
そうだな。慎悟は慎悟で上手くやってるんだ。
変に過去にしがみついてるのは、俺だけなのかもしれないな――。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「……脇坂君、大丈夫ですかね?」
「大丈夫じゃないんじゃね?過去に慎悟君を失ってしまった事が、ある種のトラウマになっちゃってんじゃん。」
「……うーん……」
「慎悟君の話を聞いて納得したよ。去年、あれほど達也に執着したのも、もう二度と友達を失いたくなかったんじゃね?」
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ハッ!というわけでライブ会場に潜入したぞ!神だ!」
「ちょっと神様静かに!最近あたしらが絡むと、うのぽんやすーみんが過剰に反応しちゃうんだから!」
「ハッ!……それは綿華君のせいでわー。」
上川と綿華も、長瀬からのチケットを受け取って、
このライブハウスへやって来ていた。二人はこそこそと中へ入って行く。
「今日ここに幼なじみが全員集まるのよ!絶対何も起きないはずがないわ!」
「ハッ!ライブを単純に楽しみたまえよ。周りの客に迷惑だぞ。」
「あっ、神様にサユ姐!のがみんの為に、来てくれたのねえ❤」
二人は出番前に会場の様子を見ていた、野上結衣に見つかった。
すぐさま二人は口に押さえて、騒がしい野上を封じようとしたが、
急に野上はその手を振り払って、にっこりと笑った。
「のがみんだってダテに周りを観察してないのよお?今日何かが起きることくらい、分かってるもおん。」
「……え?」
「じゃ、今日はひとまずライブ、楽しんでねえ♪」
そう言って野上は、ステージの方へと消えていくのだった――。