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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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俺の嫌いなお節介野郎(3)


放課後、帰ろうとした僕を、良助が引き止めた。

まだ少し夢じゃないかと思っても、仕方ないよね?

お昼の後、体育の授業でも二人で話して、僕と良助の距離はより縮まった。

そして、いま僕の目の前には良助が居る。


「確かお前寮なんだろ。俺の水泳もそっちだから、途中まで行こうぜ。」

「あ、うん……水泳続けてるんだね……」

「ああ。最近はあまり身が入ってなかったけどな。」


何だかんだ言いながら、一つの事に一生懸命取り組む良助。

そんな様子も、あの時からやっぱり変わっていなかった。

なんでも器用にこなしちゃう洋次にも憧れていたけど、

それよりも、ひた向きな良助の、まっすぐな所に憧れた。



「寮では下級生と部屋が同じなのか。」

「いや……同級生の上川と一緒だよ……ちょっと変わった人だけど……」

「ああ、上川か。妙に気取った奴だよな。」

「気取ったというより……何だろう……まあいいや。」


上手く説明できないけど、上川の話はもう良いよね?

こうして話すのはほぼ五年ぶりだから、

もっと聞きたい話や、話したい話だってある。

だけど良助は、離れている間もメールをたくさん送ってくれて、

僕が知らない事なんて、正直あんまりないんだ。


「……良助、たくさんメール送ってくれたのに……返事できなくて、ごめんね。」

「気にするな。お前も色々返しづらかったんだろ。」

「……でも、嬉しかったよ……遠くに居るのに、近くに感じる気がして……」

「まあ、慎悟が喜んだならそれでいいが。」


下駄箱でくつをはき替える良助が、少しはにかんだ。

良助のこの顔を見ると、昔を思い出す。

弱かった僕を守ってくれた良助。

良助の笑顔は、僕の不安を取り除く笑顔だった。


……こうしてまた良助の笑顔が見れたのも、達也のおかげだよ?

お昼に話し終わった後、達也には改めて謝ったし、それから感謝もした。

誰を信じていいか分からなかった僕を救ってくれたのは達也だし、

僕が素直に気持ちを伝えるチャンスをくれたのも達也だから。


校門を出る時に、僕も良助も右に曲がった。

良助や達也たちの家は全部左側だ。寮や駅は右側にある。


「……朝は達也たちと一緒に来てるの?」

「違うな。俺は出るのが遅いからな。」

「……そうなんだ……さすがに幼なじみで一緒には通わないよね。」

「最近は知らないが、前までは達也と洋次とテルが一緒だったらしいぞ。」


……だとしたら、やっぱり幼なじみの繋がりがそこに残ってるんだ。

だけど、良助はその輪の中には居ない。

特にテルや洋次とは、一緒に居るイメージが湧かないよね?


「テルとはまだ話すの……?」

「ああ。よくどうでも良い事で電話してくるよ。去年はクラスも一緒だったから、昼も食べることがあったな。」

「……そうなんだ……」


達也とも普通に話すし……彼らの方から良助を仲間はずれにはしないから、

たぶん良助は自分から、幼なじみの輪を出てしまったのだと思う。

それはやっぱり……話を聞く限り、洋次がいるから、だよね?

僕はなおさら、良助と洋次の間に、大きな隔たりを感じてしまった。



「どうした。」


僕が少し考え込んだのを、目ざとく良助が察知した。

少しばかり言うのをはばかったけど、僕は素直に伝えた。


「……洋次とは……もう……」

「最後に話したのは去年の冬だったか。洋次もさすがに馬鹿じゃないから、俺がどう思ってるかは分かってるだろ。」

「……そうなんだ……」

「慎悟が気に病む必要はないぞ。俺は元々、あいつのやり方が気に入らなかったからな。」


口ではそう言ってるけど、良助が洋次を避けている原因の、

一番大きな部分を、僕の引き起こした事件が担っているんだよね?

次に何を言おうかと迷っていると、分かれ道が来てしまった。


「お前は寮だろ。俺はあっちだから、ここでお別れだな。」

「あっ……うん、またね……」


軽く手を上げて、すぐに角を曲がってきていく良助。

……こうして良助と肩を並べても、昔の様には喋れないな、って、

そんな風に感じてしまうのは、仕方がない事なのかな?

僕らが変わってしまった事もあると思うけど、

それ以上に、僕らが変わらなきゃ、乗り越えなくちゃいけない事が、

まだ残っているんじゃないかな……

――そこから僕は、なかなか足を踏み出せずにいた。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「ハッ!石川君、上手くいったらしいではないか。良かったな。」


寮で飯を食べていると、上川たちが隣に座って来て、

顔を見るなり祝福の言葉を寄せて来た。

少し後ろに立っている落合が慌てて付け足す。


「あの、すみません……達也さんから聞いた事を、色々問い詰められて……神様たちに話してしまいました……」

「別に良いよ……みんなには、迷惑かけたみたいだし……」


そう伝えると、落合はちょっとホッとしたような顔をして、隣に座った。

今の達也たちの知り合いの事はよく知らなかったけど、

達也は落合と仲良くしてて、とても信頼してるようだ――。


「あの……僕の顔に何かついてますでしょうか?顔の中心にあるのはゴミじゃなくて、豚鼻なので、気にしないでくださいね★」

「いや……そういうつもりじゃ……」

「ハッ!何はともあれ、脇坂君と普通に会話出来るようになって良かったではないか。諸々の事は解決しそうだな。」


僕は上手く返事が出来なかった。ふつう、出来ないよね?

良助と洋次の間にある大きな溝の事は、実は表面化していない問題だし、

そんなプライベートな事まで、ここで話すつもりはない。

だけど、それが解決しない限り、僕らは「元通り」にはなれないんだ。

人間は成長するから、「元通り」になる必要はないんだけどね。



「……にしては、まだ暗いじゃん。」

「……え?いや、元々だよ……」

「まだ何か、気にしてることがあるんじゃね?」


宇野はそう言って、ラーメンを豪快にすすっている。

食べ方は汚いけど、僕の表情の変化をよく見取ったようだ。

ちょっと迷ったけど、言葉を選んでから口を開く。


「……みんな仲良くなればいいなって……ただ、そう思うんだ……」


その言葉だけで、上川や落合の表情も少し変わったので、

達也が、昼の時にあの空気に気付いて、彼らに伝えたんだと思う。

最後の麺をすすり切った宇野が、顔を拭きながらこちらを見た。


「洋次くんと良助くんの事なら、気に病む必要ないんじゃね?」

「ハッ!そうだぞ。何もかも自分のせいだと思っていては身が持たんからな。彼らは性格的に元来そりが合わなかった。それだけの事ではないか。」


僕はなんとなく、うなずいて笑って見せたけど、

二人の言葉は、僕の慰めにはならなかった――。


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