俺の嫌いなお節介野郎(4)
泳ぎ切って、着替えの最中に携帯を見ると、達也から着信があった。
そういえば久しぶりだな。しばらく電話はしてない気がした。
すっかり暗くなって、家に帰ってから、俺は達也にかけ直した。
『よう良助。水泳の途中だったっけか?』
「さっき終わった。もう大丈夫だ。」
『そうか……』
「それで、用は何だ。」
達也が電話してくるのは用がある時だ。
あまり雑談というものをわざわざ電話ではしないから、
冷たい言い方かもしれないが、俺は率直に要件を聞いた。
『ああ、昼に言ってた事が気になったもんでな……』
だいたい予想はついていた。
達也の前で、洋次との仲の事なんて口にしたことは無かった。
仲良しこよしが続いていると思っていた達也は、きっと驚いただろう。
正直、達也には純粋なままでいて欲しかった自分も居るが、
慎悟の件も知ったようだし、隠し事をするのはやめにするか。
『慎悟も言ってたんだが、やっぱり洋次と……仲悪いのか?』
「まあな。幼なじみと言えども、五人も居れば合わない奴も居るだろ。」
達也は知らないだろうが、テルだって達也の事は苦手に思っているようだ。
みんな仲良しで居られない事なんて、何ら特別な事じゃない。
『そうか……やっぱり、慎悟の件が関係してるのか?』
「元々、みんなのリーダーを気取っていた時から気には食わなかったがな。」
『……まあ、でも洋次は洋次だからな。』
「その洋次が嫌いなんだ。あいつのやってる事はただの自己満足だろ。」
達也は「そうか」と言って、しばらく絶句してしまったので、
言い過ぎたか?と少し反省した。
洋次の事が憎いことなんて、達也に気軽に言うべき話題では無いよな。
何でもできるって思い込んで、慎悟のクラスに無理矢理乗り込んで、
クラス全員から白い目を浴びてなお、引かなかったあいつは、
慎悟へのイジメが加速して、慎悟が登校拒否になってからも、
「慎悟を救う」だの言って、単純に心配してた俺と一緒になって、
慎悟の家に何度も押しかけようとしたわけだ。
最後には、慎悟の母さんから怒られる始末だ。
俺は泣く泣く諦めた一方で、あいつは食い下がらなかったし、
慎悟の転校が決まって、俺たちから完全に離れてしまっても、
洋次はその性格を変えなかった。
慎悟が転校したのも、洋次が慎悟の家に行き続けたからだとさえ思う。
落ち込んでる俺の前で、相変わらずヘラヘラしていた洋次。
……許せるわけ、無いだろ。
「そんな奴に、慎悟の大事な問題を相談しようと思った自分にも腹が立つよ。俺の中だけでしまっておけば、傷つくのは俺一人で済んだかもしれないな。」
『……クラス全体でのイジメなんて、一人で解決できるような問題じゃないぜ。慎悟が良助に相談したのも、良助が洋次に相談したのも、間違ってなかったと思うけどな……俺は何も出来なかったけどよ、まったく。』
俺たちの電話にしては珍しく、お互いに自分の思いを語った。
それにしても空気の読めなかった達也が、慎悟の異変を感じ取って、
過去の問題にまで気が付いて、俺たちを再び繋いだことには驚かされた。
……多少やり方が強引だったのは、達也らしいといえば達也らしいがな。
達也だからこそ、こんな風に言い出すのも驚きはなかった。
『洋次ともちゃんと話し合ったらどうだ?……慎悟が帰ってきた今なら、もしかしたら分かり合えるかも』
「それはない。悪いが俺から見た洋次は、話の通じる相手じゃないんだ。」
俺はそう言い切った。そこに迷いはなかった。
話したとしても、あいつの決めた正義に、全てが押しつぶされるだけだ。
『そうか……ま、無理にとは言わないが……』
「悪いな。慎悟とは仲良くやるよ。それで勘弁してくれ。」
達也は納得はいってないようだが、いくら達也の頼みでも、
俺が最も憎むお節介野郎と会ってやるほどの義理はない。
洋次の手の届く範囲から逃げた俺が、今さら戻りたくもない。
少し間を置いて、達也が言った。
『じゃあ……話は変わるが、俺とテルが軽音に入ってるのは知ってるよな?』
「そうだったな。それがどうした。」
『ゴールデンウィークの……えーっと土曜に、ライブに出ることになったもんでな……ま、恥をさらすだけなんだが。』
「そうか。」
『テルも出る事だし、よかったら良助も見に来ないか?もちろん、慎悟も誘ってくれて構わんぞ。』
……話が変わっていないぞ、達也。
テルが出るライブに、洋次が顔を出さないわけがない。
また強引に、俺と洋次を近づける作戦でも立てているのか?
達也のこういう所を見ると、やはり純粋で、変わってないと思い知る。
だが、それは別として、軽音の活動は見てみたいな。
「分かった。慎悟も誘って、行くわ。」
『おし、分かった。……まあ色々話したが、俺は色々と上手く行くことを願ってるよ。』
「そうか。まあ出来る限り努力はするよ。」
『それでこそ良助だな……お前そろそろ夕飯だろ?じゃ、またな。』
時計の短針が九時に近づいている。脇坂家の遅めの夕食だ。
達也がそれを察して、携帯を切った。
何だか珍しく、長時間話していたような気がする。
ふうと一息ついてから、ベッドから立とうとした時、また携帯が光った。
どうやら着信のようで、今度はテルからの電話だった。
『やっと出た~。誰かと話してたの~?』
さっきの達也の真面目な様子とうってかわって、
テルの、いつも通りなのんきな声が電話越しに聞こえてきた。
「ああ、達也と電話していてな。」
『そうなんだ~。』
「また洋次と転校生の鈴木が仲良くしてた悩みか。」
『……まあそんなとこ~。』
これから夕飯なんだがな。
『土曜は洋次と一緒になったんだけどね~。なんか鈴木さんの事、聞けなかったし、洋次も何も言わなかったよ~。』
「そうだろうな。自分から言う話でもないだろ。」
『そうなんだけどさ~。』
「悪いがそろそろ夕飯なんだ。切り上げても良いか。」
『あ、ごめんね~。……ところで良助さ~。』
切り上げるって言ったんだがな。
テルはこういう奴だから、今さら何とも思わないが。
『なんか、決着をつけなければならないとか言ってたけど、解決したの~?』
……そういえば、思わずテルにそんな事を口走った記憶はあった。
そうだな。慎悟、達也、洋次。それぞれの顔を思い浮かべながら俺は答える。
「俺は解決したと思いたいが、そうでもないらしいな。」
『何それ~?』
「いや、大した話じゃない。とりあえず、またな。」
俺は半ば強引に電話を切った。
とぼけたテルはどうやら慎悟の存在に気づいていないらしい。
元々慎悟に対して興味のない奴だから、このままでいいと思うし、
むしろ知られたら、結果的に洋次にまで知られるわけであって、
できれば洋次には慎悟に近づいてもらいたくないという、
わがままで、どうしようもない気持ちが俺にはあった。




