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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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俺の嫌いなお節介野郎(2)

達也の純粋さが、これ程まで達也を動かしたと考えると、

テルが達也を苦手だって言うのもちょっと分かるな。

俺は無理矢理手を引かれて、慎悟の席まで連れてかれ、

少し震えているようにも見える慎悟と、今、相席している。


「おい良助、何食うんだ?」


ぎこちない聞き方だな、達也。

まさかノープランで、俺と慎悟で会話させようというわけじゃないだろうな。


「コンビニ弁当だ。」

「わざわざコンビニか……お前、購買使ってないのかよ?」

「いや、不味いから俺は購買は使わないぞ。」

「けっ、庶民の味方を何だと思ってやがる……」


そう言って達也は購買のパンを広げる。

それから慎悟も購買の袋を鞄から取り出した。好きだねえ。


「じゃあ良助、食堂も使わないのかよ?」

「いや、あそこは大盛りが出来るから、たまに使ってるよ。」


「……身体大きいから、たくさん食べないとだもんね……」


黙っていた慎悟が、突然ボソッとつぶやいた。

目はずっと小さなパンの袋に向けられている。俺の方を見る気はないらしい。

慎悟の声をこんなに近くで聞くのは、久しぶりだった。

……せっかくなので、俺も慎悟に問い掛ける。


「慎悟こそ、相変わらずあんまり食わないよな。」

「……胃が小さいみたいだから……」

「だからあまり体格変わってないんだな。お前だけまだ小学生に見えるぞ。」

「……そうかな?みんな良助みたいに大きくなるわけでもないし……」

「せいぜい中学生だな。」


慎悟の身体は痩せていて、さすがに小学生は言い過ぎたが、背もまあ低い。

背の高い俺とは、横並びになるとすごい違和感だぞ。


新学期が始まってからの数日間、時が止まっていた俺たちの関係が、

ようやく少しずつ、スタートしたような気はした。

俺と慎悟が話し始めたのを見て、満足そうな顔をしている達也に、

多少は感謝しないとな。強引なことには変わらないけどな。



「……良助、久しぶりだね……」


目の前の慎悟がちらりとこちらを見た。急によそよそしくなった。

そういえばよく隣同士で座って話し込んだっけ。


「ああ、戻ってくると思わなかったよ。」

「……うん……どうしても……伝えたくて……」


慎悟の様子が少しおかしい。

俺と久しぶりで緊張しているだけではないようだ。

……となるとやはり、「あの時」の事か。

俺は自分の身体が、少しずつこわばっていくのを感じた。



「……ごめんね、良助。」


……慎悟のその言葉には、驚いた。驚くしかなかった。

ののしられ、責められるんじゃないか。そうとしか思えなかったからだ。


「……良助を巻き込んで、嫌な気持ちさせちゃって……あれからずっと後悔してたから……」


慎悟は謝る理由を語ったが、達也はあまり驚いてないようだな。

俺と慎悟をムリヤリ会わせた辺り、こいつもあの事件を聞いたのだろう。

どういう手段かは知らないが、最近慎悟と接触していたようだしな。


俺は呼吸を整える。けなげに送り続けたメールも一度も返ってこなかった。

てっきり俺は、憎まれてるもんだと思ってた。

だからこそ、慎悟が目の前に居るのが信じられないくらいで……。

いや、理由はどうでも良い。俺は言わなければならねえ。



「謝るのは俺の方だ、慎悟。俺たちがあまり考えずに行動して、慎悟の学校生活を台無しにした。」

「……良助のせいじゃないよ……」

「いや、俺たちのせいだ。洋次の分も謝らせてくれ。」


あの時、慎悟は苦しんだ。そして今も苦しんでいる。

俺と洋次が、あんな事をしてしまったばっかりに、こんな……。

慎悟は俺の様子をうかがうように、顔を少し上げてこちらを見てくる。


「……僕のせいでもあるんだ……僕が弱かったから、僕が言い返せなかったから……生意気で、意地っ張りで……」

「慎悟が悪く思う必要ないだろ。」

「イジメには、イジメられる方も原因があるっていうし……」

「それは間違ってるだろ。イジメられて良い理由なんて、どこにもないぞ。」

「……とにかく、良助たちは……悪くないよ……」


空気が少しずつ重くなってきたな。達也も何か考え込んでいる。

そういえば、慎悟をイジメた馬鹿な奴らはどうしてるんだろうか。

集団イジメの責任なんてもんはひどく曖昧なのは事実だが、

できる事なら全員とっちめてやりたいけどな。



「なあ良助。」


黙っていた達也が、俺を見た。


「慎悟の事、憎んでるか?」

「そんなわけないだろ。慎悟に憎まれても、俺が憎むはずはないよ。」

「……だとさ、慎悟。」


考える間もなく即答した俺だったが、

そんな当たり前の言葉で、慎悟は少しホッとしたようだった。

やはりイジメを経験して、人の気持ちなど信じられなくなったのだろうか。

少なくとも俺は、ずっとお前を心配していた。俺はな。


「……僕は憎めないよ……憎む資格なんて、僕にはないから……」


慎悟はそう言って目を反らす。

やはり慎悟の中には、まだイジメの傷跡が深く残っているのだろうか。

かと思えば急に、少し自然な笑顔で俺を見つめた。


「それなら……また、一緒に居られるかな?喋ったり、食事したり、遊んだり、勉強したり……良助と一緒に居ても、良いの……?」

「もちろんだ。俺の方こそ、なかなか話しかけられなくて悪かった。」


「……よしっ、これで少しは元通りになったかよ?」

「うん……達也、色々とありがとう……」


慎悟がやたら達也に感謝しているのを見ると、

どうやらこの話し合い自体、慎悟がお願いした事だったのかもしれないな。

純粋な達也は、ちょっと得意げになっているようだ。


「ま、そもそも俺たちの間で、憎み合いなんて似合わないだろ。」



「憎むことが全くないなんて、あり得ないだろ。」


少しばかり穏やかになった空気を、俺がぶち壊した。

それだけ俺は、いまだに「あいつ」の事が許せないのだ。


「おい、良助……?」

「上手くいかない事なんてこの世にはいくらでもある。でも全部上手くいくと思ってる奴も居る。俺はそんな奴を、いや……洋次の事を未だに憎んでる。」


達也は唖然としている。そりゃ今まで隠してたからな。

慎悟は少しうつむいた。さすがに気が付いてたか。


そう、俺は嫌いなんだ。……あの自己中のお節介野郎がな。


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