色恋沙汰に神降臨(8)
……とりあえず渋谷先輩の用は終わった上、
これ以上迷惑をかけられないので、神らは図書室を出た。
メンバーは、神と綿華君と……奇妙な女子、野上君が一緒だ。
「申し遅れました。野上結衣でえす。バリバリ現役の腐女子です❤良かったら、お近づきの印に……のがみん★とお呼び下さいませ!」
「ハッ!……全く、隠していたのはそれだったのか。」
「だって上川君……神様だっけ?見るからに堅物そうで、BLなんて縁の外、って感じだったんだもおん!」
「安心してのがみん、神様もゲイだから。」
「こらァァァァァァァァァ!!」
あっさりと口をついて秘密をばらす綿華君は何なのだ?
おかげで野上君が目を輝かせてこちらを見てくるではないか。
「えっ!好きな人居るんですか!誰ですかこの学校の人ですかのがみんの知ってる人ですかあ!」
「ハッ!前にも言ったと思うが、恋愛にかまけている暇はないのだ。」
「じゃあ、なんでゲイって分かるんですかあ!?」
「ハッ!……単純に、男の肉体に惹かれるだけの事だよ。」
なんで神がここまで言わねばならんのだ。
しかし野上君はさらに目を輝かせて、神と距離を詰めて来た。
「わ、分かりますう!肉体美ですよね!肉体と肉体がぶつかり合う熱い戦い!いきり立ったそれにむしゃぶりつく」
「ハッ!……それ以上は連載出来なくなるからやめてもらいたい。」
「そう!一人じゃダメなんです!男が一人いても世界は生まれない!男が二人いるからこそ!王子様が二人居るからこそ!世界は輝くのよお!」
……うむ。相当こじらせているようだ。
しかし、この連載はいつも綱渡りなのだから言動には気を付けてげほげほ
「じゃあ何、のがみんがやたら男を釣るような言動をしたり、うのぽんに無理に接近しようとしてたのは……」
「のがみんのお色気作戦にハマらない男は、ゲイに決まってるんだからあ!それで、この学校のゲイをあぶり出して、めくるめくBLの世界を堪能しようとしていたのよお!!」
「ハッ!それに嵌らなかったのが宇野君というわけだ。」
「神様ビンゴ!だから絶対宇野君……うのぽんって呼ぼお!うのぽんはゲイで、何かを隠してると思ってて、実際この学校のゲイカップルの事をいくつか知ってるみたいだったからあ!」
「……ま、実際はうのぽんの知ってるカップルの代表格が、すーみんとテル君だったってわけだけどね。」
野上君が接近するのは神でも良かったわけだが、
恋愛には興味が無い!という姿勢を神が見せた以上、
神からは情報が得られないと決めて、接近するのをやめたというわけだな。
口の軽そうな宇野君が、ずっと沈黙を守りとおしたのは意外だったな。
神の性格についてはあっさりバラしてしまったようだが……。
「それにうのぽん、何だか他にも隠してることがあるみたいだしい、話してると面白いのよお!」
「ハッ!宇野君の秘密主義は今に始まったことでは無いからな。」
「……じゃあのがみん、軽音部に入ったのはどうしてなの?」
「あ、それは単純に部活を探しててえ、奥野君に誘われたんだけど、なんか彼、織田君とデキてるっぽいじゃない?だからいいネタだと思って、ずっと彼らの仲を嗅ぎまわる事にしたのよお!」
「ハッ!ただの変態ではないか。」
「もちろんあの二人も怪しかったけど、まさかテル君はもうお付き合いしてる彼氏さんが居るなんてむはあああああレーダーがビンビン反応して来たあ!」
勝手に盛り上がっている野上君を尻目に、
綿華君が妙にアイコンタクトを取ってくる。
……恐らく野上君は、綿華君以上に散々にかき乱すタイプであろうから、
とりあえずテル君たちの情報もここまでに留め、
さらには落合君の恋愛もノーコメントを貫く方が良さそうだ……。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ハッ!……とまあこういうわけで事情が分かったのだが、宇野君、別に神らに彼女の事を隠す必要は無かったのではないかね?」
寮の夕飯時。野上君の正体を一同の前で説明しつつ、
そして素知らぬ顔をしてカレーを食べている宇野君に目を向けた。
「別にいーじゃん。なんか神様と綿華さんが勝手に勘違いしてんの面白かったくね?」
「うのぽん、そうやって問題を増やすのはどうかと……」
「勝手に問題にしてたのはお前らの方じゃね?」
落合君の反論も何のその。マイペースな宇野君はカレーを食べ続けている。
……自由人の多いこの学校の事だ、野上君の性格も含めて、
こういう謎めいた言動を取る者が多少いるのは仕方ないか。
「それで、腐女子って実際に居たんですね……伝説の存在かと思ってました。」
「ハッ!奴らは男同士の変な臭いを敏感に嗅ぎ付ける!時には憶測で人間関係を壊しかねん、我々同性愛者の敵とも言える種族なのだ!」
「……そ、そうなんですか……気を付けないと……」
身を震わせた落合君。まあ、野上君自体に悪気はないのだが、
ある程度はこうして予防線を張っておかねば……
「そー言われるのが嫌だったから、俺は言わなかったんだけどね。」
「……ハッ?」
カレーを食べる手を止めた宇野君が、珍しく真っ直ぐにこちらを見ている。
「のがみんも腐女子って事、大っぴらにしたくはないんじゃね?実際、腐女子の事をよく思ってない人も一定層いるわけじゃん。」
「……そ、そうかもしれませんね……」
「実際に人間関係をかき乱そうとするなら話は別だけど、一人で話を聞いて興奮してる程度なら、許してやってもいーんじゃね?」
「ハッ!……しかし、問題が起きてからでは……」
「色々思う気持ちは分かるよ。人と違う事を受け入れるのって難しーじゃん。でも、俺が神様たちがゲイって事、受け入れたのと同じでさー、そーいう変な先入観で、友達を失ったらつまんねーじゃん。」
「……む……」
「別に無理しろって言ってるわけじゃないけど。みんな仲良しだって思った方が、世界は幸せじゃね?」
そこまで言い切った宇野君は、残りのカレーを無言でかけこみ始めた。
……実に不思議な男だ。日頃何事にも無関心で冷めているように見えて、
綿華君以上に、物事をよく考え、そして公正な判断が出来る男である。
野上君が言っていたように、宇野君が他にも何かを隠している、
というのは、あながち間違いではないのかもしれんな……。
「そういえば、石川君の学年にもそういう同性愛者とか、逆に腐女子とか居るんですか?」
落合君がナチュラルに隣に座っていた下級生、石川君に声を掛けた。
そういえば強引に夕食に連れて来たのを完全に忘れていたぞ。
同性愛者VS腐女子の論争を、彼の前で堂々とやってしまったではないか。
「……まだ来たばかりだから、よく分からないけど……」
石川君は相変わらずそっけない表情で返した。
……ん、待てよ。彼の食器はもう空になっている。
今回は食べ終わってもすぐには立たず、神らの話を聞いていたという事か?
「じゃ、そろそろ行くんで……」
かと思えば、石川君は食器を持ってよろよろと立ち上がった。
その立ち姿には不安さえ覚えるが、ただ何となく、
彼もまた何かを隠しているような、そんな気がしたのだ――。




