色恋沙汰に神降臨(7)
綿華君と神は肩を並べて、渋谷先輩の後をついて、
言われるがままに図書室へと向かった。
道中、神はアイコンタクトで綿華君に尋ねる。
(……何故あんなことを?これから何をされるか分からんぞ。)
(大丈夫よ神様。渋谷先輩、やっぱり見かけによらず気の弱い人だから。)
(……やはり君は性質が悪いな……)
放課後で下校時刻も迫るこの時間、図書室に人影は無く、
どうやら他に生徒は居ないようだった。
渋谷先輩はカウンターに座り込み、パソコンを操作し始める。
どうやら蔵書管理システムを弄っているらしい。
それなりに巨大な図書室、利用者も結構多いと聞くが……。
「……やっぱり月山先輩の事、好きなんですね!あんなに真っ赤になったんだから、図星ですよね?渋谷先輩?」
ねえねえ、今どんな気持ち?……頼むから、これ以上他人の傷をえぐるな。
渋谷先輩はその言葉で、また顔を赤くして俯き、ボソッとつぶやいた。
「……月山と幼なじみなのは知ってんだろ?」
「え、ええまあ。」
「その頃からなんだ。意地悪だけど、時には優しい……そんなあいつの事が、俺は昔からずっと好きだった。」
顔を上げる渋谷先輩は、昔を懐かしむような顔をしていた。
昔は月山先輩も……性格はともかく、化粧は濃くなかっただろうな。
今の彼女からは素朴な小学生時代などは想像できんが……。
「小さい頃はずっと一緒に居たんですか?」
「……まあそうだな。」
そう言いながら、渋谷先輩は火の点いてない煙草をくわえる。アウト!
「告白しないんですか?」
綿華君の率直すぎる言葉に、渋谷先輩はくわえた煙草を落とした。
しかし今度は赤い顔をせず、ぼんやりと窓の方を眺めた。
「そりゃァ、したさ……何度も。でも、『陰気な奴は嫌い』って言われるばっかりだったなァ、あの頃は……」
「……もしかして、渋谷先輩がチャラ男になったのって?」
「……ま、そーいう事なんじゃねェの。」
渋谷先輩はカウンターに落ちた煙草をもう一度くわえる。再びアウト!
……ただの片思い話なのに、実に雰囲気の出る男だ。
ま、神は筋肉隆々な男が好みであって、細マッチョな男には興味ないがな。
「それじゃ、高校に入ってからは告白、どうなんですか!?」
「……さァね。あれからちっとも変わんねェから、とりあえず本番慣れしねェと、なんて考えて女遊びはやってみてっけど……」
そんな事を言いながら、渋谷先輩はチラリと綿華君を見つめる。
「何なら相手してやるぜ?女が感じるテクは相当学んで」
「あ、死んでください。」
……渋谷先輩もどうかとは思うが、綿華君の物怖じしない性格もどうなのか。
君の目の前にいる男は、ある程度お世話になった先輩だと思うのだが……。
「……ま、でも駄目だ。あいつじゃねェと、イマイチ燃えねェんだな。」
「……渋谷先輩……」
「あいつの為に髪染めて、口調から何から全部変えたってのに、見向きもされねェし、俺は俺で勇気失っちまった……」
遠くを見つめる渋谷先輩は、ほんのりと哀愁が漂っている。
派手に染めた赤髪は、元気無さそうにしだれていた。
しばらく悩んでいた綿華君だったが、突然カウンターに身を乗り出した。
「それじゃ、やっぱり告白しましょ!」
「……あ?」
「思いを伝えないまま、勝手に諦めてるのってもったいないですよ!せっかくそこまで変わったんだから、それなら」
「イヤ、いーわ……今さら告白してもしょうがねェし、伝えないままの片思いってモンに、俺はもう慣れちまったんでな。」
「……でも!」
「ハッ!綿華君。恋とは叶うものだけを言うのではないのだよ。人の決断まで変えてはならない。そこを履き違えると、お節介ではなく邪魔になる。」
ずっと黙っていた神だが、やはりここに呼ばれたからには応えたい一心で、
綿華君の暴走を、この辺りで止める事にした。
もちろん綿華君は納得していないだろうが、やはり男同士、
渋谷先輩の気持ちも、なかなか分かるものなのだ。
「ま、とりあえず三年連中には秘密な。今ンとこ、俺の過去の事はお前らにしかバレてないようだし……そういや、幼なじみ連中がいるからあいつらも要注意か?」
「……幼なじみ連中?」
「おめェらもテルたちと知り合いなんだろ?当然あいつらとも、俺は一時期顔を合わせてたんでね……」
すぐにはピンと来なかったが、つまり長瀬君たちの事だ。
月山和佳子と幼なじみである渋谷先輩は、彼らの成長も見てきたのだ。
「なんか、意外な接点ですよね……」
「最近の事ァよく知らねェが、今でも男五人一緒につるんでんのか?」
「ハッ!……ん、男五人?」
「あァ、えーとテル、洋次、達也、良助、慎悟の五人だったろ?」
『慎悟?』
綿華君と声が揃った。最後の一人は、聞き覚えのない名前だったからである。
いくら考えてみても、「慎悟」なる男子は身近には居ない。
ほんわか天然系の月山和輝、元気が取り柄で少々傲慢な住田洋次、
へそ曲がりで中二病の長瀬達也、無口で猪突猛進な脇坂良助。
神ら、それに恐らく落合君や宇野君も、知っているのはこの四人だ。
「中でもテルと洋次はやたら仲が良かったが、あれからどうなったんだ?」
「え?ああ、順調にお付き合いしてるわよ。」
「まァ、そんなとこだろうなァ……」
……ん?おい綿華君。あっさり秘密を洩らしたぞ。
「ハッ!綿華君。簡単に個人情報を明かしてしまって良いのか?」
「だって渋谷先輩には色々教えてもらったから、これくらい言わないと……」
「正直予想できてたわ。まァ、相変わらずごちゃごちゃしてんだろうな。」
「ハッ!……渋谷先輩、男同士というのに抵抗は無いんですか?」
「あァ、うちの学年にもいるし、菊池と後藤も怪しいしなァ……そんなモン、個人の自由って感じで……」
「ま、待って下さい!テルと洋次の話、もうちょいkwsk!」
……神は声に反応して振り返り、ギョッとした。
本棚の陰から、ツインテールの女子が息を切らして飛び出してきたのだ。
彼女は何やらノートを抱えている。異常に息が荒い。
しかも神はついこの前、ここで彼女に会ったばかりだった。
「……野上さん?」
「あっ!のがみんの馬鹿ぁ!男同士の果てしない絡みを想像して、我慢できなくなって飛び出してしまったわ!のがみんの堪え性無し!」
よく状況が分からないが、あの女っ気たっぷりの野上結衣が、
男を喰っていると噂の野上結衣が、目の前で自分の頭をぽこぽこ殴っている。
かと思うと、また目をキラキラさせて、渋谷先輩に食って掛かった。
「やっと出会えたんです!あなた達だったのね!のがみんの運命の人って★せっかくホモォの噂を聞きつけてバルガクに転校したってのに、なかなか知ってる人に巡り合えなくて……だからもっと、ムネアツなBLください!」
「……え、そんな事のために転校したの……?」
「当たり前でしょ♪のがみんはBLが大好き!腐・女・子なの❤」




