色恋沙汰に神降臨(6)
会議が始まる時間になるかという時、荒々しく戸が開いた。
大きな音に、一同の目が戸の方に集中する。
「……ンだよ、会長サンたち、まだ来てねェのか。」
図書委員長:三年一組 渋谷隼人
図書室を私物化しようとした不真面目チャラ男……という噂だったが、
どうやら面白そうな過去を持つ、この男が登場した。
「渋谷ちゃん、来ると思わなかったよ。」
「あ?俺がいちゃマズいってのか?」
「いやいや、そんな事はないっしょ。」
飯島先輩があえて渋谷先輩をからかう。
彼が会議に出るのは恐らく初回以来なのではなかろうか。
不真面目な態度を取って反発しているように見えて、
その内実は図書室の蔵書管理システムを一人で完成させていたのだった。
……昨年度末に綿華君が倒れた時も、その代役を見事成し遂げた。
「……ねえ渋谷。アンタも今度ショッピング付き合いなさいよ。もちろん荷物持ちで、私の三歩後ろを付いて歩きなさいね。」
「は?月山お前、何言って」
「分かってるわよね渋谷。」
「……チッ……いっぺんだけだぞ。」
……綿華君の話によると、渋谷先輩と月山先輩は幼なじみであり、
しかもチャラチャラしている渋谷先輩は、元々内気で暗い少年だったらしい。
勿論今の渋谷先輩はその過去を隠そうとしているのだが、
月山先輩がそれを弱みとして握っているというわけなのだ。
……月山先輩の立ち回りが上手いと言うべきか。
会議が始まる丁度の時間、秒針が12を指したその瞬間に、
最後の二人が生徒会室に到着した。
「悪い!遅くなった……先生たちに捕まってしまってな!」
「全員揃っているようですね。すぐに始めましょうか……」
副会長:三年四組 桜塚翼
生徒会長:三年一組 花園総希
バスケが恋人、快活で生徒会の顔とも呼べる有名人、桜塚副会長と、
体育委員長翔ちゃんの兄でもある、名門花園家の長男で完璧超人、花園会長。
これで無事、久々に執行部員全員が揃ったというわけだ。
桜塚副会長が大量に持ってきた書類を次々と他の執行部員に回し、
それが行き渡った所で、彼が説明を始める。
「それじゃプリントを見てくれ。六月には体育祭が控えていて、その準備にも取り掛からなければならないが、まず先に執行部の課題としては、委員会の設立が挙げられる!それについては渡の方から説明してもらおう!」
名前が挙がったのは学級委員長、渡透。
二年生ながら七つの全委員会の代表も務めている男だ。
「はい……これまであくまで執行部メンバーとしての活動を中心に行ってきた我々委員長ですが、いよいよ本格的に新年度委員会が発足します。各クラスから集められた委員の前で、今年度の目標やタスクの提示など、様々な事を先頭に立ってやらねばなりません。」
「……ま、去年の終わり頃からやってたから問題ないっしょ。」
「飯島委員長の言う通りではありますが、去年までは前委員長を中心に、上の学年のサポートがありました。これからは完全に各委員長の個人プレーとなります。委員長の中には僕も含めて二年生も多く、少し不安はあります……特に。」
渡が指したのは、角に座っている綿華だった。
綿華は自分が指されると思っておらず、目を点にしている。
「今年から新しく発足される保健委員会は、これまでのデータが存在しないため、困難な作業を確実に伴う事が予想される。」
「……き、肝に銘じておくわ。」
「安心しなさいよサユ。その間、私たちは遊んでるわけじゃないんだから。」
すぐにフォローを入れたのは月山先輩。
ショッピングに勤しむ彼女が言ってもあまり説得力が無いぞ。
だが、さらに桜塚副会長がフォローに入った。
「月山の言う通り、俺たちはその委員会が上手く回るかを確認し、トラブルを解決する役目がある。花園会長、月山書記、後藤庶務、それから上川会計。困った時には俺たちが何でも助けると思って安心してくれ!」
自分の厚い胸板を叩く桜塚先輩。
その瞬間に男性特有のフェロモンが部屋いっぱいに広がって……何でもない。
「初回の委員会は来週の金曜日を予定しています。丁度一週間後……それでは水曜日の臨時執行部会までに、各委員長はそれぞれの委員会で何をするか、もしくは何をすべきかを決め、この場で報告すること。何か質問は?」
渡がテキパキと物事を決めていく。
花園会長はその様子をニコニコと見守っているだけだ。
特に異議も無く、委員会についての議題はそれで終わった。
いくつかの事項を確認した後、花園会長の合図で執行部会はお開きとなった。
メンバーが次々と席を立ち始める中、神の斜め前に座っている男、
勝村幸夫はこちらを見て不敵に笑んだ。
「初回風紀委員会では、これでもかという程の成功を見せつけてやりましょう。元々風紀委員として学年を引っ張ってきた身、このくらい造作もない事です。」
「ハッ!別に誰も聞いていないが、せいぜい頑張りたまえ。」
「貴方が部長会で上級生に責められたのも過去の思い出……上級生との間に、トラブルはつきものですからね……」
「ハッ!神の様な失敗なぞ、自分だったらしないとでも?」
「いえ……早く貴方に追いつかなければと、単純に思っていますよ。」
勝村は少し悔しげな、不思議な表情をして席を立った。
……奴も学年末のテスト勝負以来、少しその態度を変えたものだ。
神がする事なす事すべてに否定してかかってきた勝村は、
あのテスト勝負は、神の点数自体は上回ったものの、
神の神徒(宇野君や綿華君ら)と勝村の部下たちとの対決で、
見事に神徒が勝ちを収めてからは、何やら考え方を変えたようである。
……まあ神が世界を統治するまでに、敵は徐々に減った方が良い。
ただ今後も、奴が急成長してまた神の前に立ちはだかる可能性は十分に……
と、考え事をしていると、ほとんど生徒会室から執行部員が消え、
部屋に残ったのは、神の他に綿華君と、問題児(仮)渋谷先輩だけであった。
「資料は前もって多いってほど揃えとけ。委員どもにタスクを与え続ければ、不満も出ねェだろ。」
「そうなんですか?」
「資料が無いと話を聞かざるを得なくなる。緊張した時、人間は変な事を口走っちまうもんだ……それを聞き流させるためにも、常に目で資料を追わせるんだ。」
「……そっか、成程……」
どうやら渋谷先輩から、委員会の極意を聞いているようである。
こんな時、前は一人で抱え込んでいた綿華君だが、これは成長と取るべきか。
どちらにせよ、彼女の味方が増えるのは良い事だ。
「そういえば渋谷先輩、もう一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「あぁ?俺も忙しいんだから、早く言えよ。」
「えっと、月山先輩の事好きなんですか?」
ドッカーン!
あれ、何か効果音聞こえたよ?地雷を踏んだ音かな?
なんてことを!と思わず叫んで止めようとしたが、
……神の予想に反して、渋谷先輩の顔は何と真っ赤に染まっていたのだった。
「……綿華……」
「ごめんなさい、月山先輩と幼なじみだって知ってから、見れば見る程、そういう風にしか見えなくって……」
「……ついでに上川も……お前ら、図書室へ来い。」




