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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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色恋沙汰に神降臨(3)

というわけで昼時。神は不審者呼ばわりされるのを覚悟で、野上を追跡。

彼女は一人でパンを食べた後、まっすぐに図書室へ。

何を見るでもなく、ぶらぶらと本のタイトルを眺めた後に、

少しがっかりした顔をして、図書室を出ようとする。


「……野上をつけてるの、誰ですかあ?」


野上が振り向いて、神の隠れているポイントを真っ直ぐに見ている。

……気づかれたか!神技を見抜くとは、仕方ない。


「……いや、偶然だよ野上さん。一人で図書室に入る姿が見えたから、どうしたんだろうって思ってね……」


神技!良い人オーラの術!

ふはははは!神もその気になれば没個性化し、ただの良い人になる事が……


「あれ、上川君って『神様』を名乗ってるんでしょお?普通の喋り方をするなんて、意外だねえ。」

「……ハッ!誰から聞いた?」

「宇野君からだよお。すっごい優しいのお。何でも教えてくれるからあ。」


……昨晩はプライバシーがどうこう言っていた割に、神の事はバラしおったか!

念の為秘密にしておけと言ったのを忘れたか!

宇野君は本当に信仰心が足らんぞ!……それはともかく。


「ハッ!ならば野上君、何をそんなに知りたがっているのだ?……場合によっては、宇野君よりもずっとこの学校に精通している神が、君の質問に答えてやらんことも無いぞ。」

「……そうねえ、別に知りたがってるってわけじゃないけどお……」


野上はキョトンとした表情で、こちらに迫って来る。

腕を寄せて胸の谷間を作り、上目づかいで神を見る。


「そしたら、神様は野上と『イイ事』したい?」

「……!」

「おかしくなっちゃうくらい、『イイ事』……知りたい?」


なるほど、これに多くの男子生徒がハートを射抜かれたというわけか。

だが残念、神は女の色気などに惑わされるほど程度の低い人間ではないのだ。

失笑した上で、神は眼鏡の縁を上げた。


「ハッ!無理に交換条件を作らなくともよい。君程度の願いなど、神が叶えてやろうと言っているのだ。」

「……つまんないのお。ね、神様は好きな人、居るのお?」

「ハッ!残念だが、幼稚な恋愛にかまけてる暇は無いのでな。」

「なんだあ。じゃ、野上が知りたいこと、あなたは知らないと思うよお。」


急に神に興味を失った野上が、神の横を素通りしようとした。

慌てて振り返ると、野上は優しく微笑み、

そのふっくらした唇に、自らの人差し指をあてがった。


「ここで会った事は秘密ねえ?内緒にしてくれなかったら、イタズラされたって言っちゃうんだから。」

「ハッ!……一応、心得ておこう。」


神の言葉を聞くと、そのまま野上は渡り廊下へと向かった。

恐らく、自分の教室へと戻るのだろう。神もボーッとはしていられない。

彼女とはまた別のルートで、教室へと戻る事にした。



結論から言うと、収穫はなし。

野上が何かを知りたがっていると言うのは確実だが、

その中身を知ろうとしても、煙に巻かれる。


……そもそも不器用で初対面の神に、野上があっさり話すだろうなんて、

綿華君の考えた計画は最初から破綻しているように思えるのだが、

何故綿華君は神に野上を尾行させたのか……。

その瞬間、嫌な予感がした。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



同じ時間、北校舎二年生フロアにて。


女子トイレの個室から出てきた鈴木美沙子は、入念に手を洗って、

それから顔を上げた時、鏡に映った見知らぬ顔に手を止めた。


「あらん?わたくしに何か用かしら?」

「……鈴木美沙子さんね?初めまして、あたしは綿華小百合。」


腕を組んで壁に寄りかかる綿華は、にっこりと笑う。

しかし、その純真な笑顔はむしろ、鈴木に不審さを与えた。


「わたくしのファン……というわけでは無さそうですわね。」

「日本有数の鈴木財閥のお嬢様が、この学校に何の御用かしら?もっとふさわしい、お嬢様校もあったはずでしょ?」

「…………」

「貴女の事は色々調べさせてもらったけど、どうやら貴女はOR学園からの転校生……言うまでもなく、近所よね?わざわざ転校する意味が、何かあったとしか思えないけど……」


鈴木はポケットからハンカチを出し、手を拭き取り始める。

制服を少し改造した、自身お気に入りのレースに水滴がついていないか、

鏡で入念にチェックしてから、綿華の方を振り返った。


「『オリーブ・グループ』はご存知?」

「ええ……西日本有数の財閥で、確か本社がうちの県にある……」

「注目企業『オリーブ・グループ』の実情を探るため、わたくしはOR学園に潜り込んだのですわ。そう、OR学園とはオリーブ・レッド学園の略。学園理事長は『オリーブ・グループ』の代表、朱雀理央……」

「……なるほど、そこで貴女のやっていた事がバレたって事ね?」

「そういう事になりますわね。わたくしは学園を追い出された代わりに、BL学園に入学した……朱雀理央の姪、朱雀優美はBL学園に在籍している。今度は彼女を調査する事によって、我が財閥に貢献するのですわ!」


鈴木は実に打算的に、ライバル社を倒すために動いていたのだ。

既に勝ち誇っているかのような表情を見て、綿華は呆れる。


「何だ、そんな事なのね……じゃあ別に、周りの男子生徒をたぶらかそうとしているのは……」

「朱雀優美の情報を握る男を、少しでも捕まえるためですわ!」

「それなら別に良いわ。朱雀ちゃん、そんなに弱い子でも無いし……貴女は放っておいても良さそうね。」

「……何をおっしゃるの?」

「こっちの話よ。ま、バルガクは一筋縄ではいかないわよ。貴女もすぐ、それを思い知ると思うわ……」


綿華は下ろした髪を束ねながら、鈴木には一瞥もくれず、

鈴木の反応を見ることなく、女子トイレを出ていった。


「……確かに、面白そうですわね……BL学園。」


そんな鈴木の不敵な笑みに、気づくことも無く。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「女子トイレの外で待ち伏せしてるなんて、変態に間違えられるわよ?」


恐らくは鈴木を待ち伏せていたであろう、住田洋次が、

綿華の声につられて飛び出した。彼女に声を掛けられるのはこれで二度目だ。

いよいよ住田も彼女を疑い始めていた。


「お前、何なんだ?テルや鈴木に付きまとって、いったい……」

「大した用じゃないわ。そんな事よりすーみん、テル君の事、ちゃんと見てあげてね?」

「な……す、すーみん?」


その一言だけを残して、綿華は住田の元を去った。

彼に気づかれないように、ほんの少し、ため息をつきながら……。


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