色恋沙汰に神降臨(4)
「……なるほど、神様が野上さんをつけまわしている間に、綿華さんは鈴木さんを捕まえて、さらに洋次君と接近したんですね……」
「ハッ!綿華君の事だ。これ以上は神に止められると思い、神のいない内に行動しようと思ったのだろう。」
夕飯時、少し練習が早く終わったらしい落合君を捕まえて、
神の完璧な推理を披露してみせた。
……そういえば落合君、いつも通り日替わり定食を食べてはいるが、
あれから長瀬君との恋愛は順調なのだろうか?
その気になれば人の気持ちなど読める神ではあるが、
全て読んでしまうのもつまらんので、直接聞いてみることにした。
「ハッ!落合君、長瀬君とは順調なのか?」
「ぶふぉお!……な、何なんですか急に……」
急に口の中のものを飛ばしかけた落合君は、
慌てたのかやたら咳き込んでいる。
これだから食事は醜い。よって神はなるべく人前で物を食べぬのだ。
「ハッ!一時期織田君が図々しく入り込んできて邪魔してくるとか言っていたではないか!そんな邪魔者が居て、進展は難しいだろう。」
「ちょ、邪魔なんて言ってないです!……今は三人仲良く、それなりに楽しんでますよ。直樹君が達也さんと同じ部活に入ってるんですけど、二人とも察しが良くないので、コミュニケーションに苦労してそうです……」
「ハッ!成程。そういえば二人とも、軽音部だったな。新入生歓迎会では、なかなかのパフォーマンスだったではないか。」
「……ぶっちゃけ、一生懸命で真顔の達也さん、マジ美少年ですよね……直樹君もイケメンですけど、負けてないっていうか……」
「は、ハッ!それはよく分からんが……」
恋は盲目、というやつなのだろう。落合君も物好きだ。
ところで、神は奇妙な事に気が付いてしまった。
「ハッ!織田君の事は直樹『君』と呼ぶのだな。ほとんどの友人に『さん』付けをする落合君が、珍しいな……」
「ああ……直樹君は直樹君なんですよ。鈍いせいでイマイチ僕のギャグも通じないし、当たり前のようにフラグを折っていくし、一番残念なイケメンだと勝手に思ってるので……」
「ハッ!成程。」
「あと、軽音部の奥野正君も、正君って呼びますね……彼はまさに小動物なんで……あ、僕は豚ですけど……」
「ハッ!後半の意味が分からんぞ。」
「オチ君、相変わらず自分のこと豚って言ってるのね?卑下しすぎると逆にうっとうしいわよ?」
「ハッ!綿華君の言う通り……綿華君?」
黒い革ジャンに、フードで髪型を隠している綿華君が、
しれっと神の隣に座っていた。デジャヴを感じるぞ。
そして……落ち着いてほしいのだが、ここは紛れもなく男子寮の食堂だ。
「ちょ、綿華さん……見つかったらどうするんですか!」
「寮長は後藤先輩でしょ?あの人なら緩いし、前も許してくれたから大丈夫よ。」
「そ、そういう問題じゃ……」
「ハッ!神をまんまと出し抜いて勝ち誇っている綿華君が、何の用だね?」
綿華君は一瞬キョトンとした。神は意外と根に持つのだ。
住田&月山には、手を出さない方が良いという神の考えに、
真っ向から反発したがっているのが綿華君なのである。
「ああ、気づいたのね。神様も意外と騙されやすいからびっくりしちゃった。でも、鈴木美沙子がただ自分の財閥の利益のためだけに、バルガクに入り込んだのは間違いなさそうよ。」
「ハッ!……君がその後、住田君にも接近したと風の噂で聞いているぞ。」
「風の噂ねえ……ま、大したことは言ってないわ。ちゃんとテル君の事考えてあげてって言っただけ。適度なレベルのサポートでしょ?」
……綿華君は何故か自信満々だが、今後トラブルを起こす可能性もある。
調子づいた時の彼女が一番面倒な事は知っているが……。
「ハッ!とにかく、これ以上二人の関係に口を挟まない方が良いと思うぞ。月山君も綿華君の事を良くは思っていないだろうからな。」
「神様、今日はますます偉そうね?そんな神様は、野上結衣の事、何か掴んでくれたのかしら?」
「は、ハッ!勿論頭のてっぺんからつま先まで丸裸にしてやったわ!」
「それは犯罪よ。……その口ぶりだと、何も掴めなかったようね……まあいいわ、うのぽんに直接聞くために、ここに乗り込んできたんだし。」
綿華は不敵な笑みを浮かべて、次々と食堂へやってくる生徒を観察している。
……行動力はピカイチだとは思うが、行き過ぎではないだろうか。
落合君が神と綿華君の会話についてこれなくなり始めた時、
ちょうど見覚えのある男が食堂に姿を現した。
少し挙動不審で慣れない様子の、ヒョロっとした同室の石川君だ。
「ハッ!石川君ではないか。今日は何を食べるのだ?」
「……そんなの、関係ないでしょ……」
「ハッ!相変わらず憎々しい口を利きおって……すぐに神徒に組み入れてくれるわ!」
「……勝手にすれば……」
それから神たちの事は構いもせずに、まっすぐカウンターに向かい、
料理を受け取ってそのまま別の机に一人で座ったようだ。
当然彼を初めて見る綿華君が、不思議そうに落合君に尋ねる。
「誰あの子?」
「不幸にも、神様と同じ部屋になった一年生の子です……」
「ハッ!余計な副詞を付けないでくれたまえ。」
「あー、それは不幸ね……女子寮はその点、完全個室だから気遣わなくて良いわよ!あたしなんか普段からスッポンポンだし!」
「ハッ!その情報には全く需要が無いぞ。」
何故か一人勝ち誇って笑う綿華君。
侵入しているという意識があるのかは知らないが、
気配を消すのは上手いようで、周りの生徒は気づいていないようだ。
「何で綿華さんここに居んの?不法侵入じゃん。」
しかし、一瞬で彼女に気づいたのは目当ての男、宇野君だった。
先に風呂に寄ったらしい彼は、少し濡れた髪をふわりとなびかせて、
カレーうどんを取って落合君の隣に座った。
「……待ってたわうのぽん。どうしても学校では捕まってくれないから、ここで聞いちゃった方が早いと思って。」
「ストーカーじゃね?」
「ズバリ、野上さんは何を知りたがってるの?何でうのぽんがあそこまで付きまとわれてるのかしら?」
綿華君が言い終わった瞬間に、宇野君はうどんをすすり始めた。
何となく、落合君と顔を見合わせてみる。
「ハッ!すぐに言えないという事は、やましい事でもあるようだな。」
「許せませんねうのぽん……僕らを出し抜いてこっそりリア充なんて!」
神らが口々に適当な事を言っていると、宇野君はうどんをすすり切った。
……口の周りに異常にカレースープが散っているのが気になったが。
「別に、野上は俺じゃなくてもいーんだと思うよ。たまたま声を掛けたのが俺だったんじゃね?」
「……それ、答えになってないわよ?」
「まー俺も一応、首突っ込んだからには、黙っといた方が良いかなって思う事もあるわけじゃん。皆にもあるんじゃね?」
「……どういう……」
「菊池先輩!女子が一人、入り込んでんじゃん!」
宇野君が叫んだその瞬間、長身でガタイの良い眼鏡男、菊池先輩が現れた。
彼は細目をギロリと綿華君に向ける。……宇野君め、やりおったな。
「公平」菊池先輩のその表情を見て、綿華君は慌てて席から立ち上がった。
「……綿華。あまり何度も規律を破るようでは困るのだが……?」
「てへっ★すみませーん、直ちに選手退場します!」
凄い勢いで逃げていく綿華。あっけに取られる神と落合君。
そして、我関せずといった様子でうどんをすする宇野君。
……やはりこの男、一筋縄ではいかぬわ。




