野獣騎士②
久方ぶりに更新っ(*`・ω・´*)
「ミリィィィイイイ!!」
大声を出しながら若い男が馬に乗って物凄い勢いで目の前にやってきた。
色素の薄いブロンドのストレートな髪にシルバーのモノクルをかけた青年。身なりからするに貴族の子息だろう。
彼は慌てた様子で馬から降り、彼女に抱きついた。
「ああああああああああミリィ! 怪我は!? 痛いところはないか?!」
「えっ、あ、あの、だ大丈夫です、怪我はしてないです」
彼女は驚いたように一瞬目を大きく見開いたが、そのあと嬉しそうにはにかみながら男の背にそっと手をまわした。
その光景をみた瞬間、目の前が赤く染まった。
今までに感じたこともない様な激情。
怒り。
嫉妬。
絶望。
どす黒い何かか心を占める。
彼女が次の言葉を発しなかったら、俺は腰の剣に手をかけ目の前の男に切りかかっていたかもしれない。
「心配してくださってありがとうございます、レオン兄さん(・・・・・)」
「いや、その、なんだ。兄なのだから妹を心配するのは当たり前だろうっ」
兄、妹。なんだ兄妹か。俺の中で渦巻いていたものたちが静かに収束していった。
落ち着きを取り戻した青年は先ほどまでの慌てぶりが嘘のように冷静になり、彼女から距離をとった。
そしてこちらに向き直る。
「私はフーシャの領主レイス家のレオンと申します。貴殿が妹を助けてくれたのですね。礼を言います」
「本当にありがとうございました」
揃って礼をする兄妹。
その様子をみていた周囲がざわつく。
(あれが噂のフーシャ麗しのレイス家の兄妹)
(ああ、あの婚約申し込みが絶えないっていう例の)
(噂以上の美貌だねぇ)
(レオン様素敵ぃ)
(ミリィ様、なんて美しいのでしょう)
レイス家。トリアに隣接する穏やかで自然豊かなフーシャの領主。そこの兄妹はこのトリアにまで聞こえてくるほど有名だ。特に妹は滅多に人前には出ないというのにその美貌は一度見たら忘れられないと言われていた。
実物をみて納得である。
「いえ、大事にならなくてよかった。私はトリア騎士団団長を務めるアーダルベルト・プローレンハイト」
俺が名乗ると、兄妹は驚いていた。そして周囲でもどよめきが起こる。
「あの有名な騎士団長殿でしたか」
「まあ、ライオンさんは野獣騎士さんでしたのね」
彼女はその小さな口に両手をあてる。
その動作ひとつが可憐で愛らしい。
普段言われてる野獣騎士というセンスのない二つ名も、彼女の口から発せられると尊いものに聞こえる。
「私と従者が馬車から離れている時に突然馬が暴れてミリィを乗せたまま走り出した時には心臓がとまるかと思いました。本当に、あのままではどうなっていたか……貴殿には何かお礼をしたいのですが」
お礼をされるようなことではない。騎士として当然のことをしたまでだ。
礼は必要ないと口にしようとした。
「私にできることでしたら何でもいってください」
瞳を輝かせこちらを見る彼女。その言葉を聞いた俺の口は勝手に次の言葉を発していた。
「では、私と結婚してください」
「「え?」」