プロローグ ──神罰の日──
千年前。
神々はまだ。
人の世界へ。
その手を伸ばしていた。
天より。
世界を見下ろす神々の眼には。
一つの光景が映っていた。
人は争う。
奪い。
憎み。
殺し合う。
昨日まで。
隣人だった者が剣を交え。
流れた血が。
大地を染める。
国が生まれ。
国が滅び。
そして。
また新たな争いが始まる。
その光景は。
終わることなく。
繰り返されていた。
やがて。
一柱の神が。
静かに口を開く。
「人は愚かだ。」
「このままでは。」
「いずれ自ら滅びる。」
別の神が応える。
「ならば。」
「我らが正せばよい。」
「人が正しく歩めぬというのなら。」
「神が道を示すのだ。」
その言葉に。
天界は。
静まり返った。
長い沈黙。
やがて。
一柱の神が。
厳かに告げる。
「ならぬ。」
「神は。」
「人の歩む道を。」
「決めてはならない。」
その声には。
怒りではなく。
深い悲しみが滲んでいた。
「……過去の過ちを。」
「もう忘れたのか。」
再び。
沈黙が訪れる。
人は。
自らでは正しい道を選べない。
故に。
神が導くべきだと考える者。
人が道を誤るのなら。
裁きを与えるべきだと考える者。
そして。
たとえ過ちを犯そうとも。
人自身へ。
その未来を委ねるべきだと考える者。
誰も。
譲らなかった。
そして。
その日。
神々は。
二つに分かれた。
天が割れ。
星々が震えた。
神々の戦いは。
千日に及んだ。
後に。
人々から。
『千日戦争』
そう呼ばれることになる。
その戦いは。
天だけの出来事ではなかった。
雷鳴は。
昼夜を問わず轟き続け。
山は裂け。
海は荒れ狂い。
大地は。
悲鳴を上げるように揺れた。
人々は。
空を見上げ。
ただ。
震えることしかできなかった。
世界の終わりが。
訪れたのだと。
誰もが思った。
しかし。
ある日を境に。
全てが止んだ。
雷は消え。
風は眠り。
波は静まり返る。
あまりにも突然訪れた静寂は。
嵐よりも。
なお恐ろしかった。
そして。
その夜。
雲一つない夜空に。
無数の光が流れた。
一つ。
また一つ。
幾千。
幾万もの光が。
夜空を駆けていく。
人々は。
涙を流し。
その光景へ。
祈りを捧げた。
「神が。」
「争いを鎮めてくださった。」
「これは。」
「神の慈悲だ。」
「我らは。」
「赦されたのだ。」
誰もが。
そう信じた。
後に。
その日は。
『神罰の日』
として。
歴史に刻まれる。
そして。
人類は。
二度と世界を。
争乱へ巻き込まぬよう。
七人の代表者が。
一つの盟約を結んだ。
だが。
人類は知らない。
あの夜。
空を流れた。
星々の正体を。
それは。
戦いに敗れ。
天より堕ちた。
神々だった。
そして。
彼らは。
滅びてはいなかった。
天を追われ。
地へ堕とされても。
なお。
自らの思想を。
捨てることはなかった。
やがて。
一柱の神が。
楽しそうに笑う。
「俺は。」
「《迷宮》を創造する。」
「人間に。」
「厄災を届けるためにな。」
「どこまで足掻くのか。」
「見てみようじゃないか。」
別の神が。
口元を歪める。
「死んでも。」
「安らぎなんざ与えねぇ。」
「俺のために。」
「働いてもらう。」
「全てを。」
「ぶっ潰すためにな。」
「俺は。」
「好き勝手にやるだけだ。」
そして。
一柱の女神が。
穏やかに微笑む。
「なら。」
「私は。」
「新しい生命を創りましょう。」
「争いも。」
「悲しみもない。」
「私だけの。」
「美しい箱庭を。」
その言葉を聞きながら。
一柱の神が。
静かに目を開いた。
赤い瞳。
そこには。
何の感情も浮かんでいない。
「好きにすればいい。」
「私は。」
「運命を描く。」
「外れたのなら。」
「また。」
「駒を動かせばいい。」
神々は。
それぞれの思惑を胸に。
人の世界へ。
散っていった。
そして。
その全てを。
ただ。
静かに見つめる者がいた。
それから。
千年。
神々の思惑は。
人の歴史の裏側で。
静かに絡み合い続けた。
人は。
知らない。
自らの人生の傍らに。
神々の思惑があることを。
それでも。
最後に。
どの道を選ぶのか。
そして。
選んだ道を。
どう生きるのか。
それだけは。
誰にも決めることはできない。
神にも。
運命にも。
これは――。
神々の思惑が交錯する世界で。
何度倒れても。
何度道を阻まれても。
自らの意思で。
前へ進み続ける。
一人の少年と。
彼と出会った者たちの物語。
そして。
彼らが選んだ道が。
やがて。
世界の運命さえ。
変えていく物語である。




