第87話 見てもらいたいもの
「見てもらいたいもの?」
「はい。実は……相談したかったのはこのことでして」
リヴィアがそう言いながら共有したのは見覚えのあるアイテムだった。
―――――
《継歌の種》
種別:ルート固有アイテム
レアリティ:レジェンド
譲渡:不可
長く届かなかった歌を受け取り、その先へ歌声で繋いだ者に宿る小さな種。
種の内にかすかな響きが生まれている
種はまだ芽吹いていない。
―――――
「……これ、前と何か違う……ような?」
「気づきました?」
もう一度、表示を上から見直す。
「……あ。『種の内にかすかな響きが生まれている』って前からありましたっけ?」
「いえ。それが……増えてるんです。私も気のせいかと思って、手に入れたときに撮ってたスクリーンショットを確認してみたんです」
続けて共有されたスクリーンショットには今ある一文が存在していなかった。
「本当に増えてる……。いつ変わったんですか?」
「それが正確には分からなくて……。気づいたのは二次職の転職クエストを二つとも進め終わったあとでした」
「両方進めてたんですね。もうどっちにするか決めたんですか?」
「それが……まだ決められてなくて」
前に聞いた〈エルフ・バッファー〉の二次職派生――《リーフバッファー》と《スピリットウォーダー》だったはずだ。
「最初は少しずつ進めて比べてみるつもりだったんです。でも、途中からどっちのクエストも続きが気になってしまって……結局、両方とも最後まで進めちゃいました」
「ああ……それはちょっと分かる気がします」
「ザンさんも両方やりそうですよね」
「否定できないですね」
俺も二次職についてはまだ迷っている。
実際に転職クエストを始めたら、片方だけ途中で止められる自信はあまりない。
「今はそれぞれ転職に必要なアイテムを持っていて、指定された場所へ持っていけば転職できるところで止めてます」
「なるほど」
「それで……その二つのアイテムをインベントリで見比べてたんです」
リヴィアが《継歌の種》へ視線を戻す。
「そのとき隣にこれがあったので何となく表示を開いてみたら……この一文が増えてました」
「クエスト更新とかは?」
「何もありませんでした。通知もなかったです」
「二つの転職クエストを進めてる途中で、この種は確認してないですよね?」
「してないです。手に入れた後に何度か見たくらいで……次にちゃんと確認したのが二つとも終わった後でした」
「じゃあ、どの時点で変わったのかは分からないですよね」
「はい。イベントにも参加してましたし、転職クエスト以外にも普通に遊んでたので……どれが関係してるのかも全然分からなくて」
「転職クエストの途中で変わってた可能性もあるし、まったく別のことがきっかけだった可能性もあるか……」
「そうなんです。せめて途中でもう一度確認してればよかったんですけど」
「いや、こんなの毎回確認しないですよ」
新しいクエストが出たわけではない。
行き先が追加されたわけでも、何かの通知が来たわけでもない。
ただ、持っていた《継歌の種》の説明だけがいつの間にか変わっていた。
クエスト更新も通知もないまま、後から見たら表示だけが変わっている。
その感じには少し覚えがあった。
俺の持っているログも表示が変わっていたことがあった。
「今ある情報だけだと、何がきっかけだったかまでは絞れないですね」
「はい……やっぱりそうですよね」
しばらく二人で表示を見直してみたが、それ以上の手掛かりは見つからなかった。
「これはすごく気になりますね」
「……よかった」
「え?」
「ザンさんも気になるって言ってくれて。私だけが気にしすぎなのかなって少し思ってたので」
「そうだったんですね。俺で分かるかは怪しいですけど、こういうのを調べるのは……好きです」
「それは知ってます」
リヴィアが少し笑った。
「《返し歌》のことも一緒に考えてくれましたし、分からなくても一緒に見てもらえたらと思って」
「それはもちろん。でも、ここからどうしましょうかね……」
俺はもう一度、追加された一文を見る。
――種の内にかすかな響きが生まれている。
なぜかその言葉だけが頭に残っていた。
「……じゃあ、友達にも一度見てもらおうかな……」
リヴィアが少し呟くように言う。
「友達ですか?」
「はい、前に《吟遊詩人》のことを調べてくれた子です。CROには私よりずっと詳しいので」
「ああ、前に一緒に探してくれたって言っていた方ですね。それなら何か分かるかもしれませんね」
「最初は以前の《継歌の種》を実際に見ていたザンさんに確認してもらいたかったんです。私の気にしすぎかもしれなかったので」
「それで俺だったんですね」
「はい。でも本当に表示が変わってることは分かりましたし、二人で考えてもここから先は難しそうなので……あの子にも聞いてみようかなって」
「それなら聞いてみましょうか」
リヴィアは少し考えた後、フレンドリストを開いた。
「今ログインしてるみたいなので、呼んでみてもいいですか?」
「今ですか? リヴィアさんがいいなら俺は大丈夫ですよ」
「先に伝えておきます。今見てもらってることも」
リヴィアがメッセージを送る。
少しして返事が届いたらしく、こちらへ顔を向けた。
「来てくれるそうです。ただ、今いるところから少しかかるみたいです」
「じゃあ、ここで待ちましょうか」
俺たちは近くのベンチへ移動した。
待っている間にも《継歌の種》を見直したが、今の情報だけで答えが出るわけもない。
しばらく雑談しながら待っていると、リヴィアが通りへ視線を向けた。
「あ、来たみたいです」
こちらへ歩いてくるのは小柄な猫型のビーストフォークだった。
どこか……見覚えがある。
「え……Nanaさん?」
《Fangline》の攻略勢のNanareeだった。
「お待たせ。ザンさんもこの前ぶり」
「こんにちは。……って、リヴィアさんの友達って、Nanaさんだったんですか?」
「え……え……? ザンさん、Nanaに会ったこと……あったんですか?」
リヴィアが驚いたように俺たちを見る。
Nanareeから返事がない。
「……Nana?」
「…………え?」
Nanareeがリヴィアをじっと見ている。
「どうしたの?」
「り、り……あ」
「え?」
「リヴィア、喋ってるじゃん!?」




