第63話 行き先
ここ一週間ほど、バイト先で急な出勤要請が来たうえ、夏休み直前のレポート課題も重なってCROへほとんどログインできずにいた。
その間も空いた時間に公式掲示板は確認していた。
先週から始まったCROイベント《生息域調査クエスト》には、すでに各地から報告が集まり、開始時にはなかった地域や調査内容も追加されている。
攻略組やクラン単位で参加しているプレイヤーは効率の良い討伐経路を作り、かなりの数を狩っているようだ。
イベントは今日で8日目。
ようやくバイトと課題が片付き、明日からお盆まではバイトもほとんど入れないようにした。
これでしばらくは時間を気にせずCROを遊べる。
俺は早速ログインした。
王都の《転移門》前にはイベントの受付係が立っている。
話しかけると、簡単な説明の後に参加案内が表示された。
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【参加する支援を選択してください】
《掃討支援》
指定地域に出現するMOBを討伐する。
《探索支援》
地域を巡回し、魔物の痕跡や行動の変化を探す。
《護衛支援》
調査員や住民の移動を護衛する。
*選択中の《支援》は支援目標を1つ達成した後に変更できます。
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痕跡や変化を探す依頼なら、《探知》を持つスカウト職とは相性がいい。パーティを組まなくても進めやすそうだった。
俺が《探索支援》を選択すると、支援先の一覧が開いた。
これまで訪れた村や町だけでなく、知らない地名もいくつも並んでいた。地域によって推奨レベルも異なり、一部には今日追加されたことを示す表示がついている。
一番下にあったのは選んだ支援を必要としている地域へ自動で割り振られる『おまかせ』だった。
情報が集まっている地域へさらに加わるより、人手が必要な場所へ行く方がいいかもしれない。
特に欲しい地域素材も行きたい場所も決まっていなかった俺は『おまかせ』を選んだ。
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クエスト《生息域調査クエスト》を受注しました。
支援種別:《探索支援》
割当方式:『おまかせ』
支援先:《ルガート村》周辺
《直接移動》が利用可能になりました。
この支援依頼を受注している間、各地の《転移門》から支援先へ何度でも移動できます。
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「ルガート村?」
聞き覚えはあるものの、すぐには場所が浮かばなかった。
地図を開いて確認すると、《ルガート村》はビーストフォークの初期村だった。
《転移門》の行き先には普段の一覧とは別に〈イベント支援先〉が増えている。
俺はそこから《ルガート村》を選択した。
足元から光が広がり、王都の景色が消えていく。
次に視界が開いたとき、俺は見たことのない村の広場に立っていた。
赤みがかった土で固められた円形の広場の正面には村の外へ続く大きな丸太の門がある。
左には武器屋や道具屋の並ぶ通り、右には低い柵で囲まれた訓練場があった。
訓練場には爪痕だらけの太い丸太が何本も立ち、武器屋の店先には剣や槍に混じって、爪へ取りつける金属製の装備が並んでいる。
初期村だけあってプレイヤーにもビーストフォークが多い。
ヒュームやエルフの姿も見えるが、広場を見渡せば、あちこちで耳や尾が動いていた。
髪の間から小さな三角の耳を出している人もいれば、頭の横へ長い耳を垂らしている人もいる。
腰から伸びる尾も、細く短いものから背中まで届きそうな太いものまで色々だった。
同じビーストフォークでもかなり違って見える。
そのときフレンドチャットが届いた。
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Yuru:ザンくん、やっとログインしたね
Yuru:イベント、もう8日目だよ
ザン:少し忙しくて
Yuru:今どこ?
ザン:ビーストフォークの初期村です
Yuru:え、なんで?
ザン:『おまかせ』を選んだら、ここになりました
Yuru:あれ選んだんだ
Yuru:ザンくんっぽい
Yuru:私が昨日受けてみた護衛支援、調査員を森の三か所へ連れていく依頼でさ
Yuru:敵が近づくと調査対象のMOBが逃げるから、ザンくんに先に見つけてもらおうと思って。でも無理だよね
ザン:すみません、今受けたばかりでして。盾職とかに離れた場所へ引きつけてもらうのもよさそうですね
Yuru:もういる
ザン:え?
Yuru:盾職ミナっちを確保済み
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今度はミナトからメッセージが届いた。
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ミナト:おい、聞いてくれ
ザン:どうした?
ミナト:俺は今、脅されている
ザン:何したんだ
ミナト:何もしてねえよ!
ミナト:星花祭で俺が言ったことを録音されてた
ザン:『出会いもありそうだしな』
ミナト:そこだけ正確に即答するな
ミナト:護衛を断ったら証拠つきでクラメンに流すって
ザン:怖い
ミナト:だろ!? だからお前も来てくれ!
ザン:頑張って
ミナト:おい、待て!
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Yuruの『確保済み』はかなり正確な表現だったらしい。
どうやらミナトは俺まで道連れにしようとしていたようだ。
チャットを閉じた。
せっかく初めて来た村だ。探索へ出る前に少しくらい見て回ってもいいだろう。
広場から左の通りへ入ると、店先には干した肉や木の実が並び、軒下から細い骨や牙を組み合わせた飾りが下がっていた。
通りの先には広場から見えていた丸太の門がある。
その近くにいたビーストフォークの耳が不意に動いた。
一人ではなかった。
荷物を運んでいた村人も店先で客と話していた村人も、ほとんど同時に門の外へ耳を向けている。
近くにいたプレイヤーたちはまだ話を続けていた。
何だろうと思った直後、遠くから車輪の音が聞こえてきた。
そこでようやく数人のプレイヤーが振り返り、頭の上の耳も門の方へ動く。
先に耳が動き、遅れて顔を向けた村人。
音に気づいて顔を向け、それに合わせて耳が動いたプレイヤー。
門を抜けた荷馬車が広場へ入ってくる。
俺が少し離れた場所から村人とプレイヤーの耳を見比べていると、通りの脇に立っていた男と目が合った。
少し白髪の混じったヒュームの男だった。
男は荷馬車ではなく、さっきから俺の方を見ていたらしい。
目が合うと、どこか嬉しそうに口元を緩めてこちらへ歩いてきた。
「君は獣が好きかい?」
第6章スタートしました!
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《生息域調査クエスト》
今年は季節の移ろいとともに、各地で魔物の数や行動に変化が確認されています。
普段は姿を見せない場所へ現れる群れ。
これまでの生息域を離れ、街道や集落の近くまで移動してきた魔物。
本来は単独で行動するはずの個体が群れを作っていたという報告も寄せられています。
すでに一部の地域では旅人や荷車が襲われ、調査へ向かった者が帰還できなくなる事例も発生しています。
冒険者組合は各地の安全を確保するとともに、魔物たちに何が起きているのかを確認するため、広い地域での共同調査を開始しました。
各地の状況に応じた方法で調査へ協力してください。
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