第28話 王都星花祭
ログイン直後、王都の夜空に金色の花が咲いた。
《王都セントヴェル》の転送門前で視界が戻った瞬間だった。
建物の向こうから小さな星のつぼみがふわりと昇り、ぱっと開いて夜にほどけていく。
「今の⋯⋯中央広場の方?」
「小さいのに綺麗だな」
「撮ろうとしたけど間に合わなかった」
転送門の周りにいたプレイヤーたちが、そんなことを言いながら人の流れに混ざっていく。
王都のどの通りにも星形の灯りが揺れていた。
浴衣姿のプレイヤーたちが中央広場へ向かって流れていき、その先からは祭りの音が聞こえてくる。
イベント――《王都星花祭》はもう始まっていた。
俺がログインできたのはイベント開始から二日後の夜だった。
出遅れた分だけ、中央広場から聞こえる音が余計に気になった。
俺もその流れに乗って進む。
中央広場の石畳には星形の光が散りばめられ、噴水の水面には碧色の花びらがいくつも浮かんでいた。
広場にはいろんな種族のプレイヤーが混ざっている。
ビーストフォークが屋台の前で耳を揺らし、エルフたちは噴水を背景にスクショを撮っている。
ドワーフが串焼きに文句を言い、ダークエルフがそれを横で笑う。
ヒュームの低レベルらしいプレイヤーは、初めて来た王都の祭りをきょろきょろ見回していた。
そのとき、今度は青白い星花が空の低いところで小さく咲くと、光の花びらが広場へ降ってくる。
近くのプレイヤーが手を伸ばしたのが見えたが、指先に触れる前に消えていった。
「去年は初期村だったよな」
「俺は今年から始めたから知らないんだよね」
「今回は大星花だろ? 絶対でかいやつじゃん」
その会話を聞いて、俺も少しだけ去年を思い出した。
一年前の《星花祭》は王都ではなく、種族ごとの初期村や付近の町で行われていた。
あの頃はまだレベルキャップが50で、王都セントヴェルも解放前だった。二次職やサブ職も存在しておらず、今でいう一次職のままみんな遊んでいた。
俺が最終日の星花を見たのはヒュームの初期村――ベルカ村の広場だった。
イベントの終わりには村の空へ《星花》が打ち上げられた。広場にいたNPCの子どもたちも、プレイヤーたちも、みんなで同じ空を見上げていた。
小さな村の空に咲いた星花。
あのときはそれがCROの夜空の全てみたいに見えた。
そして、星花祭が終わった後、CROは一気に動いた。
大型アップデートの告知が出た日の攻略掲示板は、ほとんど読めない速さで流れていた。
――王都セントヴェルが開く。
――レベルキャップが70まで伸びる。
――二次職とサブ職が来る。
――新しい狩場が増えて、今まで歩いていた場所にも変化が入る。
あの頃、アップデート告知に並んだ文字を追っているだけで、まだ見ていない世界が一気に増えた気がした。
どの職が何に進めるのか。
王都には何があるのか。
誰が最初に転職するのか。
そんな話題で掲示板は何日も埋まっていた。
初期村にいたプレイヤーたちは王都へ向かい、転送門前も街道も狩場も、それまでとは別の場所みたいになっていった。
あのときベルカ村で見上げた星花は、あの村だけで終わったわけではなかった。
去年はそれぞれの村で見ていた星花を、今年は王都で見る。
一年越しの《星花祭》。
同じ名前のイベントなのに、見上げる場所が全然違っていた。
小さな村の空から王都の空へ。
それだけで、この一年でCROの世界がどれだけ広がったのか分かる気がした。
俺はイベント告知を開いた。
―――――
【季節イベント:《王都星花祭》】
星花素材を集めて納品し、王都の夜空に星花を咲かせましょう。
イベント素材の《星花弁》《星砂》《星降の火種》を揃えて納品すると、王都セントヴェルの各区域の星花準備が進みます。
素材集めおよび納品期間:残り4日
フィナーレ《大星花》:7日目夜
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素材集めと納品期間は残り四日。
フィナーレは七日目の夜。
最初の二日間はもう終わっている。
―――――
【JP-03 王都星花祭ランキング】
集計:二日目終了時点
1位 納品数 324
2位 納品数 298
3位 納品数 265
……
…
【ランキング報酬】
1位:《一番星の記念箱》+限定称号+限定浴衣
2位:《二番星の記念箱》+限定称号+限定浴衣
3位:《三番星の記念箱》+限定称号+限定浴衣
10位以内:《大星花・最上位記念箱》+限定称号
100位以内:《大星花・上位記念箱》
1000位以内:《星花祭・入賞記念箱》
10000位以内:《星花祭・健闘箱》
【個別報酬】
1回納品:《星花祭・参加箱》
10回納品:《星花祭・小箱》
30回納品:《星花祭・中箱》
50回納品:《星花祭・大箱》
100回納品:《星花祭・記念箱》
―――――
納品数は素材単品の数ではない。
《星花弁》と《星砂》と《星降の火種》の三つを揃えて、一回分として納めた回数だ。
上位三名に配られる《限定浴衣》は色を自分で選べるカスタム衣装らしい。
こういう季節イベントではたぶんそれが一番嬉しいだろう。
まだ見ていない場所がたくさんある。
俺はそれだけで、少し楽しみになってきた。
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ミナト:お、来てたか
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メッセージが飛んできた。
―――――
ミナト:今回も遅いな
ザン:いろいろ予定が重なって
ミナト:今回の星花祭、思ったよりも王都全体でやってるぞ。中央広場は人多すぎ。
ザン:今それを目の前で見てる
ミナト:中央広場にいるのか?
ザン:いる
ミナト:じゃあとりあえず合流するか
ザン:わかった
―――――
俺は普通に参加して、普通にフィナーレを見る。
そのつもりだった。




