第11話 ベルカ村便の報告書
目の前に浮かんだアイテム表示には、こう書いてあった。
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《ベルカ村便の報告書 控え》
薬草束:二十箱
包帯:十五箱
水袋:二十袋
ベルカ村便:第二便
備考:橋で荷崩れあり。薬草束一箱は回収できず。
確認:マーロ
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マーロ。
戦勝碑にあった名前の一つ。
焼けた戦場で拾った認識票。
俺はしばらく、その名前を見つめていた。
マーロの名は、もう王都の戦勝碑に刻まれている。
灰冠竜グラウム討伐戦で補給路を守った、第七補給隊の一人として。
でも、俺はその人がどこで何をしていたのかまでは知らなかった。
マーロはこの小屋でベルカ村から受け取った荷に関わっていた。
古い木橋で荷崩れがあった。
回収できなかった薬草束の箱があった。
その記録も含め、控えに残していた。
ベルカ村からこの小屋まで荷を運ぶのは、簡単なことではないだろう。
雑草に覆われた古い道を通り、森の奥まで荷を届ける。
何度も運び、数え、不足を調整し、次の場所へと送っていく。
そんな目立たない仕事を愚直に続けた結果、この道はまだこの先へとつながっていったのだろう。
その小さく目立たない仕事の記録に、マーロの名前があった。
戦勝碑に刻まれた一人の名に、場所と役割が戻った気がした。
俺はその控えを持ったまま、小屋の入口を見る。
木橋の下の泥だらけの荷札。
折れた道しるべ。
そこから続いていた道と壊れかけた小屋。
それらはばらばらに落ちていたわけではなかった。
視界にクエスト完了の文字が出る。
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《後日談クエスト:報告書の空白》を完了しました。
ベルカ村便の未整理記録を確認しました。
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さらに、報酬が表示される。
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獲得経験値:7
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「……少な」
思わず声が漏れた。
でも、不思議と嫌な感じはなかった。
後日談クエストは経験値を稼ぐためのものではないのだろう。
俺はあらためて《灰冠戦役・第七補給隊名簿》を開いてみた。その末尾には、新しい文字が増えている。
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《灰冠戦役・第七補給隊名簿》
関連記録:
《泥を吸った荷札》
《折れた道しるべ》
《壊れかけた小屋》
《ベルカ村便の報告書 控え》
未開示記録:《第二中継点》
必要な条件を満たしていません。
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後日談クエストは完了したが、《第七補給隊名簿》にはまだ先が現れていた。
――第二中継点。
マーロが確認した荷が向かった先。
そこへ続いているかもしれない道は、小屋の裏手からさらに奥へ延びていたあの道だろうか。
俺は《ベルカ村便の報告書 控え》をインベントリにしまい、小屋の奥へランタンを向ける。
派手なものは何もない。宝箱もない。
強い装備やレアなアイテムを手に入れたわけでもない。
それでもここは、灰冠竜討伐戦につながる場所の一つだった。
「まだ先があるのか」
この小屋はまだ終点ではないらしい。
俺は小屋の外へ出た。
森はもうかなり暗くなっていた。
やはり小屋の裏手にはさらに奥へ続く細道がある。
さっき見た時よりも、その道はずっと暗く見えた。
草は深く、泥の轍も途中で途切れかけている。
俺は一歩だけ、その道へ踏み出そうとした。
――その瞬間、画面に表示が出る。
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この先の記録は確認できません。
必要な条件を満たしていません。
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「……必要な条件を満たしてない、か」
《第二中継点》という場所の名前は見えているのに、そこへ続く道がまだ開かない。
レベルが足りないのか。
それとも、まだ拾っていない記録があるのか。
分からない。
それでも《第七補給隊》のマーロが積み上げたこの道の先をもう少し追いかけたかった。
橋の下で崩れた荷はここまで来た。
マーロが関わった荷はさらに先へ送られている。
けれど、今日はここまでだ。
後日談クエストの《報告書の空白》は完了している。
今の俺が追えるログも、ここで止まっている。
視界の端にシステムメッセージが出た。
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メンテナンス開始まで、残り十分です。
安全な場所でログアウトしてください。
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「……もうそんな時間か」
灰冠竜グラウムのあの焼けた戦場で、誰が最後の一撃を入れたのか、俺は動画で何度も見た。
でも、その前にどこかで包帯が使われ、水袋が渡され、薬草で立ち上がった誰かがいたのかもしれない。
その荷を、マーロはここで数え、前へ送っていた。
戦勝碑の下にあった小さな名前が、少しだけ近くなった気がした。
アップデート後、ベルカ村へ戻ったら薬草師マーサにもう一度話しかけてみたいと思った。
あの薬草師から始まったクエストを終えた今なら、何か違う言葉を返してくれるかもしれない。
俺は《帰還石》を取り出して使用した。
淡い光が手元から全身へ広がる。
光に包まれる直前、壊れかけた小屋の壁にかすかに残った泥の跡が目に入った。
王都の戦勝碑に刻まれた名前とベルカ村の外れにある壊れかけた小屋が、一本の細い道でつながっている。
メンテナンスが来ても、この記録そのものが消えるわけではないのだろう。
それでも変わる前のベルカ村で、この道を見つけられてよかった。そして次に来るときには、この先へ進めるようになっていたい。
帰還石の光が視界を包む。
灰冠竜の戦場から遠く離れた小屋が、最後まで淡く浮かんで見えていた。
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第2章ではベルカ村から始まった小さなログが少しずつ別の場所へつながり始めました。
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