お嬢様に匹敵する撫で使い登場!?
町から出ると、パパさんと共に馬車に乗る。
パパさんは乗馬のままで良いと言っていたんだけど、他の人との兼ね合いもあるからと、そうなった。
不満そうなパパさんを見て、新しい玩具を買って貰ったのに披露する場を失った少年のようだと、生暖かい気持ちになったよ。
馬車の中にはお嬢様とママさんもいる。
なんでも、王家主催の鷹狩りなので、多くが家族総出で参加するのだとか。
男性が鷹狩りをするのを、ご婦人達はお茶会をしながら待つとの事だった。
「わたしも鷹狩りに参加したいわ」
とママさんは愚痴っていた。
いや、ご婦人達のお茶会なんて凄く大変そうだから、それぐらいなら――って言ってるのだと思うけど……。
流石に無茶じゃないかなぁ~
なんて思いつつママさんを見上げると「乗馬の速度勝負なら、あなたにだって負けないから」と意地悪な笑みを浮かべて、パパさんを困らせていた。
案外、ママさんは体を動かす方が性に合っているのかもしれない。
そんな様子を眺めていると、お嬢様がわたしの背中を優しく撫でてくれる。
「キュー、余り無理しないでね。
怪我とかしちゃ駄目よ」
見上げると、お嬢様が心配そうに眉を寄せてた。
無論、こんなしょうもないことで怪我をするつもりなんて無いので〝大丈夫ですよお嬢様〟という気持ちを込めて「が! が!」と答えた。
わたしの考えが分かったのか、お嬢様は嬉しそうに微笑んでくれた。
鷹狩りの舞台となる草原にはお昼ぐらいに到着した。
到着すると、馬車の中でお嬢様達と共に、お昼ご飯を頂く。
と言っても、大した量は出ない。
お茶と小ぶりのサンドイッチを二つずつだ。
元々、この地方がそうなのか、この世界がそうなのかは分からないけど、お昼ご飯はさほど食べないので、まあ、いつも通りだ。
サンドイッチを頂き、お嬢様の膝の上でお昼寝をしようとすると、「ほら、行くぞ!」とパパさんに捕まれ、外に連れ出されてしまった。
えぇ~
もう少し、のんびりしようよ!
それにしても、天気が良い。
広々とした草原を太陽が照らしている。
流れる風も穏やかで、それに合わせて瑞々しい草の匂いを届けてくれた。
その中、使用人さんや騎士さんが忙しく白い布のテントの設営やら、石などを並べたカマドなどを作っている。
前世、体育大会にあった様な吹き抜けのテントには、紋章っぽいものが描かれていた。
王族専用かな? って思ったけど、それにしても並べられている椅子やテーブルが多いから、参加者の家族用かな?
貴族や来賓のご婦人やお子さん達が、あそこでお茶をしつつ、狩りの様子を眺めるのかもしれない。
本来であればわたしも、あそこでお嬢様とお菓子を摘まみたい所なんだけど……。
まあ、残念というか何というか、パパさんの左手の、鷹の着地用手袋の上に設置されたんだよね。
不本意だ!
意気揚々と愛馬の元に歩くパパさんを恨めしそうに眺めていると、従者っぽい人が駆けてきた。
「閣下!
国王陛下がお呼びです!
キュートリック殿と共に陣幕へお越し下さいとのことです」
え?
王様?
わたしは遠慮したいんだけど?
だけど、パパさんは鷹揚に頷くと、さっさと従者さんの後を付いていく。
えぇ~!
嫌なんだけど!?
わたしがオロオロしていると、パパさんが笑いながら「大丈夫だ! 両陛下共にお優しい方だ」などと言いつつ、大きい掌で撫でてくる。
いや、パパさんに言われても、正直なぁ~
せめて、お嬢様がいれば安心できるのに!
振り返るも、馬車の所で心配そうにこちらを見るお嬢様はどんどん小さくなっていく!
ちょ、パパさん、歩くの速いって!
心の準備ってものが必要なのに!
わたしがオロオロしている間に、パパさんは一際大きい、テントの前に止まる。
先ほどの物とは違い、きちんと覆われているまさに陣幕って感じのものだ。
パパさんは前を護衛していた騎士さんと、一通りやり取りした後、中に入る。
そして、わたしを右手に乗せたまま、片膝をつき頭を下げる。
いや、パパさんはそれで良いのかもしれないけど、わたしはどうすれば良いの!?
ちらっと中を見ると、豪奢な格好の――パパさんと同年代っぽい男女がニコニコしながら座っていた。
恐らく、王様と王妃様だろう。
その周りに、怖そうなおじさん騎士さんがずらりと並んでいる。
しかも、こちらを凝視してくる!
ひぃ!
怖くなり、パパさんの腕の上で頭を抱え、丸くなる。
すると、「クリスタリ侯爵、頭を上げてくれ」と声が聞こえてくる。
パパさんも「はっ!」と言いつつ顔を上げた。
「久しいな、侯爵。
元気そうで何よりだ」
王様の声音には親しげなものが混ざっていた。
年も近そうだし、昔からの仲良しさんなのかもしれない。
恐る恐る顔を上げると、パパさんが相好を崩しながら「恐れ入ります。陛下もご健勝の様子――」などと話しているのが見えた。
う~ん、わたし、もう帰って良いかな?
そんなことを考えていると、王様が「それで、そちらが侯爵自慢の竜君かな?」という声が聞こえてくる。
いや、わたし女の子なんだけど……。
恐る恐る視線をそちらに向けると――柔らかな表情のイケメンな王様――の周りにいる厳ついおじさん達にまたしても睨まれた。
ヒィ!
怖い!
耐えきれず、パパさんの腕にしがみ付く。
「大丈夫だから!」とパパさんが撫でてくるけど、怖いものは怖い!
王様の「怖がらせてしまったようだ」という困ったような声が聞こえてくる。
すると、上品なおばあさんの、おかしそうな声が聞こえてくる。
「あなたはともかく、ジョシュ達のしかめ面が怖いんじゃないの?
可哀想に」
それに、おじさんっぽい人の「王太后陛下、それは非道ございます!」という情け無さそうな声が聞こえてくる。
その声に、テントの中に笑い声が満ちる。
すると、誰かが近寄ってくる気配を感じた。
「侯爵、この子のお名前は何だったかしら?」
「キュートリックと申します」
とパパさんが応える。
「そう、キュートリックさん、大丈夫よ。
ここにはあなたを害そうとするものはいません」
そういいながら、背中を撫でられる。
顔を上げると、上品で、それでいて優しげなおばあさんの顔があった。
おばあさんというより、おばあ様って感じかな?
おばあ様はパパさんに「少し良いかしら」と断りを入れる。
そして、わたしの脇に手を入れると、持ち上げ、抱きしめてくれる。
柔らかな良い匂いが鼻腔をくすぐる。
いつまでも抱きしめて欲しいと思わせる温かさがあった。
何だろう。
胸の中が温かくなり、目頭が少しチクチクする。
この感覚、昔、味わったことがあるような……。
そんなことを考えているうちに、おばあ様は椅子に座ると、わたしを自分の膝の上にのせた。
そして、背中を撫でてくれる。
あ~お嬢様に匹敵する撫で心地、幸せぇ~




