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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します!~輝くステージで世界を照らす~  作者: 綾野あや
第2部

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第18話 軟禁


 あと、どれだけいればいいだろう。


 大きくため息をついて、再び傾きかけた太陽を見つめる。

 城に連れて来られ、聖女の部屋に閉じ込められてから二日目が過ぎようとしていた。


 この部屋は先代が使っていたため水回りまで備えついており、一歩も外に出ずに過ごせてしまう。

 つまりは、都合よく“軟禁”できるというわけだ。

 

 ロレッタさんが本を数冊持って来てくれたけれど、集中して読む気力が沸いてこない。

 部屋の中をウロウロして、外をぼんやり眺めて、ただ時間だけが通り過ぎていく。


(悪かった、とは思っているけれど……)


 何度も何度も心の中で反省会をした。

 確かに、アレクに相談しなかったのは良くなかったと思う。

  でも、あのとき他の打開策なんて思いつかなかった。エジュオさんの人生がかかった大博打だ。それでも彼は、私に選択肢を委ねた。魔法演出がなければ、あの曲は完成しないからだ。


 だからこそ、私には最善に思えたし、無事に演奏会までたどり着けたことは、正直ホッとしている。

 

 けれど、もしかしたら、アレクが考えていた作戦を邪魔してしまった可能性もある。

 それならば申し訳ないことをしたし、もっと安全な方法だったのかもしれない。


 ふいに、カタカタと窓が揺れる。


 顔を上げると、城下町のほうに薄い煙が立ち上っていた。


「っ!?」


 慌てて窓を開け、身を乗り出す。

 場所までは判別できないけれど、街の中心部のように見える。

 嫌な予感がよぎった。


(練習室……じゃないよね)


 ぞくりと悪寒が背中をなで、身震いが走る。

 

 ――誰かが傷ついてからでは遅いんだ

 

 アレクの言葉がよぎる。

 もしかしたら、ティトくんが何か起こしたのでは。

 そんな最悪な想像が頭をよぎり、そんな最悪の想像を振り払う。

 けれど、煙はなかなか消えず、追い立てるように心臓が早鐘を打ち、不安は膨らむばかり。


(あぁ、もう、なんで)


 本当に、こういう時こそ聖女の祈りで何かできればいいのに。

 出来ないとわかっているのに、もどかしくて苛立ってしまう。

 ただこうして、これ以上煙が大きくなりませんように、と私は手を合わせて願うことしかできない。

 マルタエルの再来なんて、笑ってしまう。


 所詮、魔法が使えても――私は『お飾り』なのだ。


 震える手を握りしめ、浅くなった呼吸をゆっくり整えようとした、その時。


 コンコン、と扉がノックされる。


「ハルカ様、ロレッタです」


「ロレッタさん!」


 私は駆け出してドアを開ける。

 彼女は私の慌てた様子に目を見開いた。


「いかがされましたか!?」


 私は彼女の手を掴んで窓へと引っぱっていく。


「あの、あそこ!」


 煙を指差し、矢継ぎ早に事情を伝える。

 動けない私に代わって、ロレッタさんに確かめてもらうしかない。

 不安と後悔が渦を巻き、思いのまま言葉が溢れた。


 そんな慌てふためく私に、ロレッタさんは真っすぐに私を見つめながら頷いていく。

 その真剣な眼差しだけで、胸がすっと落ち着いていく。


「――承知いたしました、ハルカ様。ただ、すぐに出向くのは難しい状況です」


 毅然と言い切る声が心地よいほど頼もしい。


「ですが、仔細を必ず調べ、ご報告いたします。しばし、お待ちいただけますか?」


 私は深く頷いた。

 彼女ほど心強いメイドはいないだろう。

 昨日も今朝も、何も言わず私の衣服や食事の準備をしてくれて、日々どれほど助かってきているか。

 今朝だって、洗面所には小さな花が飾れていた。

 

 そこでようやく気づく。

 ここまで献身的に仕えてくれる彼女に“嘘”をついていたのだと。

 作戦を始めるとき、私は何を考えた?

 

 ――ロレッタさんの目をどう欺くか、だ。

 

 思わず掴んだ手を、ギュッと握りしめる。

 じわじわと胸の内からせり上がってくる熱に、目頭が痛くなってきた。

 この世界に来た時から、ずっと一番近くで優しく見守ってくれていた人を裏切ったのだ。


 なんてバカなことをしてしまったんだろう。

 行動するよりも先に、もっと大切ことがあるじゃないか。


「……ごめんなさい」

 

 自然と謝罪がこぼれた。

 唇が震えて、涙が頬をつたい、そんな泣き顔を見せたくなくて顔を伏せる。

 泣いて許されるはずがないとわかっていても、目から涙が溢れて止まらない。

 

「ハルカ様。夜、お姿が見えなかった時、ロレッタはとても心配で不安でした。薄明竜様がご一緒でも、ハルカ様は聖女様なのですから」


 どこか母のような優しさで、そっと諭してくれる。


「どうか、今後はロレッタにも必ずお話しくださいませ」


 こくん、頷くと、彼女は茶目っ気のある笑みを浮かべる。


「この筆頭メイド候補を出し抜くくらいなら、一緒に巻き込まれた方がまだマシです。……ハルカ様は、お一人ではありません」


 その言葉にハッと顔を上げると、にっこりと得意げに笑ってくれる。

 胸が熱くなってきた。


 ――アレクも同じだ。


 彼は、私の行動自体を責めることはしなかった。

 ただ、“魔法も、私も、大切にしたかった”だけなんだ。

 一緒に頑張りたい、と言ったのに、自分勝手に突き進んでしまった。それで、嘘をついて、誤魔化そうとして、どうしようもない。

 自分の行動ばかり正当化しようとして、何も見えていなかったのは私の方だ。


「ロレッタさん……」


「なんでしょうか、ハルカ様」


「アレクに……謝りたい。もっとちゃんと、話せばよかったって。許してもらえるかわからないけど」


 ロレッタさんは苦笑すると、そっと包み込むように抱きしめてくれた。


「大丈夫ですよ、ハルカ様。殿下ならきっとわかって下さいます。殿下もまた、ハルカ様のことを大切に想ってくださってますから」


 優しく頭を撫でられると、ますます余計に泣きたくなって、嗚咽交じりに声をあげる。

 すると、幼子をあやすようにトントンと私の背中を叩く。そのぬくもりが沁み込み、涙はとめどなく溢れた。



 *


 

 夜、ロレッタさんは約束通り、城下町の件の詳細を教えてくれた。

 やはり、魔術の暴発事件だった。

 小さな少年が感情の高ぶりで魔力を暴走させ、近くの魔術士が鎮めたという。

 ごくまれにコントロールが効かなくなり、起きてしまうことがあるらしい。

 理由は不明で、しばらく少年は魔術を封じられることになった。


(ティトくん……)


 ずしりと身体が重くなる。

 この事件もまた、私のせいだ。

 安易に教え“魔術士”だなんて嘘をついた私の。


(何をやっているんだろう)


 分厚い雲が夜空を覆い、先の見えない闇だけが広がっていた。

 

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