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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第95話  臥龍岡夜助

挿絵(By みてみん)





 大日本帝国。岐阜県。養老山地内にある養老の滝。


 リアさんが独創世界を展開し、スサノオを異次元に幽閉。


 あれから、おおよそ3分ほどの時間が経過しようとしていました。


「……ひとまず、一命は取り留めたようですね」


 二名が消えた岩場を警戒しながら、私は言いました。


 独創世界の展開は、あくまで一時的なものに過ぎません。


 倒すか負けるか維持するか。いずれにしても終わりがきます。


 気を抜くはずもなく、赤槍を構え、二名の帰りを待っていました。


「だね。……リアが戻ってくるまでは安心できなさそうだけど」


 一方、桃子も同じ反応を見せ、周囲を警戒しています。


 喉の調子を整え、いつでも歌う準備はできているようでした。


 前もって歌っておかないのは、いつ戻るか分からないからでしょう。


 あの技はセンスの消耗が激しい。長時間維持するのは困難だと思われます。


「帰りを警戒するのは当然のことではあるが、二名もいれば索敵は事足りる。長期戦になることも考慮すれば、先にやるべきことを済ませた方が良いのではないか? 共鳴草とやらの持続時間には限りがあるのだろう?」


 すると小十郎さんは、長刀を構えながら問いかけてきました。


 まるで、戦況を俯瞰で見ているかのような、冷静で本質的な提案。


 問題は、彼らの好意甘えて、私だけの都合を優先していいのかどうか。


「あぁ、確かにそうかもね。行っといでよ。近くならすぐ戻って来れるでしょ」


 答えるよりも先に反応したのは、桃子さんでした。


 私の心情を読み、思考を先回りしたような温かい発言。


 ここで変な遠慮を出すのは、彼女たちに逆に失礼でしょう。


「ここは、お言葉に甘えさせてもらいます。その間、哨戒は任せましたよ!」


 後ろ向きではなく前向きに、後を託しました。


「任された!」


「お任せあれ!」


 心地いい返事に背中を押され向かう先は、滝裏の岩壁でした。


 ◇◇◇


 滝裏の岩壁を押し込み、歩みを進めた先。


 そこには、天然の鍾乳洞が広がっていました。


 天井からは、ポツポツと水滴が滴り落ちています。


 その先には湖があり、一点の濁りもありませんでした。


 ――反応があるのは、湖底。


 目視では確認できないほどの深みがあります。


 何やら嫌な予感がしますが、手ぶらでは帰れません。


「潜って確かめるのが手っ取り早そうですね」


 赤火大蛇を納め、背中に背負い、軽く屈伸運動をします。


 ほどよく全身の筋肉をほぐし、いざ飛び込もうとした時でした。


「――――――」


 ザバンと音を立て、湖から現れたのは黒い和服を着た男性。


 容姿は若く、二十代前半の美貌を保ち、長い黒髪が目に入ります。


 前髪が顔にかかり、襟足は長く、無造作に伸びたセミロングヘアでした。


「え……」


 思いがけない出会いに、私は言葉を失ってしまいました。


 その男性の姿に釘付けになって、瞬きすら忘れてしまいます。


 まるで一目惚れのような感覚。胸の高鳴りが止まりませんでした。


 同時に不貞行為をしているような罪悪感にも駆られ、心が乱されます。


 ――ただ、すぐに頭は冷えました。


 共鳴草の反応は、すぐそばにいると示していたのです。


 つまるところそれは、疑いようのない事実に結びつきます。


「夜助、さん……?」


 女々しく、弱々しい声音で私は確認を取りました。


 頭では分かっていましたが、身体と雰囲気がまるで違う。


 養老の滝の効能で若返ったのだとしても、違和感がありました。

 

 ――別人。


 何者かに乗っ取られているような感覚。


 先ほど抱いた嫌な予感は膨らんでいくばかりでした。


「………………」


 答えが返ってくることはなく、彼は懐に手を伸ばしました。


 取り出すのは白鞘のドス。まごうことなき、夜助さんの所有物。


 ――滅葬具『小刀しょうとう濡羽烏ぬればがらす


 言葉ではなく物体が、彼の正体を明らかにしていました。


 その上でどんな声をかけるべきなのか、頭を悩ませていた時。


「……っ!!!!」

 

 腕に焼けるような痛みが走り、私は反射的に後退しました。


 ボトリと私の右手が斬り落とされ、青い飛沫が地面を染め上げます。


(斬られた……。いつ……いいえ、どうして……っ!!)


 鬼の再生能力があれば、この程度の負傷は問題ありません。


 すぐに右手の骨と肉と神経が再生し、出血は収まっていきました。


 だからこそ気になったのは、襲われた事実よりも襲うに足る理由でした。


「…………」


 黒髪の男性は、黒い刃をこちらに向けてきました。


 問答無用で斬りかかるのではなく、言い分がある様子。


 情報を落としてくれるのなら、耳を傾けるしかありません。

 

「我ハ瀧鳴大神タキナリノオオカミ。穢レヲ払イ、恵ミヲモタラス者ナリ」


 無機質な声音で語られたのは、夜助さんの内に宿る者の名前。


 聞き覚えはないものの、闘いは避けられそうもありませんでした。

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