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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第67話 ダンテ・アリギエーリ

挿絵(By みてみん)






 トレーニングジム内で振るわれるのは、真っすぐな拳。


 相手はベクターもとい、ダンテ・アリギエーリという男性。


 外見と中身が違う人。拳とセンスを通じて、記憶が入り込んだ。


(戦い方はシンプルな割に複雑な人だな。僕が言えた義理じゃないけど)


 ジーノは首を横に逸らし、迫り来る拳を避ける。


 身体は温まっていたけど、心は驚くほどに冷めていた。


 戦うのは楽しいし、強い人は大歓迎。でも、興味は湧かない。


 ――本気で向き合えば心が壊れる。


 体質か感覚系だからか、手を合わせば大体分かる。


 知りたくないのに入り込む。相手にも伝わってしまう。


 割り切るためには、気にしないのが一番手っ取り早かった。


 それが、相手のためでもあり、自分のためになると信じていた。


 ――だからこそ全力で戦闘に没頭する。


「…………」


 ジーノは眦を決し、空振った拳を掴み、背負い投げる。


 相手を容赦なく地面に叩きつけるように力とセンスを込めた。


「――」


 ダンテは空いた片手を地面につけ、受け身を取っている。


 さらに倒立の体勢から足蹴りを放ち、掴んだ腕を払いのけた。

  

 ダメージを負わない立ち回りかつ、拘束解除狙いの反撃もセット。


 ――体幹と運動神経と筋肉の可動域が尋常じゃない。


 知識と技量があったとしても、一般的な肉体なら実現しない動き。


 操縦者が優秀なのは分かるけど、それに耐え得る器なのも間違いない。


「どっちを褒めればいいのかな?」


 後方に回転跳びし、距離を取った相手に賞賛の声を送る。


 一度崩れた体勢は整い、万全の状態で戦闘に臨もうとしている。


 彼のそばには懸垂マシンがあり、それを持ち上げ、力強く言い放った。


「無論、両方だ……っ!」


 ごもっとな意見と共に、器材は放り投げられる。


 重さ約50kgの物体が、時速160kmぐらいで迫っていた。


 避けることは可能。でも、他の人まで巻き込む可能性がある。

 

(――受けるしかない)


 両手を前に突き出して、ジーノは防御に徹する。


 体表面に帯びている白光を高め、両手に集中させた。


 まだまだ肉体は発展途上。相手は大人で、こちらは子供。


 それでも戦闘が成り立ってるのは、意思の力のおかげだった。


 思いの丈を光に変え、それを纏うことで相対的に劣る肉体を補う。


 光はセンスと呼ばれ、独自の色を放ち、体術や能力の全ての基となる。


 体術のことだけを考えるなら、広く知れ渡っている単純な方程式があった。


 ――肉体+センス=攻防力。


 仮に肉体が劣っていたとしても、センスで補えば戦える。


 逆もまた然りで、センスが未熟でも、肉体が強固なら戦える。


 内容はシンプルだけど、実戦の場合、見かけよりも奥が深かった。


(7対3ってところかな)


 攻防力の割合。7割のセンスを両手に集中し、3割を身体に纏う。


 両手の力は普段より増加するものの、身体の守りは薄くなる計算。


 そんな細かい調整で攻防は成り立ち、体調や局面や状況で変化する。


 ――センスに依存する使い手の場合は特にシビア。


 肉体の強度が劣る以上、割合配分をミスれば死に直結する。


 元々の肉体強度が高い相手だったとしても、同じことが言える。


 だからこそ、センスが薄い部分を狙うのが意思能力戦の基本だった。


「――――」


 ジーノは懸垂マシンを両手で受け止め、背後を警戒していた。


 敵目線の場合、最も効果的なのは、両手以外の部位を攻めること。


 今までは拮抗していても、身体の守りが薄くなった現在は話が違った。

 

 ――そこを叩く。


 懸垂マシンに押されながら、狙いを研ぎ澄ませる。


 まんまと攻めてきた相手にカウンターをお見舞いする。


 現在、身体に纏っている3割のセンスでも十二分に通用する。


 相手は攻防力を破るためにセンスを割き、他の守りが手薄になる。


 おおよそだけど、殺すなら10割。致命傷なら9割。倒すなら8割が必要。

 

 ――現実的なのは、8割。


 模擬戦という名目上、殺しにくることは考えにくい。


 そこまでの因縁もないし、そこまでの人でなしでもない。


 だからダンテは、8割を攻撃に、2割を防御に回してくるはず。


 ――こっちの3割の攻防力でも上回る計算。


 今までの殴り合いでは五分だったから、間違いない。


 攻め手以外は均等に守ることが一般的だから、恐らく通る。


「……」


 その読み通り、背後にはダンテの気配があった。


 立っている位置はトレーニングジムの窓際のギリギリ。


 センスを右拳に集中し、振りかぶる姿が見なくても分かった。


(……まだだ。まだ早い)


 懸垂マシンを受け止めながら、ジーノは気を伺う。


 引き付け、無知を装い、限界までダンテの攻撃を誘い込む。


 器材に押され、距離は縮まり、拳が届くかどうかの間合いが訪れる。


(――今!)


 機を見計らい、ジーノは背後に蹴りを放つ。


 拳をすり抜け、敵の胴体部分を攻め、センスを破る計算。


「「―――」」


 そのイメージ通り、拳と蹴りは空中で交差。


 互いの狙いは胴体。ダンテは背中で、こちらは腹部。


 ただ、ジーノの方が出だしが早く、先に胴体へとたどり着く。


 計算では攻防力で上回り、あわよくば決定打になる可能性もある一撃。


「…………?」


 しかし、手応えがない。腹部を捉えた気配がない。


 センスで遮られ、分厚い壁を蹴った感覚だけが残った。


 それどころか、足先がジンとして、バランスが崩れていく。


 懸垂マシンと共に空中に放り出され、追従するダンテは言った。


「俺の配分は2対8……。読み違えたようだな……」

 

 狙った箇所は8割の攻防力。3割の攻防力じゃ勝てない。


 単純でシンプルな敗因を理解した同時に、視界は暗転した。

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