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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第66話 ジーノ・ロマノフ

挿絵(By みてみん)




 ロシアでは、ロマノフ王朝という時代が存在した。


 1613年から1917年のロシア内戦まで続いた帝政となる。


 滅びた主な原因は経済的困難、社会的格差、戦争による疲弊。


 ――そして、皇帝の指導力不足。


 立憲君主制を受け入れる機を逃し、民衆の不満が爆発した。

 

 後に農民や労働者が決起し、社会的平等を志す赤軍が発足する。


 一方、その思想に反発して創設されたのが、民主主義を目指す白軍。


 両勢力により内戦が勃発し、結果、ロマノフ家は処刑されたと言われる。


「ジーノ・ロマノフ……。お前は……」


 ビルの屋上で衝突するのは拳と拳。センスとセンス。


 その最中、ベクターに憑依するダンテはポツリと口走る。


 拳とセンスを互いに交えることで初めて分かる感覚があった。


 ――レゾナンス現象。


 相手の感情や背景が流れ込み、相互理解が加速する。


 魂の波長が合う者同士が衝突し合うことで発生しやすい。


 言葉を介せずとも相手に伝わり、表面的に流れる時間は一瞬。

 

 ただ流れ込む情報量からして、内面的な時間は数年分に匹敵する。

 

「今は何も言わずに戦って、お願いだから」


 正面にいるジーノは拳を拮抗させながら、小声で語りかける。


 恐らく、中身が違うことに気付き、こちらも相手の事情を知った。


 ――秘密の共有。


 今は黙っておくのが、互いに有益と判断したようだ。


 こちらが口を割れば、正体を明かされるという抑止力もある。


(理解した。ここは同意させてもらおうかっ!)


 ダンテはジーノを真上に蹴り上げ、本格的な戦闘が開始する。


 選んだのは空中戦。本来なら重力に縛られ、動ける可動域は狭い。


 跳び上がり、地面に落下する軌道で戦うのがデフォルトの展開となる。


 ――だが、意思能力者の場合は常識が異なる。


「「――――――」」


 ビル群の上空で繰り広げられるのは、可動域の広い空中戦。


 宙を面として捉え、簡易結界で足場を作り、それを蹴りつける。


 おかげで地上戦と同様の攻防が成り立つ。意思能力者としては基本。


 高速で打ち出される拳と蹴りが、空中で閃光を散らし、覚醒都市を彩る。


「多少は壊しても構わんな……っ!」


 ダンテは束の間の隙に、両手を握り込んで、振り下ろす。


 金槌のように振るわれた一撃は、ジーノの頭部を叩きつけた。


 落下に抗えず、展開した簡易結界を砕き、ビル群に突っ込んでいく。


 ――その先は、住居棟の一室。


 集合住宅的な決まった間取りの狭いリビングだった。


 ブラウン管のテレビに、ソファ、テーブル、壁面収納棚。


 ソファでは、肩を寄せ合った夫婦が映像作品を鑑賞している。


「「…………」」


 日常を象徴する窓を割り、ジーノとダンテは不法に侵入。


 夫婦のテレビ鑑賞を遮る形で、互いに睨み合いを続けていた。


Привет(プリヴェート)(やあ)」


Как дела(カグディラ)? (調子はどう?)」


 見慣れた光景なのか、夫と嫁は侵入者を温かく出迎える。


 演技のようには見えず、気兼ねない挨拶の返事を待っていた。


「「絶好調だ(よ)……っ!!」」

 

 それ以上は深く考えることなく、パンチアウト。


 互いの頬と頬を拳で殴り、左右に分かれる形で退場。


 景色は流れ、再び見えてくるのは無数に建ち並ぶビル群。

 

 ジーノの姿は見えないものの、高速で接近する気配があった。


「……」


 ダンテは気配を頼りに狙いを定め、右手にセンスを集中。


 予想通り、ビルの隙間を縫って、背後から現れたのはジーノ。


 見えずとも察知し、手のひら台の意思弾を振り返りざまに投げる。


「――」

 

 しかし捉えたのは、ジーノの残像だった。


 高速で移動し、気配を絶ち、方向が読めない。


 正面にいないことだけは確実で、奇襲が主な目的。


 深く考える時間もなく、このままでは先手を取られる。


(――背後か)


 ダンテは経験と直感で決め打ちし、狙いを絞る。


 空中に足場を作り、左足を軸に背後へ回転蹴りを放つ。


「お返しするね」


 声が響く。位置は頭上。迫り来るのは飛び蹴り。


 細く小さな足底は、頭部を蹴り抜き、落下をもたらす。


 身体は斜め方向に空を切りつつ、別のビル群へと突っ込んだ。


「…………」


 窓を割り、支柱に背中を打ち付け、ようやく停止。


 パラパラと天井から小石が落ちてくるのが見えていた。


 他にはダンベル、懸垂マシン、ベンチプレスなどがあった。


 ――トレーニングジム。


 筋骨隆々としたロシア系の男性たちが筋肉を追い込む。


 こちらには見向きもせず、自身の肉体改造に夢中の様子だった。


「まだやる?」


 そこに訪れたジーノは上から目線で声をかけた。


 負けるとは微塵も思っておらず、余裕を感じられる。


 多少やるのは認めるが、舐められたままでは肉体に失礼。

 

「当然だ……っ!!」


 ダンテは継続する意思を示し、昂ぶる拳とセンスを打ち付けた。

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