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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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5-36 ティエスちゃんは期待する

「ティエス卿、ヘルメットはこれで問題ないでしょうか……」


「ああ、今見ますからちょい待ってくださいねー」


 最終も最終のチェック作業をいったん切り上げて姫様にかまうティエスちゃんだ。姫様、ヘルメットが曲がっていてよ? マジで命にかかわるのでちゃんと直してやる。既に厳重に遮蔽されているコクピット内は狭く、立ち上がって振り向くのですら重労働だ。でも今回は空飛ぶからなー。生命維持装備の肝みたいなところあるし、疎かにはできない。陸ならヘッドギアでいいんだけどな。

 姫様、どうも特徴的な犬耳が頭頂部にあるせいでフルフェイスのヘルメットをかぶるのに難儀している様子。普段は被るとしても半ヘルなんやろな。顔の造形は人間とそんな変わらんのだけど、獣人(ジューマン)ってのは大変だ。そのへん人間は余計なものが付いてないので楽でイイやね。

 ロックをかちりと言うまで嵌めて、よしこれでOK。


「ン、これでばっちりです」


「手間をかけます。すみません、作業中だというのに」


「なんのなんの。姫の御守も仕事のうちですから」


『――さすがに言葉が過ぎるぞ』


 機体の統合制()御イン()テリジ()ェンス()がなんか言ってるけど無視だ無視。悔しかったら作業アームでも伸ばして姫の身だしなみを手伝って差し上げろ。まぁそんな無駄な機能は付いてないがなガハハ。空戦機は軽さが命なのだ。


『コイツ……!』


「おっといけね、また口に出てたか」


 テヘペロしつつ、自分の席に着く。しかし座るとちょうど目線の位置に姫様のおみ足が来るのは、訓練で慣れたと言ってもドキッとするな。そのまましゃぶりつきたくなっちゃうぜ。冗談だよ。

 姫様の足が目線を遮るってことは側方の視界が死んでるってことなのだが、これについては問題ない。このヘルメット自体がHMD、ヘッドマウントディスプレイの機能を持ってるからな。技研がブースターと一緒に一週間ででっち上げた急造品だが、使用感は意外と悪くない。あいつらなんというかあらためて思うけどバケモンだな。ハカセをぶち込んだらどんな化学反応が起きるか、今から楽しみだぜ。きっとえぐい産業革命(イノベーション)が起きるぞ。


『ティエス機、出撃()すぞ! ケージ開放!』


 その時、整備区画中に響き渡る大音量で、俺の声が聞こえた。いや多分俺の声なんだろうな。人間、自分の声を改めて聞くとだいぶ違って聞こえるよな。ちょっと恥ずかしくなる。ハナッパシラ君はだいぶ俺のエミュレーションを頑張っているようだった。


「ハナッパシラ君が出るか」


 しかしまさかテンチュイオンⅡで出るとはね。てっきり自前のアーゼェンレギナで出るもんだと思ってたよ。量産機だけあって、カラーリングさえ誤魔化せば外見上の違いはないからな。ちゃんと歩けるんだろうか。…………おお、問題なく歩けてるな。ニアとかハンスが乗ったら開幕すっ転んでるだろうに、やはり俺の目に狂いはなかったらしい。副官やトーマスでも10歩歩けるかどうかだろうな。エリカたちの技量は正直分からんので脇に置く。いやほんと、ハナッパシラ君に任せて大正解だったぜ。


「ハナッパシラ殿には、つらい役目をお任せすることになってしまいました」


「どうかな。本人は結構、あれで楽しんでますよ。知らんけど」


「知らないんですか?」


 くすりと姫が笑う。そりゃまぁね。


「人の心の機微については保証できかねます。読もうと思えば読めますが、案外人間、思ってることとやってることがちぐはぐですからね」


「……そうですね」


 おっと。姫はすこしだけ声のトーンを落とした。思うところがあるんだろうか。あるだろうなぁ。自分の親父が国家転覆とかはかっちゃってるもんあぁ。

 俺はとりあえず話を変えることにした。


「それにしても、ハナッパシラ君の活躍をこの目で見れないのが残念ですな。テレビ中継でもあればよかったのに」


「テレビ中継?」


「あー、なんて言えばいいんですかね。強化鎧骨格の光画盤(モニタ)、あるでしょ」


「これですね?」


 姫は自分の目の前を指さして言った。そうそう、それそれ。


「こいつは機体のカメラから取り込んだ映像をなんやかんやして映し出してるわけですが、この光画盤を各家庭に設置して、カメラを遠隔地において線を引っ張れば、家にいながら遠くの情報を得ることができるワケです。これがテレビ中継」


「それは……とても有益なものになるでしょうね」


 電波とか言っても伝わらなさそうだしな。ヤギウタがどうのこうのとかうだうだ言っても仕方ないので、簡潔に概要だけを話す。姫にもしっかり伝わったようで、さっそく実用化の算段を立てているものと見える。強かだなぁ。俺は水を差した。


「現実的に考えれば、もうあってもおかしくないんですがね。それがなぜか、影も形もない。いやはや、不思議だなぁ」


「……………………不思議ですね。本当に」


 察したらしい。そうだよね。こんなん意図的に技術ツリーを歪めないとあり得ないからね。ずいぶん残念そうに溜息をついている。俺は小さく笑って付け加えた。


「とはいえ、今後はわかりませんぜ。何せこれから、我々は空を飛ぶんですから」


「……そうですね。この作戦が成功裏に終われば、帝国も黙ってはいないでしょう。禁が破られる可能性は高い」


「戦争は技術を加速させますからなぁ」


 俺はくつくつと笑う。姫も再び、空想の狸を捌き始めたようだ。まったくしたたかなことで。まずは目の前のでけー狸を仕留めねーと始まらないってのにな。

 いや、そこは俺の頑張り次第か。


「ともあれ、これで娯楽方面がもっと拡充されるなら、小官としては十分有意義な戦争です。この世界はとかく娯楽が少なすぎる」


「あら。まるで、ほかの世界を知ってらっしゃるような口ぶりですね? ティエス・イセカイジン卿」


「さてね?」


 姫と俺で、含み笑いのアンサンブルがコクピットに木霊する。話に混ざれなかったオティカが、どこか拗ねたようにランプを点滅させていた。

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