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普通嘘ついてたら表情でわかるものだよね?

 

「取り敢えずあの人たちを片付けないとね。」

「どうするつもりなんだ? 」

「ん〜、出来るだけ血は流したくないんだけど……。」


 酒場の隠し扉の先。階段を降りると、迷路のような地下通路が広がっていた。

 使われなくなった水道の一部を勝手に改造して隠し通路としているらしく、広い上構造はかなり複雑だ。

 構成員の案内がなければ部屋を見つけるまでもっと時間がかかっただろう。

 3人は曲がり角から覗き込み、隠し部屋の入口を確認する。見張りが1人と奥で話し合っている2人が見えた。


「まさか血が怖いとか?」

「血は怖くない。問題なのは身内だ。」

「君のとこの人は、ちょっとでも血の匂いがすると、誰が怪我させたって制裁下しに行こうとするもんね。ちょっと過保護だよ。」

「毎回止めるのめんどくさいから俺もやめて欲しいんだけどな。結局実害出てるのが俺じゃないのが厄介。」

「怖っわ。どんな身内だよ。」


 ちなみにこの身内には、ドクルハイト家の使用人たちも含まれる。家族を筆頭に"組織"の人間は皆、キルのことを溺愛しているのだ。

 彼らはキルが少しでも傷つけられることを許さない。

 むかし、キルが使っていた羽根ペンのささくれで怪我をしたことがあった。その1週間後には、それを作った工房は客が激減し潰れていたらしい。

 どこからともなく流れ始めた、その工房の羽根ペンは使うと呪われるという噂が原因で。


「そういうわけだから、血の匂いが着いて怪我を疑われるのは避けたいんだよね。」

「問題は無力化させた後どうするか、だな。顔を見られてる以上放置はできない。」

「かと言って、使える人もいなさそうだしね。」

「血を流さずに無力化しようとしてるところとか、顔を見られてやばいなら俺はどうなるとか、色々と言いたいことはあるがひとまず置いとくとして。

 後のことは俺に任せりゃいい。どうせ、お前らのことをボスに話さなきゃなんねぇし、説明ついでに引き取って処理しといてやるよ。」

「本当! ありがとう。」

「代わりに、わかってんだろうな?」

「もちろん。」


 処理をする代わりに魔道具の取り引きを守れよ、という意味でキルたちを睨む。わかっている、というふうに自信を持って頷いて見せるカイ。構成員もそれを見て納得してみせる。

 だが、ふと横を見ると呆れたように横目でカイを見ているキルが目に入った。何か嫌な予感がして口を開く。が、それが言葉になる前にカイとキルが動き始めてしまった。


「じゃ、行こっか。最近は体術の授業もなかったし、丁度良い運動だね。構成員さんは後ろの見張りだけよろしくね。」

「はぁ、やっぱりな。まぁいい、お前手前のな。」

「うん。」

「おい、何を……!」


 止める間もなく、潜んでいた角から2人が無音で飛び出す。

 見張りは余所見をしていて2人に気づかない。ようやく見張りが気づいた時には、もうあと5歩の距離まで接近していた。


「お、お前ら!」

「さっきぶりだね。申し訳ないけど、ちょっと寝ててね。」


 カイが男の振り上げた腕にぶら下がる。突然増した腕の重みに耐えきれず男が前のめりになったところを、その勢いのまま背中に担ぐようにして投げ飛ばした。

 背中を床で強打し、衝撃で一瞬息が止まる。その隙にカイは男のこめかみを強めに蹴りつけた。それだけで、意識を奪うには十分なのだ。


「僕には飛び蹴りで気絶させられるような身体能力は無いから、こうするのが1番早いんだよね。」


 カイが見張りの男に対処している間、キルは横を通り過ぎ奥の2人組と相対していた、と言っていいのだろうか。

 キルは通路から走って来た勢いをそのままに1人目の男の首に飛び蹴りをかまし、即気絶させさらに、咄嗟に殴りかかってきた男の腕を踏み台にし、空中で一回転すると、そのまま2人目の男に回し蹴りを当て気絶させてしまった。

 短すぎて相対したとは言い難いほどだ。


「……とんでもねぇ奴らと取り引きしちまったかもしんねぇ。」


 魔法にも殴り合いにも才能あるなんてずりぃ、などと誰にともなく文句を垂れる。


「構成員さん、先に進みましょう?」

「あぁ、今行く。」


 再び構成員が案内となって先に進む。接敵する度、キルかカイが無力化していったことは言うまでもない。

 いくつかの部屋とそこに待機していた敵を通り過ぎると、外から鍵のされた扉にたどり着いた。


「ここの中に攫われてきた商品たちがいる。」

「鍵かかってるね。」

「これぐらい蹴破れるだろ。」

「最初から物騒な方向に行くな。俺が鍵は持ってるよ。」

「それを早く言ってよ。」


 どこからか取り出した鍵をキルが受け取って差し込む。扉がゆっくりと開き、中の様子が段々と顕になっていく。


「人身売買の中ではまだマシな方とは言え、お坊ちゃんにはきついかもな。あっちで見てるか?」

「これぐらい大丈夫だ。綺麗な方だろ。」

「それがわかってる子供ってのが異常だって分かんないかなあ。」

「何か言った?」

「いいや、何でも。」


 中にいたのは、10人ほどの7歳から12歳ぐらいの子供だった。手足を縛られている様子はないが、3人が話しているのを部屋の奥に身を寄せあって聞いている。


「おい、誰だ。お前は見た事あるけど、お前らは知らない。」

「へぇ、ちゃんと見てんじゃん。」

「僕らはそうだね、通りすがりの救世主って思っといて。」

「救世主?」

「ただし、似非。」

「なんか言ったかな?」


 ボソッとツッコんだキルを見つめるカイの笑顔が怖い。顔は笑ってるのに目は笑ってなくて、ただただ怖い。

 キルは何も気にせず肩をすくませているが、横にいる構成員の方が気が気じゃなかった。


「まあいいや、君たち帰る家はある?」

「……ある奴もいる。」

「なら、自分で帰れるのは表通りまで案内して自分で帰らせるとして。ほかはどうする?」


 まだ警戒した様子を見せる子供たちだったが、カイの問いにひとりが代表して答える。

 半分以上が家という言葉に反応を見せた。それに気づいた構成員がひとつ提案する。


「そんなに数いないみてぇだから、俺のとこで一旦預かろうか? 」

「いいの? そっちの負担が大きくならない?」

「ずっとはさすがに無理だがな。取り引きの時に来るだろ? そん時までに考えてこい。」


 キルの疑わしげな視線が送られるが、カイの方をチラリと見てそのまま何も言わず離れていった。

 先程のキルとカイの立ち回りを見てから、実はずっと内心ドキドキしっぱなしな構成員だった。取り引きを承諾して良かったと心底思っている。


「分かった。じゃあ、そういう風で。後のことは全部頼んじゃっていいのかな? 」

「あぁ、さっき手伝いを呼んだからもうちょいで来るはずだ。」

「なら俺らは帰る。2日後にお前らのとこでいいか?」

「良いけど、お前ら場所わかんねぇだろ、って消えた!?

……ほんとなんなんだあいつら。」

この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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