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夕飯の時間が迫ってた

 

 太陽が頂点を少しすぎた頃、フードを目深に被った2人組が裏通りのとある宿屋を訪ねていた。表通りと違い、静かで、知る人ぞ知る穴場が立ち並ぶ裏通りは、この時間ポツポツと近所の住人が通るだけだった。

 ドアに着いたベルの音で、うたた寝しかけていた女将が来客に気づく。


「いらっしゃい。せっかく来てくれたのに悪いけど、今夜の部屋はいっぱいだよ。他をあたってもらえるかい?」

「こんにちは、お姉さん。でも大丈夫だよ、僕達は泊まりに来たわけじゃないから。」


 話しながら2人がフードを外すと、ふたつの対称的な色が顔を出す。


「取り引きのために来たんだ。橙色の百合のお頭さんに会わせてもらえる?」

「なんだって?」


 急にその場の空気が重くなる。女将がゆっくりと立ち上がり、カウンターから出て2人の間を通り過ぎドアの鍵を閉める。その雰囲気に2人も思わずいつでも動けるよう身構えた。

 そして、女将が振り返って言ったのは。


「まさか、デインが言ってたのが本当に来るとはね!しかもちゃんと子供じゃないか。本当にここを探り当てるなんてあいつが褒めるだけはある。」

「は?」

「歓迎するよ!アタシが橙色の百合のボスをやってる、シエラだ。よく来たね。奥に拠点があるんだ、そこでゆっくり話そう。」


 急な空気の変化に、思わずぽかんと口を開けたまま停止してしまう。女将はそれに構わず、両手で豪快に2人の頭を撫でるとカウンターの奥にあるドアから通路へと進んでいってしまった。


「……取り敢えず歓迎はして貰えるみたいだね?」

「だな。」

「何してんだい、早く来な! 」


 ドアの脇からひょっこりと顔を出して叫ぶ女将を2人は慌てて追いかけた。

 木造の宿屋はそこそこ年数が経っているようだが、構造がしっかりしているのだろう、床が軋むこともなく掃除も行き届いてとても過ごしやすそうだ。


「いつもあなたが受付してるの?」

「いんや、あそこはいつもは別のヤツに任せてるよ。今日はアンタたちが来るって言うから、アタシが直接見極めちゃろうって思ってね。」

「で、その結果は?」

「ハッ、デインの判断は正しかったよ。アンタたちを敵に回すのは些か面倒だから、ごめんだね。」


 外から見た時は分からなかったが、一般的な宿屋の奥行のさらに奥にまだ建物が続いていたらしい。おそらく、裏にある住宅のひとつと見えないとこで繋がっているのだろう。

 明らかに宿屋の外見より長い通路の、1番奥にある部屋の中に案内される。

 途中すれ違った部下らしき人に飲み物とお菓子の用意を言いつけていた。


「それにしても、会った時から思ってが、あんたも結構な実力者だな。ボスって言われたら納得だけど。道理でボスの情報だけはほとんど掴めないわけだ。」

「あ、やっぱり?僕はなんとなくしかわかんないけど。正直、闇組織の頭って言ったらすごい意地悪そうなおじいさんとか思い浮かべてた。」

「なんだいそれは。他のとこは知らんがね、ここでは性別も年齢も関係なく、いちばん強いヤツがボスになるんだよ。」

「へぇ、王宮とはすごい違いだね。王宮でシエラさんみたいに若い女性が高い役職につこうものなら、愚かな考えの人たちが大騒ぎするよ。そういう人たちが消えてくれれば、政治ももっと楽だろうにね。」

「全くだ。性別なんかになんの意味があるんだか。」

「ハッハッハ、子供がそんな擦れた言い方するんじゃないよ。」


 豪快な笑いと共に、ひとつに括られた真紅の髪が揺れる。

 口頭では注意しつつも、褒められて嬉しくないわけがなく、シエラも自然と頬が緩むのを止められなかった。

 実際、橙色の百合の中でも男の方が強いのだから男がボスになるべき、という考えを持つ者もいた。

 しかし、シエラはそんな男たちを超える実力を、技能と知力をもって証明し先代から後継者に選ばれたのだ。今では彼女を侮るものは組織内にはいない。

 とその時、ノックされると同時にドアが開き人が入ってきた。それは、飲み物とお菓子を持った、人身売買の現場でキルたちと取り引きをした男だった。


「よう、2日ぶり。」

「あ、こんにちは、その節はどうも。」

「こっちの話も聞かずに急に消えたからびっくりしたんだぜ。」

「最低限必要なことは話したし、こっちも急がなきゃいけなかったんだよ。」


 男が持ってきたお菓子に先にキルが手をつける。それを見てカイも一口飲み物を飲んだ。

 男が2人のむかい、シエラの隣に腰を下ろしたところで話し合いが始まる。


「さて、それじゃあ改めて取り引きの話を始めようか。アタシ達に幻覚の魔道具をくれるって云うのは本当かい?」

「うん、代わりに先の件の依頼人を教えて欲しい。それと、僕たちを顧客にしてくれたらうれしいな。」

「顧客?」

「顧客って言っても無理を言うつもりは無い。ただ、俺たちにも利用させて欲しいってだけだ。都度報酬は払う。」

「依頼を受けるのは構わないがね、アンタら子供なのに報酬を用意出来るのかい?」

「心配しないで。お金はちょっと用意するのが大変だけど、今回みたいな形でいいなら色々用意できるから。まず、今回の物を見てもらおうか。」


 キルに目配せすると、何も持っていない手に唐突に重さが加わる。現れたのは手のひら大の丸い円盤のようなものだ。

 パカッと蓋をあけられるようになっており、中央には鮮やかな色をした魔石がはめ込まれている。まるで懐中時計のような見た目だ。


「これが、幻覚の魔道具。これは使用者の動きに合わせた幻覚を見せるタイプだよ。蓋を開けて魔石に触れれば魔力が残ってる限りもう一度触るまで発動し続ける仕組みになってる。使用者をどう見せるかは、最大4つまで登録できるよ。」

「4つ! そりゃすげぇ。登録ってのはどういうことだ?」

「魔石を押した状態で、自分が見せたい格好をスキャンして。まあ、見せた方が早いかな。

 例えばだけど、キルの格好になりたいとしたらこうするんだよ。」


 隣で呑気にお茶菓子を頬張っていたキルに、カイが魔道具を向け魔石を押す。そのまま魔道具を頭から足の方までゆっくり動かしていく。

 頭まで戻ってきてから押すのを止め、もう一度軽く魔石に触れた。そしてパチンと蓋を閉めた瞬間。


「な!? ガキの姿が一緒に?」

「こりゃたまげた。今、魔法を使われてるのか、全く感じ取れないね。魔力の出力はどうなってんだい。それに、動いても違和感がない。これじゃあ、幻覚だって気づけるやつはいないんじゃないかい?」

「おそらく、宮廷魔法師団の大隊長ぐらいなら気づかれる。」

「つまりそれ以外は騙せるってことだろ。なら十分だ。貸してくれ、俺もやってみたい。」

「いいですよ。」


 魔石に触って発動を止めてから、カイがデインに魔道具を渡す。早速蓋を開けて発動させてみたり、シエラの姿を登録してみたりと遊んでいる。シエラも物珍しそうに、色々と試したり観察したりしているようだ。


「……玩具をもらった子供。」

「ふふ、確かに。」


この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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