第5話
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夢を見た。
暗くて、黒くて、明るくて、白い。
それを何というのか知っている。
闇
一面の闇
何も見えない一面の闇
その闇の中に僕は居た。なぜそう思うのかは分からないけれど。
踊る複数の影
数はわからないけれど、三つか四つ。
大きさはわからない、けどすごく小さい。
「―――」
何と言っているのか解らないけれど、意味は解る。
それは命令。
「―――」
何と言われているのか解らないけれど、意味は解る。
それは命令への反発。
「―――」
その言葉を合図に、やがて影が戯れだす。
解らないけど、解る。それは殴り合い。
「―――」
ただ、最後の言葉だけはまるで解らなかった。
それは、感謝か謝罪の言葉。
それは多分、小学校低学年の頃に起きた本気の喧嘩。
初めて感情をぶちまけた、子供同士の罵り合い。
何も見えないのに風景が見えて
何も言ってないのに自分が叫んでいて
何も聞こえないのに声が聞こえて
背理
現実には絶対に起こりえない真実と虚偽の螺旋。
だから、これは夢。
過去の出来事の焼き増し。
体の中心が熱い。
胸より下で、お腹より上。
熱くて、苦しくて、痛い。
ぽたぽたと頬に垂れる温かい何か。
それはきっと、自分が生み出したものでは無くて。
恥ずかしくて、悲しくて、優しい。
視界に光が差す。
それはきっと目覚めの合図。
そして僕は光に導かれるようにして闇を出た。
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