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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
それぞれの夜
34/34

幸城幸也と霧沢楓の場合

「~~~~~!!」


 その日の夜、僕は自室のベッドに横たわって悶えていた。

 じたばたと足を動かし、枕に顔を埋めて声にならないうめき声のようなものを上げる。

 壁掛けの針時計は夜九時を示していて、時折聞こえる階下の生活音と自分の発する音がやけに耳につく。


 僕は一体全体、何をしでかしてしまったのか


 ――僕は、君の事が、好きだ。

 ――僕は、霞さんの隣にいたい。


 確かに、あの時放った言葉は僕の本心である。

 不器用な僕が口に出せる、飾り気のない言葉。

 

 まぁ、百歩譲ってそれはよしとしよう。


 手のひら返しとか都合がいいとか、そういうのも全部置いておいて、彼女と『友達』になれたのだから、結果オーライというやつだ。


 でも問題はそこではない。


「調子に乗りすぎだろう、僕・・・・!」


 問題なのは、心地よかったからと抱きしめ返したところと、雨の中、手を繋いで歩いたところ。


 いやいや、いくらなんでもあれはやりすぎだ。

 少女漫画の登場人物でも、もう少し恥じらいというものがあるはずだ。


 でも、あったかかったなぁ・・・


 ああもう、そうじゃない!


 あの時のじんわりとした体温を思い出して、僕は再び悶え苦しんだ。


 何より驚くべきなのは、まだ霞さんと話すようになって一週間ほどしか立ってないという点。

 なんだか色々なことがあったようにも思えるし、無かったようにも思える。

 それなのに僕という男は早くも仲違いをしかけた上に、抱きしめたり手を繋いだりと展開が色々早すぎる。


 時期尚早


 とはいえ、行動や発言を取り消すことはできないのもまた事実なのである。

 僕の取った行動が正解か不正解なのか、誰か教えてはくれないだろうか。


 その後たっぷり三十分ほど一人で苦しんだのち、僕は携帯を取り出した。

 気晴らしに何か動画でも見ようかと思って電源を付けて、そういえば、と気づいた。


 一応仲直りしたこと、ちゃんと報告するべきなのかな。


 一番最初に啓一の顔が浮かんだけれど、ああして言い合いをしてしまった後ではなんだか気まずい。

 メッセージアプリを使って報告してもいいけれど、こういうのはきちんと僕の口から説明するべきだと思う。

 電話帳を開いて画面をスクロールしていると、流れてきた文字列の中に『霧沢楓』という三文字が見えて、僕はそこで指を止める。


 ――今度また、皆で遊びに行こうね


 あの時、去り際に残した言葉が蘇る。

 もしかしたら、僕らの仲直りを一番望んでいるのは霧沢さんなのかもな。

 そんなことを思いながら名前をタップして、通話ボタンを押した。


 あれ、ちょっと待て


 プライベートで女の子と電話するなんて、初めてじゃないか?


 ぷるるる、とスピーカーから聞こえる呼び出し音に、僕は緊張した。

 まずい、何から話せばいいだろう。

 まずは突然の電話に対する非礼から入るべきだろうか。

 いやその前にまずはちゃんと霧沢さん本人かどうか確認して・・・


 一度こうして電話をかけてしまった後では、もう引くに引けず、このまま流れに身を任せるしかない。

 何度も呼び出し音をループさせて、ようやくもしかしてもう寝てるのかもしれない、という思考に辿り着く。

 まぁ寝るには早すぎる時間だけれど、霧沢さんなら納得できなくもない。


 そう思って携帯を耳から離したタイミングで、呼び出し音がぷつりと途切れた。

 まずい、しつこい呼び出しに怒って切られたのかもしれない、そう思って携帯を見ると、表示された画面には『0:01』と表示されていて、一定間隔でその数字が増えていく。

 その上に『通話時間』と書かれていて、数字が6になったあたりで僕はようやく通話が繋がっていることに気が付いた。


「あ、あの・・・っ、も、もしもし・・・・?」

『は、ひゃい!もしみょし!』


 慌てて携帯を耳に当てて喋ったのだけれど、電話越しに聞こえる声もなんだか慌てているように聞こえる。

 もしかして、本当に寝てたりしたのだろうか・・・


「もしかして・・・」

 寝てた?と聞こうとしたタイミングで、上擦った声で返事が返ってきた。


『は、はい!楓です!霧沢楓ですっ!』

「あ、えっと幸城、なんですけど・・・」

『はいっ!今日はどのようなご用件でっ!?』

「あの・・・・今、大丈夫・・・?」

『大丈夫!わたしは健康です!』


 まるで会話が噛み合っていない・・・

 これはどうしたものか・・・



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 わたしはその日、ご飯とお風呂を済ませて家族とリビングでテレビを見ていた。

 時刻はすでに二一時半を示していて、液晶画面の向こうでは甲斐甲斐しく子猫を世話を焼く親猫の姿が映し出されている。

 飼っている猫を膝の上で撫でながら、わたしは別なことを考える。

 幸城くんと夜兎くんの口喧嘩に、霞さんの涙。

 ちゃんと仲直りできるといいなぁ、なんて、何度思ったかわからないことを考えながら、ぼんやりとテレビを眺めていた。

 

 不意に携帯が鳴ったのは、そんなときだった。


 テーブルに置いていた携帯が、好きな女性アーティストの声で恋を歌いだして電話の着信を告げる。

 電話だ、誰からだろう?

 そう思って、猫を起こさないように手を伸ばして手にとる。


 画面に表示されている、先日登録したばかりの名前にわたしは驚いた。


 ちょ、あれ、幸城くん!!??


「あ・・・わっ・・・」


 あまりの急な出来事に携帯を落としそうになり、空中で二度三度取りこぼしながらも床に落ちる前になんとかキャッチする。

 おかげで膝で寝ていた愛猫が慌てて飛び降りていった。


 なんで、どうして幸城くんから電話が・・・・!!


「何・・・姉貴、もしかして彼氏から電話でもきたの?」


 お風呂上がりの弟が、濡れた髪を拭きながら呑気にそう尋ねてきた。


「ち、違うもん!彼氏とかそういうのじゃ・・・!」

「何!?楓お前いつの間に男など――」

「あらあらまぁまぁ」


 弟の迂闊な発言に父と母が感化され、にわかにリビングが騒がしくなる。

 わたしはそれらを必死に否定しながら、二階の自室へ飛び込んだ。


 先ほどからずっと歌い続ける携帯はもうすぐサビに突入しそうだった。

 早く出ないと、そんな思いで指をスライドさせて電話を繋ぐ。


 あれ、何て返事すればいいんだっけ?


 電話口でのやり取りの仕方が頭からすっぽ抜け、携帯を耳に当てたままわたしは固まった。

 こういうときは「突然どうしたの?」とか「珍しいね」とかから始めるのかいいんだろうか。

 いや、まずは「元気?」とか体調を伺うところから入った方がいいんだっけ?


『あ、あの・・・っ、も、もしもし?』


 電話越しに聞こえる男子の声に、わたしは「もしもし」と返すのが正解だと思い出して、


「は、ひゃい!もしみょし!」


 思いっきり噛んでしまった。


『もしかして・・・』

「は、はい!楓です!霧沢楓ですっ!」


 かけ間違えてないよ!大丈夫!

『あ、えっと幸城、なんですけど・・・」

「はいっ!今日はどのようなご用件でっ!?」


『あの・・・・――大丈夫・・・?』

「大丈夫!わたしは健康です!」

 風邪とかもひいてません!


『あ・・・ええと・・・』

 スピーカーから戸惑うような幸城くんの声が聞こえてきて、私は返答を間違えたのかと思ってしまう。


 大丈夫、大丈夫だよわたし、落ち着いて、ほら、深呼吸して・・・


 すーはーと深呼吸を二つして、ベッドに腰かけながらわたしは答えた。

 いつも通り、受け答えすれば大丈夫・・・


「そ、それで、どうしたのかな?何か相談事、があるとか?」

『ああ、うん。相談というか、報告になるんだけど・・・』

「報告?」

『うん、報告。霞さんとは無事に仲直りすることができたよ』

「本当!?」

『本当だよ。迷惑かけてごめん』

「そっかそっか、よかったぁ・・・」


 わたしは安堵の溜め息をついて、目を閉じる。

 脳裏に教室での霞さんの涙を思い出して、また皆で出掛けることは無いかもなんて、そんなことが杞憂であったことに喜びを感じる。


「それで、何て言ったの?」

 このまま通話を終わらせたくないという思いと、単純に興味があったからそう聞いてしまった。


『・・・・・・好きだって、正直に言った』


「え゛・・・・・・」


 その瞬間、わたしは考える石になった。

 全身がぴたりと活動をやめ、脳だけがものすごい勢いでフル回転する。


 好きだ?

 誰が、誰の事を?

 そもそも早すぎない?

 なんでそんなことに?

 

 発熱するかの勢いでぐるぐると思考が回り、息が苦しくなる。

 息苦しさを覚えて再び呼吸を始めた時に、ようやく口が動いた。


「す、すすすす好きだって言ったんだ??」


『・・・・・・うん、自分で言ってて恥ずかしくなるけど、ああ言うしかなかったかな、って』


 またもやたっぷり間を置いて彼の声が耳から入って、脳を刺激する。


「そ、そそそそれで・・・・・・・どう・・・なったの?」


 自分でも馬鹿なことを言っていると思う。

 好きだと言って、仲直りすることができた。

 ならば当然その次にくる言葉は分かっているはずなのに、わざわざ地雷を自分から踏みに行こうとしている。

 けれど、そんなわたしの考えとは斜め上の回答が返ってきて、再び混乱することになる。


『・・・友達に、なった』

「はぇ?」


 友達になった?

 好きだと言って、友達になった?

 どういうこと?


「あの・・・言ってる意味がちょっとよくわからなくて・・・」

『ええと、まぁつまり・・・おかげで仲直りできたよってこと?』


 うん、少し整理しよう。

 まずは嫌いだという自分の失言に対して、好きだと返した。

 もしかしたらその好きという言葉はライク的な意味であって、ラブではなかった。

 二人の間でどんなやり取りがあったか分からないけれど、結果的に友達になれた。

 こういうことだろうか?


「そういうことだよね・・・きっと・・・」

『え?何が?』

「な、なんでもない・・・こっちの話」


 無理やりに頭を整理して、追及されないように再び口を開く。


「仲直り、といったら夜兎くんとはどうなったの?」

『ああうん、これからって感じかな。できれば直接会って話そうかと思って』

「ふうん、そっか」

『うん』


 ここでわたしはどきまぎさせられた仕返しに、こんなことを口走っていた。


「夜兎くんとは直接会って事情を説明したいのに、わたしには電話でいいんだ」


 電話越しに、う、とか、ぐ、とか聞こえて、わたしは少し後悔した。

 流石にちょっと意地悪すぎたかもしれない。


「ごめんね、ちょっとした冗談」

『・・・ああうん、なんか、ごめん』

「大丈夫、わたしもちょっと反撃してみたくなっただけ」

『反撃?』

「こっちの話、気にしないで」


 ここにきて、ようやくわたしの思考は普段通りになってきたのかもしれない。


「それなら、さ・・・」

『うん?』


 あれ?わたしは何を言おうとしている?


「わたしとは・・・友達になってくれるかな」


 やっぱり普段通りでは無いのかもしれない!

 できればもっと仲良くなってから、「わたしたち、友達だから」と胸を張って言えるよう努力すべきだと思う。

 わたしは色々と焦りすぎではないだろうか。


 電話越しにお互いが少し無言になって、わたしがその言葉を撤回しようとしたところで、幸城くんから言葉が返ってきた。


『・・・・・・うん、こんな僕でよければ友達・・・になってもらってもいい?』


 思いもよらない返事にわたしは飛び跳ねそうになった。

 たまには心のままに生きてみてもいいのかもしれない。


「ほ、本当に!?」

『こんな冗談言わないよ・・・というか言えない』

「そっか、そっかぁ・・・・」


 安堵の溜め息を吐いて、わたしは喜びを噛み締める。


「それじゃあ、改めてよろしくね、幸城くん」

『こちらこそよろしくお願いします』


 その後、夜兎くんとも仲直りするにはどうしたらいいかを少し話して、わたしたちは通話を切った。

 名残惜し気に携帯の画面を見て、わたしはようやく一歩目の関係を築けたことに安堵して、ベッドに上半身を倒す。


 脳裏によぎるのは、先ほどの会話と、思い出の一コマ。



 知ってるかな、()()()()


 楓の花言葉はね、『大切な思い出』なんだよ



 そしてこの後、扉の前で聞き耳を立てていた家族を説教したのは別なお話。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


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